第2話(2)
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第1話同様、2部に分けてます。
祐介が片眼を大きく腫れさせて、男の前に走り寄った。
「どうしたんだ?その目は」
男は祐介の頬に触れようとした。祐介はその手にビクリと身体を動かし、避けた。
男は戸惑ったように祐介の顔を覗き込んだ。
「ばれちゃったんだ」
その言葉に、男は全身の血が引いていくのを感じた。
「ぼくが、どこかでごはんをてべてきてるって」
「……どうして……」
男は頭の中にある記憶の引き出しを全部開けて、祐介と会っている間、誰かに見られていなかったかを思い出そうとした。だが、頭の中はそれを思い出せるほど、血液が足りていなかった。
祐介は自分の手に握り締めた茶封筒を、男の胸に押し当てた。
「おじさん、これ、おかねがはいってるんだ。おねがい。これで、おかあさんとおとうさんを、ころして!」
祐介の言葉に、男は目を見開き、頭を振った。
「おねがい!でないと、ぼく、ころされちゃう」
男は胸に押し当てられた茶封筒を手に取った。
「これ、どうしたの?」男が訊ねると、祐介は一瞬口を噤み、「おかあさん、いつもタンスのなかに、おかねをかくしてるんだ」と答えた。
男は茶封筒の中を見た。中には十万近く入っていた。男は素早く金を封筒にしまうと、祐介の手に握らせた。
「これは持って帰るんだ。これが無くなったことがばれれば、祐介くんが大変なことになる」
男の言葉を聞いた祐介は、一気に落胆と悲しみの混じった顔になった。
「いいかい?祐介くん。明日、お昼の時間に、おじさんが君のお母さんと話しをする。大丈夫だ、おじさんを信じて。必ず、祐介くんを助けるから。明日、お昼にここで待ち合わせよう。この事は、誰にも言っては駄目だよ?もちろん、明日おじさんが祐介くんのお母さんに会うって事も、お母さんに言っては駄目だ。いいね?」
肩をがっくりと落とし、男の声が聞こえているのかも定かではない祐介の両肩に手を乗せ、男は説得をした。男の説得に、祐介は小さく頷いた。
「良い子だ」
「おじさん」
「なんだい?」
「ほんとうに、ぼくをたすけてくれる?」
「約束だ。必ず助ける」
男の力強い言葉は、祐介の震えた心に優しく響いた。祐介は今にも泣き出しそうに顔を崩し、深く頷いた。
「今、お母さん達は?」
「パチンコやさん。ほんとはぼく、いえでちゃだめって、いわれてたんだ。でも……」
「じゃあ、急いで帰ろう。今日は家まで送ってあげる」
そう言って、男は祐介の手を握り締めると、祐介の家まで歩き出した。ゆっくり歩いているにも拘わらず、男は鼻息荒く、目は充血し、顔は赤かった。
翌日、男は祐介と待ち合わせた公園へ、昼前に来ていた。
茶色くなった葉の間から見える空は、今にも雨が降り出しそうだ。灰色よりも黒に近い色の雲が、次から次へと上空を流れている。風が冷たく、男はジャケットから黒革の手袋を出し、両手にはめた。
男は時計に目を落とした。いつの間にか、待ち合わせの時間は過ぎていた。
男は通りに目を向けたが、誰一人歩いてはいなかった。日曜の昼であっても、雨が今にも降り出しそうであることからか、公園へ来る者はいない。男はベンチに座り、祐介が来るのを待った。
待ち合わせ時間が過ぎたが、一向に祐介が来る気配はなかった。時計に目をやる。約束の時間が過ぎてから、間もなく一時間になろうとしていた。男は嫌な予感がした。もしかしたら、祐介の身に何かあったのではないだろうか、昨日のことがばれたのかも知れない。もしくは、母親達が家にいて、祐介は家から出ることが出来ないのではないだろうか。
男の頭に、もっとも最悪な、あってはならない想像が浮かんだ。男は武者震いをし、急いで祐介の家へ向かった。足が思うように動かない。必死に身体を動かす。道路を歩いているのだから周りの風景が変わっているはずだが、まるでランニングマシーンの上を走っているかのように、同じ場所で足踏みしているような錯覚すら覚えた。
ようやく祐介の住む二階建てのまだ新しい感じのするアパートに着いた。男は階段を駆け上がり、ドアの前に立った。
二度、ノックをする。ドアが少し開いている事に気がついた男は、静かにドアを開けた。
「佐々木さん……」
恐る恐る声をかけるが、誰の返事もない。
「祐介くん?居るのかい?」
男は静かにドアを閉めると、部屋に上がった。玄関を上がってすぐ台所で、その奥に居間がある。ガラス戸の奥に、人影が見えた。
「祐介くん?」
男はガラス戸を開け、部屋を見た。
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