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17 冒険者ギルド6(カフィ視点)

「――――へっ?」


 思わず間抜けな声をもらしてしまった俺は、たった今閉まったばかりのギルドの正面扉を凝視した。

 当たり前のように開けられて、当たり前のように閉められた大きな扉。

 ゴシゴシと目を擦り、ついでに頬をつねれば、地味に痛い。


 そっと視線を動かせば、三白眼を思いっきり見開いている――――と思われるザックがいた。

 いや、こいつの目はわかりにくすぎるだろう!




「……正面扉、開閉をし易く改造したのか?」

「そんなわけないだろう!」

「だよなぁ?」


 しかし、だとしたら、今目の前で起こった現象をどう説明したらいいのだろう?

 なんの変哲もない普通の扉のように開けて閉めて出て行ってしまった少女(・・)のことを。





 ――――俺が、最初アイーシャに声をかけたのは、彼女がわかりやすく悪漢に絡まれていたからだった。立派な黒馬に乗った身なりのよい、見るからに良家の坊ちゃん然とした少年。そんな世間知らずそうな子どもがガラの悪い二人組に絡まれていたら、助けようと思うのは当然だろう。

 なにより、そのまま見過ごしてしまったら、今日の酒がまずくなる。


 兄のふりをして声をかけ、なんとか話を合わせてくれればと願えば、少年はきちんと察してくれた。

 それどころか、悪漢二人を脅して追い払ってしまう。


「あ~その、いらぬお節介だったかな?」


 少年は笑ってそんなことはないと否定してくれた。

 なんだか子どもらしからぬ不思議な子だなと思いながらも、放っておけずに当面の同行を申し出れば礼を言って受け入れてくれる。


 そうして俺は『アイーシャ』の道連れになった。


(でもまさか女の子だとは思いもしなかったけど)


 ものすごく可愛い子ではあったが、それだって女の子のひとり旅なんて想像できるはずもない。


(しかも、『加護なし』だったなんて)


 あちこち旅をしてきた俺だが、今まで加護なしに会ったのはたった一度きり。

 しかも、そいつも元からの加護なしではなく、神罰(・・)で加護を喪ったという男だった。


(たしか滅多にいない創造神(・・・)の加護持ちだったみたいだな。加護を授けてくれた創造神に入れこむあまり、創造神に害なすという喪われた神(・・・・・)の痕跡を捜し、ついに見つけて壊そうとしたら神罰をくらったって言っていたけど)


 どこからどう聞いても眉唾物の虚言だ。

 喪われた神なんて聞いたこともないし、そもそも、どうしてそれで神罰をくらったのだろう?


(創造神に害なすものを壊そうとして罰を受けるなんて、あり得ないだろう?)


 きっとその加護なしの男は、よほど非道なことをしたに違いない。他人に言えないから、嘘を言いふらしているのだと思った。



 ――――加護なしは、本当に悲惨だった。


 かろうじて生きるのに必要最低限な生活魔法はできるのだがそれだけで、あとは激しい炎も大量の水も呼び出せない。素早さもなく力強さも持ち合わせず、癒しの力もなければ呪いもできなかった。

 ましてや無から有を生み出す創造の力なんて望むべくもない。


(様々な属性を持つどんな獣との相性も最悪だったしな。そいつは、辺境の村に住んでいたけど、村の仕事として最底辺の家畜の世話さえできずに、物乞い同然の暮らしをしていた)


 しかし、アイーシャは加護なしと言いながらも、愛馬ザラムに乗っている。その上「冒険者になろうと思っている」のだと、なんの気負いもなく言ったのだ。


 ――――加護なしが、冒険者になどなれるはずもない。


 それが世間一般の常識で、誰だってそう言うに決まっている。

 それでも、なぜか俺は、彼女ならばなれるんじゃないかと思えてしまった。

 会ったばかりの年端もいかない少女相手に。


 単なる直感だが、こういったときの俺の直感は外れたことがない。これまでも、この直感にはたびたび助けられてきたし、きっと今回もそうだろう。


 もっとも、アイーシャが冒険者になる道が茨の道であることは間違いなかった。


 だからこそ、途中で強引に目的地を変えてまで同行してきたのだが――――。




(ひょっとして、やっぱり今回もいらぬお節介だったりしたのか?)


 ギルドの正面扉は、開閉するのに強い加護の力(・・・・)がいることから、神に愛されたモノにしか開けられないのだと言われている。

 ザラムは馬だが、あの馬がただの馬でないことは一緒に行動すればすぐにわかった。

 俺の馬は風の神の加護を持っているのだが、それよりも数倍――――いや比較にならないくらいに優れたザラムが、なんらかの神の加護持ちなのは間違いない。


 だから、ザラムが扉を開けたことは不思議でもなんでもなかった。


 しかし、たった今、アイーシャは自分の手(・・・・)で扉を開け閉めして出て行ったのだ。

 加護なしの少女が。




「ハ…………ハハハ! やっぱりアイーシャはスゴイや」


 心の底から笑いがこみ上げてくる。


「笑い事か! 今目の前で、とんでもないことが起こったんだぞ!!」


 堅物のザックが怒鳴っているけれど、そんなものアイーシャ(・・・・・)なんだから仕方ないだろう。


「クソッ……誰か、その扉を開けてみろ! 壊れているのなら至急直さなくてはならないぞ。それと、誰か神官を呼んでこい!!」


 おそらく扉は壊れてなんていない。

 なぜか俺はそう思う。


(明日のテストが楽しみだな。そのためにも今日はアイーシャに思いっきりうまいものをごちそうしなくちゃ)


 なにを食べようか?

 ついつい緩む頬をおさえながら、俺はシャルディの名物料理を思い浮かべるのだった。

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