「おふだ」が50%offだ
駅前の小洒落た雑貨屋さんで、珍妙な品が売られていた。
透明なビニールの包みに半額シールが貼られており、その中身はおふだだった。
カラフルな手書きのポップには、「闇の力を封ずる奇跡のおふだが50%offだ! ザ・価格破壊!!」と書いてある。
と、店員さんが近付いて来た。
「そちらは季節の先取り商品となっておりまして、冠婚葬祭にもお仕事着にも、お普段着にもご使用になれます」
お仕事着、はぎりぎり許容範囲かもしれないが、お普段着はどうにも無理矢理感が否めない。
「貼るカイロみたいに使えばいいんでしょうか?」
「おふふふ、旦那様のお見込みのとおりですわ」
仮に俺が女性客だったら、この場面でなんと呼ばれたのかが気になる。
だ、だ、だ、だ、だ、男爵令嬢?
と、ここでレジ奥の電話が鳴った。
「どうぞごゆっくり店内をご覧くださいませ」
そう言って店員さんは離れ、受話器を取りに行った。
季節の先取り商品なのに半額は怪しい。
いやそもそも、季節って。北欧風雑貨で揃えた店内におふだがあるのも、ポップの気合いの入り具合も、店員さんの笑い方も、何もかもが怪し過ぎる。
幸いにして、まだ店員さんは通話中だ。
時折、「おふふふ」と貴婦人がする上品な笑い声が聞こえてくる。
妻への誕生日プレゼント購入は諦めるとしよう。
店員さんの「おふふふ」な笑い声を聞きながら店を後にした。
はぁ、一体何だったのだろうか?
謎の世界に入り込んでしまったようだ。
が、午後は大事な商談だ。
気を引き締めなければ。
雑貨屋から徒歩10分もかからないくらいで目的地のビルに到着した。
商談相手は女社長だった。
用意した資料で具体的な数値データを示しながら、サンプル品を並べ説明していく。
「おふふふ、だいたいのところは把握しましたわ。今月中に、またこちらからご連絡を差し上げますわね」
いい手応えを感じながらも、社長の笑い方が気になって仕方が無かった。
営業スマイルを顔に貼り付けたまま挨拶をし、ビルを出た。
スパイさながらに営業スマイルをビリビリと剥がす。
服飾店のショーウインドウに、表情の抜け落ちた自分が映って見えた。
トンッ
肩がぶつかった。
「あぁ、すみません」
反射ですぐに謝ると、優しい目をした若い女性が振り向いて微笑んでいた。
「おふふふ、大丈夫ですよ。こちらこそすみません」
そう言って女性は向き直り、また歩き始めた。
帰りにもまた雑貨屋に寄ったが、おふだには「売約済」のおふだが貼られていた。