第2話(1)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
第1話に引き続き、残酷な描写が続きます。
苦手な方は回避してください。
九月に入ってから、男は一度も使っていなかった溜まりに溜まった有給休暇を使って、毎日のように祐介に会いに行った。
二人が会うのは、学校近くにある池のある大きな公園だった。
公園の敷地内には、池の他にランニングコースや野球が出来るグラウンド、テニスコートなどがあった。その中でも、緑が深く、あまり人が通らない「ウォーキングコース」がある。その通りには、ベンチが数個置いてあり、二人は決まってそこに座って話しをした。
それでも、男はなるべく人目に付かないよう気をつけた。どこかで誰かに見つかれば、遅かれ早かれ母親の耳に入り、祐介が今以上に酷い虐待に合うに違いないと思ったからだ。
その点、このウォーキングコースには変質者が出るという噂が多いせいか、めったに人が居ないため、男には好都合だった。時々、年配の男が歩いているくらいで、老若問わず、女の姿は見かけない。
学校が始まってから、祐介は少し頬がふくよかになったように見えた。学校で給食を食べているからだろうと、男は思った。
だが、よくよく祐介の話しを聞いていると、食事は一日に一度しか与えられていなかった。給食は、担任教師が「たくさん食べなさい」と、祐介の皿にたくさんのご飯を装るのだという。給食のない日は、朝に一食。食パンを一枚、食べても良いことになっているという。
話しを聞いて以来、男はなるべく夕方に祐介と会うようにした。
祐介は男が買ってきた鮭のおにぎりを頬ばりながら、その日、学校で教わってきた勉強の話しを男に話して聞かせた。祐介は大変、利口な子供だった。小学二年生とは思えない、説明の上手さと理解力に、男は毎回驚かされていた。
「家でも、お母さんに話したりするの?」
男の言葉に、祐介は瞬時に顔を曇らせた。
「おうちでは、おしゃべりしちゃいけないんだ。きかれないかぎり、はなすなって、おこられる」
十月に入り、だいぶ気温も下がり始めていた。それにも拘わらず、祐介の服装は相変わらず薄着で、鼻を啜っていた。
有給休暇も使い果たし、祐介と会う時間も遅くなった。なるべく仕事を定時に終わらせ、夕方五時半には、いつもの場所へ行けるように走った。日が暮れれば、気温がぐっと下がる。風邪を悪化させないためにも、急がなくてはいけないという理由もあったが、急ぐにはもう一つの理由があった。祐介の帰りの時間だ。六時を過ぎると、閉め出される。
男は祐介のためにフリースを買い与えたが、祐介は強く拒んだ。母親に叱られることを恐れているのだ。当然の答えに、男は何も出来ない自分の不甲斐なさに、腹の底で腹を立てていた。今の自分に出来ることと言えば、コンビニで弁当を買い、食べさせることぐらいだった。
その日は土曜日で、男はいつもより早く公園へ来ていた。祐介と食べようと思って買ってきたホカ弁を膝の上に乗せ、腕時計を見た。間もなく祐介が来る頃だと、通りに顔を向けると、遠くを走ってこちらへ向かってくる祐介の姿が目に入った。男は手を振り、にこやかな笑顔を向けたが、祐介が近づくうちに、その顔から笑顔が消えた。
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