第4話(2)
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祐介を引き取って、九年になる。子供の頃はさほど感じなかったが、この頃、多少、童顔ではあるが、顔立ちや声が夫の二戸神宗介に似てきている。はっきりした二重瞼、口角がくっと上がり、猫のように弧を描く唇。まるで自分の遺伝子が祐介の中にちゃんと入っているのでは、と思ってしまう程、鈴子同様、さほど大きくない背丈。他人の子供の筈が、本当に自分が腹を痛めて産んだ子供のような錯覚すら、鈴子は感じていた。
偶然にも、名前にある漢字の一文字が夫と同じ。「介」という漢字は、よくある、ありふれた漢字ではあるが、まるで、自分達の子供になることが始めから決まっていたように思えた。
祐介が子供の頃は、親が亡くなった上、記憶まで失って可哀想な子供だと思った。そして、夫から「この子は以前、虐待を受けていたらしい」と話しを聞くと、このまま記憶は戻らない方がいいのでは、と思い、ますます可哀想な子供だと思った。私たちで、たくさんの愛情を教えてあげようと、夫と誓ったくらいだ。そうして、いつしか本当に、心から祐介を愛するようになっていた。昔、祐介が子供の頃の記憶について知りたがることがあった。その時、鈴子は不安で仕方がなかった。記憶を取り戻したら、祐介が離れていってしまうのではと、想像しては悲しくなったのだ。
「祐ちゃんは、思い出したらどうしたいの?」と訊ねた鈴子に、祐介は何も答えず、悲しげに首を傾げ、困ったように微笑んだ。鈴子の不安を感じ取ったのか、祐介はそれ以来、何も言わなくなった。
鈴子がTVに目を向けると、数人の芸人が画面の向こうで、やかましく騒いでいる。
「記憶喪失の人のドキュメント番組」
祐介の声が耳の奥に響く。
やはり、あの子は今でも記憶を取り戻したいと思っているのかも知れない。鈴子は、自分勝手な感情とは思いつつも、祐介の過去の記憶がこの先も一生、戻らないようにと、心から祈った。
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