第37話(3)
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「切っ掛けは、祐介からの依頼でした」
「祐介、から?」
要は頷いた。
「彼は、子供の頃から、俺を捜していたんだと言いました。……俺は昔、一度だけTVに出たことがありました。超能力特集の番組に……。そのTVを、祐介は覚えていたんです。俺に会えば、自分の過去を知ることが出来るかも知れない」
「……」
「彼は、俺にこう言いました。自分は犯人を見ているかも知れない。記憶はなくても、小一まで育ててくれた親の無念を晴らせるのは、自分だけなんだと。彼は、ある夢をよく見るんだと、俺に言いました。でも、その夢は、人に話すといつも忘れてしまうんだと。あなたに話した後は、必ず忘れてしまう。しかし、再び夢を見ると、前にもこの夢を見たと、思い出すそうです。そして、あなたに話したこと、あなたが言った言葉を、思い出すそうです。彼は、あなたに話さなかったら、どうなるだろうと考えた。そして、話さなかったことで、再び夢を見た。その夢は、今まで見たものとは、違う夢だった。その事を、俺に連絡してきた。だけど、学校で会ったとき、祐介は夢について、全て忘れていた。前に見た夢も、新しく見た夢のことも」
通りを誰かが歩いてくる音がした。要は口を噤み、通りに目を向けた。OL風の女が通りを歩いていた。要と目が合うと、すぐに目を逸らし、足早にその場を去った。音が遠のくと、要は再び宗介に目を向けた。
宗介は目を下に向け、煉瓦の一点を見つめるようにして、じっと動かないでいた。
「俺は、あなたが何かを知っていると思った。だから、あなたに触れさえすれば、なぜ祐介の記憶が消えたのか、分かると思った。でも、どうやって触れればいいか、分からなかった。そしたら……」
「指圧か……」
宗介は薄っすらと口元に笑みを浮かべ、要は「ええ」と短く返事をした。
「それで、君はどこまで知っているのかな?」
宗介は怠そうに頭を持ち上げると、要に視線を向けたが、その視点は定まっていない。どこか、遠くを見るかのような目つきだ。
「あなたが、あの血の海の中で、祐介を見たところ。そして、この公園で、二人が出会ったこと」
宗介は小さく顎を引くと、項垂れるように頭を下げ、一度、深く長い息を吐き出した。息が漏れる音が途切れると、少し頭を持ち上げ、要の手にある写真に目を止め、静かに話しを始めた。
「その公園で祐介に会う前から。時間をもう八年ほど遡らなくてはね……」
周りの音が消えた。先程まで公園内に聞こえていた蝉の声さえも途絶えた。ような気がした。まるで、全ての生き物が息を潜めて宗介の話しを聞こうとしているかのようだ。
「十八年前、私はある女性と結婚を考えていた。でも、彼女は突然私の目の前から消えてしまった。何故消えてしまったのか、当時は何も思いつかなかった。居なくなった原因を知ったのは、彼女が消えて八年後だ」
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