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18 テスト1

 翌日の空は、からりと晴れた青空だった。

 まるで前途を祝福されているようで、アイーシャの気分は最高だ。


(昨日の食事もおいしかったし、あとは私が頑張るだけね)


 料理だけではなく、一緒に食べた人々もみんな気持ちのいい者ばかり。


(さすがカフィよね。あれだけ良好な関係を築ける社交性は、見習うべきものがあるわ)


『……タドミールさま、私は悔しくてなりません! この街の者どもは、あろうことかこの私に飼葉をよこしたのですよ。このような屈辱を受けるなど……街ごと闇に沈めても腹の虫がおさまりません。どうか私に復讐のご許可を!』


 アイーシャとは反対にザラムは朝からご機嫌斜めだ。理由は、昨晩泊まったカフィの知人の宿で、使用人がカフィの馬と一緒にザラムにも餌として飼葉をやってしまったため。馬の世話は基本飼い主がするものなのだが、親切な宿の亭主が手を回してくれたのだ。


(今まで、頼まれもしないのにそんなことをする宿屋なんてなかったから、うっかりしちゃったのよね。それだけシャルディがいい街だってことなんだけど)


 それで、街を滅ぼされたりしたら申し訳なさ過ぎる。


『ダメよ。そんなことされたら私が冒険者になるテストを受けられないじゃない』


 アイーシャは、はっきりと否定の言葉を告げる。あやふやな言葉では、都合よく忖度されてしまうからだ。


『タドミールさまが冒険者になる必要などございません! タドミールさまのお世話は、このザラムが誠心誠意努めさせていただきますから』


 ザラムは、ヒヒンと力強く鳴く。


『まあ、ザラムったら優しいのね。でも、私は冒険者になってみたいの。だから、飼葉くらいで街を滅ぼそうとしちゃダメよ。だいたいあなたは馬なんですもの。飼葉をくれた人だって悪気はなかったはずだわ』

『悪気がなければ無礼を働いていいわけではありません!』

『それはそうだけど……でもやっぱりダメよ。その代わり、後で私がにんじんを食べさせてあげるわ』


 アイーシャの言葉に、ザラムは一瞬動きを止めた。


『……わ、私は馬ではありません』

『神なんだから、なんでも食べられるでしょう?』


 同時になにも食べなくてもいい存在でもある。


『……しかし!』

『私が、直接手に取って食べさせてあげるわよ?』

『タドミールさまが、御自(おんみずか)ら?』


 ザラムの馬の体がブルッと震える。


『……食べます! にんじんでも飼葉でも、タドミールさまが食べさせてくださるならなんだって食べてみせます!!』


 ブルルと鼻息荒くザラムは宣言する。……ちょっとチョロすぎだろう。

 これで闇の神なんてやって大丈夫なのかと心配になった。


「ハハハ、ザラムは気合いが入っているみたいだな」


 すると、そのタイミングで一緒に冒険者ギルドへ向かっているカフィが、朗らかに話しかけてくる。

 たった今、闇の神によるシャルディ滅亡の危機がなくなったばかりだなんて、思ってもいないだろうことは間違いない。


「午前中は筆記でしたよね?」


 アイーシャが聞けば、カフィは大きく頷いた。


「ああ。でも心配はいらないよ。冒険者になろうって奴はほとんどが力自慢で、真面目に勉強するようなタイプは少ないからね。筆記試験は最低限の読み書きと簡単な計算さえできれば十分なのさ。その読み書きだって、どうしても公用語を使う必要はなくて母国語で回答しても大丈夫だなんだ」


 元々シャルディはノーティス国の一地方。そうであれば、ノーティス語を母国語としていそうなものなのだが、基本使われるのは各国共通で使われる公用語だった。交通の要所として発展した交易都市ゆえのことかもしれない。

 公用語の発祥は神殿だ。神が神仕と話すためにできた言語で、当然アイーシャは不自由なく使える。


「公用語で回答できますよ」

「さすがアイーシャ。それじゃ、午前のテストが終わったら一緒にお昼を食べよう。午後も頑張れるようにスタミナ満点の料理をおごるよ」


 おごるもなにも、もうずっと食事の経費はカフィが出している。ますます増える借り(・・)に、アイーシャは、冒険者登録ができたらなにより一番に魔竜を狩ろうと決意した。


(もちろん、絶滅させないように加減をしながらだけど!)


 たぶんきっと大丈夫だ。……いざとなったらザラムが止めてくれるだろう。


「午後の剣術のテストは――――」


 ギルドに向かいながらカフィがテストの傾向と対策を教えてくれる。ありがたいなぁと思いながら、アイーシャは耳を傾けていた。

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