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26 テスト9

 そしてはじまった魔法のテスト。アイーシャは、最初から呆然としていた。


(……耐久性ってなんだっけ?)


 耐久性とは、対象とするモノが、どれだけ長い間持ちこたえることができるかを示す言葉である。耐久性が高ければ高いほど長持ちするはずなのだが――――。


(一瞬で壊れそう)


 アイーシャは「耐久性が高い」と教えられた的を半眼で睨んでいた。


「あの的には、ギルドでも名うての加護持ち七人の防御魔法が重ねてかけられている。七人と言えば察しのいい者は気づくだろうが、七柱の神全ての防御魔法がかかっているということだ。つまりあの的には属性による弱点がない。どの系統の魔法にも等しく強いということだ」



(…………等しく『弱い』の間違いでしょう?)


 試験官の説明に呆れかえったアイーシャは声もない。よくもこんな馬鹿げたことを考えついたものだ。


(それぞれの力が相殺し合っていて見る影もないわよね。防御に優れた土属性の魔法だけを七重にかけた方がよっぽど強い防御になるのに……)


 人間のやることは理解に苦しむ。

 まあ、たしかに大方相殺して消えているとはいえ、残っている部分も多少あるから、普通の攻撃くらいなら余裕で防ぐのかもしれないが。


(ひょっとしてわざと相殺させて強いところだけ残しているのかしら? それにしたってあんなにスカスカになっていたら、意味ないと思うけど?)


 防御魔法に必要なのはまず強度だが、同じくらい精密さも求められる。いくら強固な守りでも、隙があってはなんにもならないからだ。


 やっぱり意味がわからない。


 アイーシャが首を捻っている間に、いつの間にかテストははじまっていた。

 彼女の周囲で、テストの参加者たちが、各々に与えられた的に向かって攻撃魔法が放ちはじめる。


「ファイアアロー!」

「ウォーターランス!」

「ストーンハンマー」

「ウィンドカッター!」


 種々様々な魔法が放たれ――――的の前に散って(・・・)いった。



(え?)


 アイーシャは、再び呆然としてしまう。あまりに魔法の威力が弱すぎる(・・・・)からだ。


(うそ? あれじゃ生まれたての魔竜のあくび(・・・)よりも弱いじゃない)


「くそっ! さすがは七柱の神の力を持つ的だな」

「ダメだ。壊れない」

「やった! 俺は少しだが欠けさせたぞ!」


 そう言って喜んだのはモフセンだ。……ホントにホントの少し(・・)である。虫眼鏡がなければ見えないくらいではないだろうか?


(……ひょっとして、これが普通(・・)の全力なの?)



 アイーシャは考えて――――首を横に振る。


 彼らは、冒険者となることを目標にテストを受けに集まった、要は素人だ。

 つまり冒険者になる前のひよっこで、実力なんてあってなきがごときものなのだろう。


(つまり、とても弱い(・・)のよ! 彼らが人間の普通基準じゃないはずだわ)


 …………冒険者になろうと志す時点で、一般人より強いかもしれないということは、この際考えないことにする。


 世の中には冒険者になっていなくても強い人はいくらでもいる……はずだ。


(うんうん、そうよ! 絶対そうに違いないわ!)


 アイーシャが自身に言い聞かせていれば、試験官が彼女の方に近づいてきた。


「やはり君にはこの試験は無理だったかな。君は剣術と体術を最高得点でクリアしている。ただ、この魔法テストが零点だと、いくら他のテストの成績がよくても冒険者にはなれないんだ。的は破壊できなくてもいい。ほんの小さなかすり傷でもつけられれば、それで基準はクリアできる。頑張って魔法を使ってみてくれないか?」


 どうやら試験官に心配をかけてしまっていたようだ。

 アイーシャは、慌てて「大丈夫です」と答えた。


あれくらい(・・・・・)なら、問題なく壊せると思います」

「…………そ、そうか。無理はしなくていいからね?」


 試験官は優しい人だとは思うが、人を見る目はないようだ。気遣わしそうな視線に背を向けたアイーシャは、的と向き合う。


(……さて、どうしようかしら? ぶっちゃけ壊すのは簡単だけど、あまり派手にやらない方がいいわよね?)


 目立ちすぎるのは、アイーシャの本意ではない。考えこんだ彼女は、生活魔法のひとつを唱えた。


「ファイア」


 料理を作る際に使う魔法で、誰でも使えるものだ。

 的はメラメラと燃える炎に包まれる。


「ファイア?」

「え? ファイア?」

「あれが?」

「なんでいつまでも消えないんだ?」


 アイーシャの使った「ファイア」を見た周囲から、ざわざわと声が上がった。


(なにを不思議がっているのかしら? 調理用の火なのだもの、この程度の強さは普通(・・)でしょう? それに、そんなに簡単に消えてしまったら煮込み料理ができないわ)


 きっと、冒険者テストを受けるような人たちは自力で料理をしないに違いない。そう思ったアイーシャは、続けてもう一種類の生活魔法を唱えた。


「フリーズ」


 ものを凍らせる魔法だ。

 炎に包まれていた的が、今度はあっという間に氷に覆われる。

 次の瞬間、ビシッ!! と、的にひびが入った。

 高温の物体を急激に冷やすと、温度差による伸縮に耐えきれず割れることがあるのだが、アイーシャは、それと同じ現象を生活魔法で起こしたのだ。


 これなら誰でもできる(・・・)ことだし、きっと目立たない(・・・・・)に違いない。


(ものすごく地味だけど、合格できればそれでいいわ)


 同時に破壊のエネルギーもアイーシャの体内に入ってきて、心も体も満たされる。


(ああ、破壊っていいわね)


 ちょっとうっとりしながら、アイーシャは試験官を見上げた。

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