第31話(2)
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放課後、祐介と要は屋上へ来ていた。相変わらず誰も居ない屋上は、誰かが来ることも殆ど無い。地べたに腰を下ろすと、要は祐介に「今朝、何があった?」と鋭い口調で訊ねた。
「おじさんと何か話した記憶は?」
「え、そりゃあ、色々話したけど……」
「どんな?」
要の質問に祐介は暫く考え、記憶をたどるように話しをした。
「父さんに、今朝方、うるさかったけど大丈夫かって言われて……。僕は、腹が痛かっただけだって言ったら、母さんに薬を飲んでいくようにって言われて飲んで。それから、父さんが久しぶりに話しをしたいって言って、少しだけ書斎で話した」
「書斎で?朝っぱらから?」
「うん。ときどき、朝から話したがる」
「どんな話し?」
「学校はどうだとか、好きな子できたかとか、この夏は友達とどこか行くのかって……。ねえ、それと朝のメールの話し、なんの関係があるの?」
要は自分の手元を見つめた。すぐに目を上げると、少し釣り上がった鋭い瞳を、真っ直ぐに祐介に向けた。
「祐介。お前さ、俺がお前の家に行った時に話したこと、覚えてるか?」
祐介は瞬きを繰り返し「どの、話し?」と、戸惑った表情をしながら訊ねた。
「全部だ。デパートの屋上で話したこと」
「僕の記憶喪失の話?」
「他には?」
「君の、力のこと?」
要は小さく一度頷くと、「それは覚えてるな」と独り言のように囁くと、手袋を外し祐介の腕を掴んだ。
「要!」
祐介の腕を掴んで五秒間。要は手を放し、目を閉じた。
「要……?」
要は何も答えず両手で顔を覆い、項垂れるように身体を前のめりにした。
たった今見た、祐介の記憶を思い返す。
祐介が明け方目を覚ました理由である「過去の夢」は、綺麗さっぱりと消えていた。それだけではない。二週間前まで覚えていた、血の海の夢も忘れている。要と話している会話が、「飛ぶ」のだ。重要なところだけが、見事に消え去っている。
「どうなってるんだ……」
要は両手を顔から放し、暫くじっと動かなかった。祐介が二度ほど声をかけると、言葉にならない呻き声を上げ、屋上に寝転がった。
空高く、ものすごいスピードで鳥が群れをなして飛んでいく。要はそれを目で追ったが、あっと言う間に視界から消えた。
ふと、祐介の父親の顔を思い出した。
穏やかな笑みは、やはり祐介によく似ている。祐介が養子だと知らない人間は、誰しも本物の親子と思うだろう。そのよく似た二人の笑顔を、要はずっと昔に一度見たことがある気がした。
だが、今は思い出せなかった。それよりも、祐介の記憶の方が気になって仕方がない。
「不思議なんだ」
黙って要の隣りに座っていた祐介は、話しを始めた要に視線を向けた。要は寝転び、空を真っ直ぐに見つめながら、話しを始めた。
「以前、祐介に触れて見えていた記憶が、綺麗に消えてるんだ。お前が俺に話した事も、重要なところが消えている」
「重要な、ところ?」
「そ」
要はそれ以上何も言わず、空を睨み付けるように見ていた。しばらくして、ほっ、と腹に力を入れたような声を出し起き上がると、身体を祐介に向けた。胡座をかき、真正面から祐介を見る。
「俺は思う。お前のおじさん、何か知ってるぜ。絶対」
そう言うと、左の口角を引き上げ笑ったが、その目は笑ってはおらず、まるで喧嘩の挑戦状を受けて立つかの様な、真剣で怒りにも似た光を宿していた。
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