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11 盗賊退治4

 もちろん、アイーシャはカフィの戻ってくる前に、無事ベッドに潜り込んだ。

 ここから一歩も動いていません! というなに食わぬ顔でカフィを迎え、「お帰りなさい」と笑って告げたのだ。



 ……なのに、どうしてこうなっているのだろう?


「俺は君と一緒にシャルディに行くからね。これは決定事項で覆すつもりはない。こんな物騒な場所に君ひとりで旅立たせるなんて、とてもできないよ」

「でも、カフィさん――――」

「ダメだ。悪いけれど君の言うことは聞けない。町を襲った盗賊たちは全員捕らえたが、仲間がきっとどこかに残っているはずなんだ。まだまだ安心できない」


 ――その仲間は、既にアイーシャが成敗済みである。


 しかし、それを伝えるわけにはいかなかった。

 もうしばらく待てば、町で捕まえた盗賊たちが口を割り洞窟のことを話すだろう。そこを確認すればアイーシャの捕らえた盗賊たちが発見されるはず。


 そうすればカフィの心配はなくなるのかもしれないが……アイーシャの立場が別の意味で危うくなってしまうのは、間違いない。


(……だって、私ったら盗賊を倒すとき顔を隠すのを忘れちゃったんだもの)


 人間となってはじめての戦いに気持ちが昂るあまり、アイーシャは自分の正体を隠すことをすっかり失念していた。夜闇でよく見えなかったとはいえ、盗賊たちはアイーシャの背格好くらいは覚えているはず。はっきり「子ども」と言っていたものもいたし、面通しされればアイーシャが彼らを倒した人物だと断定される可能性は低くない。


(その前に、是が非でもこの町を離れなくっちゃ!)


 あんなに弱い(・・)盗賊たちを倒すことくらい、ちょっと腕の立つ人間ならば誰でも簡単にできるはず。だから、そのこと自体はまったくたいしたことではないのだろうが――――。


(なんと言っても私はまだまだ子どもなんだもの。子どもが大人を倒したというだけで目立ってしまう可能性は捨てきれないわよね? ……お父さまもお母さまも、きっと私を探しているわ。ここで目立って連れ戻されるのだけはごめんだもの)


 カフィにかける迷惑への呵責と連れ戻されることへのデメリットを秤にかけたアイーシャは、本当に申し訳ないなと思いながら、カフィの申し入れを受けることにする。


「ごめんなさい」

「大丈夫。タヌモのダンジョンは逃げないからね。半年後の楽しみができたと思えばなんてことないさ」


 本当にカフィはいい人だった。

 彼に会えたことは、人間となったアイーシャの一番の収穫かもしれない。


 ザラムの背に乗り、カフィと並んで旅しながら、アイーシャはしみじみとそう思う。


『フン。このような取るに足らぬ人間がタドミールさまと同道するなんて、不敬以外のなにものでもありません。それを黙って見ているしかできない我と我が身が不甲斐ない!』


 もっともザラムはものすごく不満なようだった。

 でもまあ、彼のこの性格は今にはじまったことではない。ザラムは自分以外の存在がアイーシャに近づくことを極端に嫌うのだ。


『シャルディに行くまでの間だから我慢しなさい』

『そう言って、またこの男がその後の同道を申しこんできたら、どうなさるおつもりですか?』

『彼と私は同じ冒険者になるけれどランクが違いすぎるわ。高ランクのカフィと初心者の私が同道するなんてありえないわよ』


 冒険者同士が同道するとなれば、当然パーティーを組むことになる。

 冒険者パーティーには個人と同じくランクがあり、一般的にそのランクは、仲間の中で一番低いランクを持つ者を基準に決められるのだ。つまり、SランクやAランクが多いパーティーであっても、その中にFランクの人間がひとりでもがいれば、パーティーのランクはFとなる。受けられる依頼もFかひとつ上のEランクに限定されるため、高ランク冒険者にとって低ランク冒険者とパーティーを組む旨味はひとつもない。

 一見不合理に思われる制度だが、ランクによって受けられる依頼が決められるシステムを持つ冒険者ギルドとすれば、これは当然の措置だった。


 理由の一つは安全面から。

 そしてもうひとつは、不正防止のためだ。


 パーティーで得た経験値はメンバー全員で均等分される。つまり、低いランクの冒険者でも高ランクパーティーに入っていれば、なにをしなくとも多くの経験値をもらえるのだ。そんなやり方でランクアップした冒険者が使いものにならないのは言うまでもない。


 もちろんアイーシャもそんな実力を伴わないエセ冒険者になるつもりはなかった。たとえゆっくりでも自分の実力でランクアップしたいから、当分はソロで頑張るつもりだ。


『それならいいのですが……しかし、タドミールさまの実力が人間の決めたランクに左右され限定されるなど、それはそれで業腹です!』


 ……面倒くさい男である。


「次の町の名物は、ツルツルシコシコの麺料理だよ。のどごしがたまらないんだ」

「わぁ! 本当ですか。楽しみです!」


 それに比べてカフィは旅の知識も豊富でとても頼りになった。


「シャルディに着く手前の山には隠れ滝があるんだよ。かなり大きいのに普通のルートでは見えなくてね。迫力満点だから見ていくかい?」

「はい! もちろん」


 カフィと一緒に行くことにして本当によかったと思う。

 それが顔に出たのだろう。ザラムが悔しそうな思念を送ってくる。


『……くっ! タドミールさま。滝のひとつやふたつ、もしもタドミールさまがご所望なら、私の力ですぐに作ってみせますからね!』



 負けず嫌いにもほどがある。


『やめなさい!!』


 アイーシャは、楽しいカフィと疲れるザラムと一緒に、都市国家シャルディを目指し旅を続けた。


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