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43 神の祟り5

「殺したくなんてなかった! 僕はミールさえ僕の傍にいてくれればそれでよかったんだ! だのに、あんな人間と一緒に行くなんて言うから! ……僕が殺したかったのは、あの人間だったのに! 庇って死んだのはミールじゃないか!!」


 キアリークの白い髪がザワザワとうねって、少年の体に収まりきれない大きな怒りが膨れ上がるのが見える。

 アイーシャは、お腹にグッと力を入れた。


「殺したのがキアだって事実は、変わらないわ」

「ミール!!!!!」


 バン! と力が爆発した。

 先ほどの何倍もの威力の力が一気に弾ける!




(ハハ、これは……さすがにキツいわね)


 アイーシャは、全身全霊でキアリークの力を破壊(・・)しようとした。

 かつては、いとも簡単に操っていたはずの破壊神の力を、今は苦労して放つ。

 その力は――――以前の万分の一にも届かなかった。




(…………我ながら、情けない)


 今はかろうじて破壊できているが、これではものの数分も持たないだろう。


(腕の一本くらいは持っていかれるかしら? 両手がなくなるとたいへんだから、片手ですめばいいんだけど)






 ――――アイーシャは、わざと(・・・)キアリークを怒らせた。

 カッとなって放った力で、彼女がいとも簡単に壊れてしまったら、キアリークの目が現実に向くと思ったからだ。


 己の半神であるタドミールを殺したそのときに、キアリークは自分の心を凍らせ周囲を見なくなった。悲しみに閉じこもり、どうにもならない己の感情に振り回されているのが、今のキアリークの状態だ。


 今日まで、アイーシャはそれでもいいと思っていた。

 心に大きなショックを受けたとき、立ち直るのに時間がかかるのは神も人も変わらない。

 いずれは時が傷ついた心を癒やし、荒れ狂う大海が凪ぐように心も鎮まるだろうと思ったからだ。


 しかし、カフィの祖父の話を聞いて考えを改めた。


(迷惑をかけるのが神ならまだしも、弱い人間を巻き込んではいけないわ)


 このままではいずれカフィの祖父は死んでしまう。

 それを止める方法があるのなら、黙って見ているわけにはいかないだろう。


(キアは、思い知らなければならないのよ)


 タドミールなんていう神はもういないのだということを。

 いるのは記憶と力の欠片を引き継いだ、ただの人間のアイーシャだけなのだと。その現実をきちんと受け止め理解したときに、ようやくキアリークは一歩を踏み出せるはず。


(せめて、自分で自分の感情をコントロールできるようになってもらいたいわよね? そうでなきゃいろいろ危険すぎるもの。……よくよく考えたら、キアなら世界を滅ぼす存在を創造することも可能だわ)


 全てを破壊する力を持っていたのは破壊神だったタドミールだが、キアリークの創造の力をもってすれば、タドミールには及ばないもののそこそこの力を持つ破壊者を作り出すことができるかもしれない。


(ううん。きっとできるわ! …………もう、万能な半神を持つと苦労が絶えないわね)


 本当はここで肩を竦めたいのだが、今はとてもそんな余裕がなかった。

 キアリークの力は圧倒的で、それに比べアイーシャはあまりに弱い(・・)


 いよいよダメかと思った瞬間――――

 なんと、アイーシャの前にザラムが飛び出してきた!



「タドミールさま!」



 闇の力を全開にして、ザラムはアイーシャを守ろうとする。


「下がりなさい! ザラム、あなたではキアに勝てないわ!」

「きさま! たかが闇の神の分際で、僕に逆らう気か!?」


 アイーシャとキアリークは同時に叫んだ。


 いつもであればそれだけで、ヘタレなザラムは即座に飛び退き姿を消しただろう。

 しかし、目の前のザラムは首を横に振った。


「私は…………もう、あんな後悔をするのは嫌なんです! かつて、私は恐怖からタドミールさまが喪われていくのをただただ見ているしかできなかった。……気がつけば、世界からタドミールさまの気配が消えて……あんな思いは二度としたくないんです!」

「ザラム――――」


 アイーシャは、言葉を失った。

 あのヘタレなザラムがキアに立ち向かっていくだなんて。


(私は、そんなにもあなたを傷つけたの?)


 強い後悔と同時に、ここまで自分を慕ってくれる存在を嬉しく思う気持ちがこみ上げてくる。


「私だって同じだ!」


 大声が聞こえると同時に、ザラムの隣にマナラが現れた!


「私もあの時なにもできなかった。……そしてあとに残ったのは、自分のなさったことに深く傷つかれたキアリークさまだった。私にもう少し勇気があったなら、キアリークさまをあんなにも悲しませることはなかったのに!」


 ザラムと並んでキアリークのためにアイーシャを守るマナラ。



 ――――って!


「マナラ、あなたカフィさんたちは!?」


 驚いて振り向けば、そこにいたのは四柱の神々だった。


「大丈夫! 俺たちがこの人間と人間の地を守ります!」

「だから、タドミールさま! 勝ってください!」

「死なないで!!」

「キアリークさまを救ってください!!」


 火の神、大地の神、水の神、風の神がそれぞれ大声で叫ぶ。




「…………あなたたち」


 無茶を言うなとアイーシャは思った。


(死なないではいいとして、『勝て』って――――今の私は人間なのよ)


 たとえザラムとマナラの加勢があったとしてもキアリークに勝てるはずなんてない。

 それくらいわかっているだろうに。


(まったく、困った子たちだわ)


 それでも…………アイーシャは、勝とうと思った。

 なにより、それがキアリークのためだと思うから。



「きさまら! 揃いも揃って僕に刃向かうとは!! ――――僕とミールの間に立つなんて、許せるはずがないだろう? みんなまとめて消し去ってやる!」



 キアリークの力が爆発的に膨れ上がった。


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