転生無双をしたかった……
荒くれものが集う冒険者ギルド。昼間から冒険者達の騒がしい声が外まで聞こえてきている。
「よし……入るか」
俺の名前はリュウイチ転生者だ。仕事を大量に押し付けられ、過労により死亡したが再び目を開けると赤ん坊に生まれ変わっていた。ただ、普通の人間ではなく半竜人に転生した。
この世界に生まれてきて15年。この世界の常識についてもある程度分かってきた。この世界の特徴としては種族間に軋轢があることだ。種族にも色んな種族がいる。人族や獣人族などだ。この世界では種族間の交流が殆どない。というか、他の種族の国には入れない。入ろうものなら捕らえられるだろう。
そんな世界で最強の種族と云われている竜人族。と人族のハーフに生まれた。見た目は人族とそこまで変わらない。竜人族の特徴的な鱗は半竜人だと意図的に鱗を隠すことができる。勿論、半分とはいえ竜人族の血が入っているし転生者ということもあってかなり強いはずだ。そういうことで、堂々と人族の国、ウロバス王国に父親を捜しに侵入するのだった。
ようやく、俺の冒険が始まるのか。楽しみで昨日は夜しか眠れなかった。そうして、冒険者ギルドの扉に手を掛け、冒険者ギルドに入る。
おーこれが冒険者ギルドか……
人多いな。沢山の人や異世界ならではの服装、掲示板らしきもの、受付が視界に映る。
入って違和感を感じていた。何か、凄いみられてるんだが?新人だからか。転生してからも殆ど家族としかコミュニケーション取ってないし、前世も陰キャだからこういうのやめてくれよ。厳つい人凄い睨んでくるし早速だけど帰ろうかな……
冒険者登録してさっさと逃げるか。そう決めた俺の行動は速くすぐに受付に向かって歩き始める。
「おい、お前。見ねー顔だな。少し付き合えよ」
俺の行く手を塞ぎながら声を掛けてくる厳つい顔をしたおっさん。身長180㎝位で体格もそれなりにある。
テンプレ展開来ちゃー。まあ、いざとなったら反撃出来るようにしておくか。半分だけとはいえ最強と云われている竜人族の血が流れてる俺が本気を出すまでもないか。
「すみません。用事があって。退いてくれますか」
「おい若造、先輩が付き合えって言ってんだよ」
退ける様子がないので無視して押しのけて通ろうとすると途轍もない速さで腹を狙った拳が放たれる。
マジかよ。いきなり手だしてくるのかよ。しかも、凄い速さだ。迫る拳をギリギリでガードし反撃に出る。
「ほう。これを止めるとはやるな」
「頭おかしいのかおっさん。今の攻撃当たり所が悪ければしぬかもしれないぞ」
何でこんな強いんだよ。おかしいだろ。テンプレ展開だと俺がボコボコのけちょんけちょんにして返り討ちの場面のはずだろ。こちとら、半竜人族で転生者アドバンテージあるんだぞ。何でこの輩みたいなのが強いんだよ。
「ここの新人は全員俺の拳を食らうことになってんだ。ガッハッハッハッハ。だから、お前だけ食らわないってのは今まで食らってきた奴が……」
一気に加速して拳を放ってくる。
「可哀そうだろうがー」
「じゃあ、殴るの止めろよ」
その拳をギリギリで何とか防いでいた。反動が凄くて反撃はできなかった。っていうかどうしようか、なんつー威力だよ。これはガードは悪手だな。
「守ってばっかじゃ勝てないぞ。まあ、攻撃しても勝てんがな。ガッハッハッハッハッハ」
「うるせえよ。そんなの言われなくても分かってるての」
ほんとにムカつくゴリラだな。しかも、本当に心の底から思ってそうなのが余計にな。このゴリラに竜人族で転生者の力を見せてやるか。そうして、態勢を立て直し脚に力を込めて、一気に加速する。近づいて蹴りを首目掛けて放つ。
「おお、速いじゃねーか。あぶねーあぶねー」
まだ、余裕がありそうな態度を取りながら俺の攻撃をのらりくらりと躱す大男。何でこの巨体でこんな軽い動きができるんだよ。しかも、人族でありえないだろ。竜人族の体と俺の日々の鍛錬で漸く可能な速度からの蹴りだったんだが。あれしかないか。
「これでも駄目か。お前それだけの強さだ。金はあるんだろ。お前に攻撃当ててやるから修理代払えよ」
「くっくっく。面白い。俺に攻撃を当てるか。良いぜ。修理代は気にせず全力でこいや」
正直、乗ってくれるとは思わなかったが……竜人族が最強と云われる理由は強靭な肉体だけじゃない。膨大な魔力と竜人族固有の魔法が最強と云われる理由だ。転生してから魔法の練習もかなりしている。流石に人族の国で竜人族の魔法を使う訳にはいかないが。
魔力を使い魔法を発動させる。
「インフェルノ」
何の魔法を使ったか分からないように小声で言うと、深紅の炎がギルドを燃やし尽くすと言わんばかりのスピードで小さかった炎が一瞬にして、燃え広がっていく。
「お前、ギルドにいる人全員を殺す気か!正気かお前」
あっ、ヤバいヤバい早速人殺しになっちゃう。初めてのギルドで浮かれてた。水属性の魔法は苦手だし……あれ、詰んだ。人殺しとして指名手配される。母さんごめん。無理いって出て来たのにすぐに人を殺しちゃって。
おっさんがボソボソと何かを呟くと燃え広がろうとしていた炎は最初からなかったかのように綺麗に消える。消えたのを見て安堵すると同時に首に強烈な衝撃が加わり、意識が朦朧としてくる。あれ、無双はどこいったんだ?という思考を最後に意識が途絶えた。
「ふう、何て危ないことしてくれてんだ。危うく死人が大量に出る所だったぜ」
そうして、俺の冒険は気持ちよくスタートできなかったのであった。