第24話(1)
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「渡辺の授業、本当ねちっこいよな」
不意に川崎が言った。それに同意するかのように、祐介、中村、田川、そして要の四人は頷いた。
「発音どうこう言う前に、お前の発音も可笑しいよって感じだし」
田川は渡辺の英語発音を真似て言った。
「そういや、あいつさ、今の一年になんて呼ばれてると思う?」
中村が楽しげに言う。
「なに?」要が聞いた。
「モツナベ」
一同は失笑するように顔を歪めたが、すぐに大笑いへと変わった。
「自己紹介の時、英語で挨拶すんじゃん。その時あいつ、発音に気を使いすぎたせいで、男子生徒がモツナベって聞き間違えたんだと」
「どんだけひどい発音だよ」
「タ、モゥツゥ・ヮタ、ナァベ」
中村は英語教師の癖のあるアクセントを真似た。タを殆ど言わず、モツを強調し、ワタを小さく言うとナベを強調して言う。確かに、ちゃんと聞いていなければ、強調されたところだけが耳に残り「モツナベ」と聞こえる。
「普通に渡辺保っていっとけば、そんな悲惨なあだ名もつかなかったろうに」
祐介は哀れむような苦笑するような複雑な表情をしながら言った。
以来、要たちの間でも、英語教師の渡辺は「ナベさん」から「モツナベ」に変更された。
「そうだな」
要は口元を緩め頷いた。
「でも、俺。中村達は、祐介と話したくて。たまたま祐介と一緒に俺が居たから、ついでに話していたんだって、思ってた」
「もし本当にそうなら、きっと彼等からは近づいてこないんじゃないかな。僕が席を立ったときに、話しかけてくると思う。でも、そうじゃないだろ?彼等は自分の意志で僕たちの所へ来て、一緒に会話を楽しんでる」
「じゃあ、俺はいつの間にか友達が結構居たんだな」
「そうだよ」
「でもあいつら、俺を面倒くせえって、思ってる。表面だけの友達か」
「人間、みんな良いところも悪いところもある。どんなに仲が良くたって、他人同士。理解できないことや、気に入らないところもあるよ。でも、それを知っていても、良いところがそれを上回っていれば、嫌なところは目を瞑ってしまえるんだ」
確かに、祐介の意見は合っているかも知れない。二年になってすぐの頃は、堀田は別として、他の三人は、あまり自分を良く思って居なかった。だが、今では嫌な心の声は聞こえていない。むしろ、笑いながら「面倒くせえ体質だなあ」と言ってくるだけで、邪気は込められていなかった。いつの間にか、自分はみんなの中に入り込んでいたのだ。
「それに」という祐介に、要は顔を向けた。
「僕は、誰にも話したことのない話しを要に言った。それは、僕が君を心許せる相手だと思っているから言えたことだ」
要は黙ったまま祐介を見続けた。祐介は要を見ると「つまり」と言った。
「親友だと思ってるから言える話しなんだ」
そう言うと、要から顔を逸らしコーラを飲む。
要は戸惑いを隠せない様子で、瞬きを繰り返した。祐介の口から出た「親友」と言う言葉が、心の柔らかい部分を包み込み、全身が熱くなった。太陽の下だからか、もしかしたら、また熱が出てきたからか、そんなことを思ったりもしたが、そうではないことを要は分かっていた。要は、目を閉じて黙った。
深呼吸をするかのように息を深く吸い込み、静かに吐き出すと、ゆっくりと目を開く。
「俺、本当は潔癖性なんかじゃないんだ」
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