第25話(2)
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要は自分の耳を信じられなかったのか、驚きと困惑が混ざった顔で祐介を見ていた。何を言えばいいのか、言葉を発することを忘れたかのように、微かに口を動かしている。祐介は要の隣りにゆっくりと腰を下ろすと、静かに話しを始めた。
「あのTVを見ていて、きっと僕だけが君を信じていた。自分で見て触れないと信じない、僕が、だ。なぜか、信じられたんだ。あの時、TV出演者たちよりも、僕の手に触れて欲しいと思っていたし、TV局の人間や雑誌社の人間、その他大勢の誰よりも君に会いたがっていた。それは、何年経っても変わらなかった。だから、色んな噂を聞いたとき、もしかしたら君が少年Kくんなんじゃないかって、思っていたんだ。でも、一緒にいる限り、そんな感じは一切しなかった。だって、君は一度だって僕の心を読んだ様子がなかったから」
祐介は溜め息でもつくように息を一つ吐き出した。
「本当に、ただの潔癖性だと思ってた」そう言うと、穏やかな笑みを浮かべた。
要は生唾を飲み込んだ。血管を流れる全ての血の動きを聞いているかのように、耳の奥はざわざわと騒がしい。かろうじて祐介の声を聞き取っていたが、それ以外の音は何一つ聞き取れなかった。ペットショップの犬の声も、飛行機が飛ぶ音も、車のクラクションも何もかも。
「何で、俺を捜してた?」
声が震える。自分の声さえも良く聞き取れない。祐介に聞こえているのかと不安になり、僅かに顔を動かし祐介を見た。祐介は、真っ直ぐ前を向いてフェンスの奥の風景を見ていたが、口元は微かに動いていた。要はその声を聞き逃さないように、耳を澄ませた。
「僕はね、子供の頃、両親を殺されたんだ」
その言葉を引き金に、つい今の今まで忘れていた、以前見た祐介のヴィジョンを瞬時に思い出した。
足下を染める、艶やかな朱。あれは、やはり血だったのだと思い、背中を悪寒が走った。
要は首を捻り祐介の横顔を見つめた。祐介は遠い目をしたまま話を続けた。その顔は、今まで見たことがない、無に等しい表情だ。
「僕もその場にいた。でも、何も覚えていないんだよ。その事件以前のことも、何もかも」
「記憶、喪失?」
祐介は小さく顎を引くと、話を続けた。
「警察の聴取で、自分の両親が殺されたんだって事を知ったけど、自分の話のようには聞こえなかった。担当した刑事が言うには、その場に僕も居たんだって言うんだ。だから、犯人を見ている筈なんだって。どんなに思い出そうとしても、何も思い出せないんだ。真っ白なんだよ。思い出すっていう行為自体が、僕には分からなかった」
そこまで言うと、祐介は両手で頭を抱え、髪を掴むようにし、頭を下げた。まるで、記憶喪失当時の自分を思い出すように、苛立たしげに頭を振ると、ゆっくりと頭から手を放した。
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