第19話(1)
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目の前に聳え立つマンションを、祐介は口を開けて見上げていた。歌穂に渡されたメモを頼りに辿り着いた場所は、高級マンションの前だったのだ。
「ここで、合ってる、よな?」
手に持ったメモを見返し、住所を確認する。マンションの名前も合っている。間違いはない。祐介はもう一度、マンションを見上げた。二十階ほどある、赤い煉瓦風のタイルが貼られた壁。
「なんか、緊張してきた」
掌にじんわりと汗が滲み出てきた。祐介はマンションのエントランス前に来ると、部屋番号を押した。
*******
インターフォンが二度鳴った。
勉強机に向かって数学の問題を解いているときだった。もう間もなく問題が解けるというときに限って、毎度邪魔が入る。毛布にくるまりながら、要はそれを無視して問題を解き続けた。間をおいてから、再びインターフォンが鳴った。Answerの意味を示すAの字を書き、答えを書く。三度目のインターフォンが鳴る。要は小さく息を吐き出すと、椅子から立ち上がった。毛布を引きずり、鼻をかみ、よろよろとリビングへ向かう。
「しつこいねえ。どちらさんよ」と呟きながら、インターフォン画面を覗き込むと、そこには、予想もしなかった人物が映し出されていた。
「祐介?」
『あ、要?二戸神だけど。プリントやらノート、持ってきたんだけど。降りてこられる?』
要は落ち着き無く瞬きを繰り返した。それから、ゆっくり深呼吸をすると、画面の中の祐介に声をかけた。
「今開けるから、上がってきて」
なぜか声が上擦ったが、祐介は「わかった」と言うと、画面から消えた。要は、はたと何かに気がついたかのように、部屋中をうろうろと歩き回り、手袋をはめ、身体に巻き付けていた毛布を寝室に投げ入れた。
しばらくすると、玄関のインターフォンが鳴り、恐る恐るドアを開けると祐介が立っていた。
「やあ。具合はどう?悪いね、突然押しかけてしまって」
久しぶりに聞く祐介の声は、相変わらず穏やかな響きを持っていた。要はドアを開けると「上がって」と短く言った。
「お邪魔します」
祐介はリビングに入ると、素早く辺りを見回し、すぐに要に振り返った。
「今、誰も居ないんだ」
要は何かを聞かれる前に言った。
「共働きだから」
「そうなんだ」
台所に行き、やかんに火をかける。
「お構いなく。すぐに帰るから」
そう言うと、祐介は鞄の中から要に渡すプリントの束を取り出した。
「座ってて」
「うん」
祐介は二人掛けの白いソファの上に腰かけた。
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