第11話(1)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
今回は、少し長めです。
昼休憩が間もなく終わる頃、日直だった祐介は数学の教務室へ向かった。教師から生徒に返すように言われたノートの山を抱えると、教務室を出る。
渡り廊下を歩いていると、化学の教師が祐介に声をかけてきたので、祐介は教師からの言伝に「わかりました」と言い、教室へ戻って行った。
「要、江上先生が呼んでた。理科教務室へ来るようにって」
行儀悪く足でドアを開けて教室へ入ってきた祐介が、クラスメイトのノートの山を抱えながらそう言うと、クラス中の視線が一斉に祐介に向けられた。そしてその視線は、素早く要に向けられる。
机の上にうつ伏せて寝ていた要は欠伸をしながらゆっくりと体を起こす。
「ああ……」と、欠伸混じりの返事をすると、気だるそうに立ち上がる。要が動き出すと、彼に触れないようにするためなのか、モーゼの海のように生徒が左右により、道を作り出す。そんな事は慣れっこだからか、気にする風もなくその間を要は歩き、後ろのドアから教室を出て行った。
祐介は何て事無いように教師から預かったノートを一人一人に配って歩くと
「おまえら、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「よく名前、呼び捨てにできんな」
などと、どの生徒からも同じセリフが口から飛び出してきた。
祐介は「そりゃ、友達だし」と若干口角を引き攣らせながら返事をする。
名前を呼ぶ、ただそれだけで、なんでこんなにも驚かれなきゃいけないのだろうか。
彼が特別だからか?
特別なんかじゃない。要は普通の、僕たちと同じ一生徒だ。怖がる必要も何もない、ごく普通の少年だ。
ノートを半分ほど配り終えると、祐介はうんざりしたように残りのノートを教卓の上に乱暴に置いた。
「あのさ、みんな、何なんだよ?要が何かしたのか?僕が知る限りじゃ、要は誰にも何もしていない。何でそこまで毛嫌いする必要があるんだよ?ただちょっと、人より潔癖症が酷いってだけで、なんでそんなにあいつを怖がるんだ?」
普段穏やかな奴が怒ることほど怖いものはない。
祐介は、声を荒げて言った訳ではないが、クラス中が静まりかえった。
「ニコだって、知ってんだろ?あいつが……その……」
一人の男子生徒が口を尖らせ、言いづらそうに意見を述べる。
「薬やってるとか、ヤクザがどうこうか?そんなもん、本気で信じてるわけ?」
祐介は両手を腰に当て、クラス中を見回した。祐介から目を逸らす様に、一様に下を向く生徒達に対し、祐介はあからさまにため息をついた。
「その様子、誰か見たことがあるの?要に訊いたことがあるの?ただの噂や妄想で人を判断するのやめようよ。もう高二なんだよ?くだらないと思わないのか?僕は、この二ヶ月間、要と話して、噂はみんな嘘だって確信したし、あいつは本当にいい奴だよ。みんなだって、あいつを知れば、きっと仲良くなりたいと思うよ。そんなくだらない噂忘れて、一度、彼と接してみたらどうだろう」
「じゃあ、聞くけどよ。なんであいつは、人の秘密知ってんだよ。誰にも話したことない秘密を、あいつは知ってるって」
「だから!そんなの、噂だろ?このクラスで、要に秘密を握られたことのある奴はいる?」
祐介はクラスを見回した。誰も手を上げない。小首をかしげるか、小さく左右に振るだけだ。
「誰も秘密、言われてないんじゃないか。もう、いい加減にしよう。勝手に噂が先行して、どんどんあいつが悪者になってるけど。要はそんな奴じゃないよ。本当にいい奴だよ。ただ、ちょっと潔癖症が酷いだけだ」
それだけ言うと、祐介は黙ってノートの残りを配り始めた。
クラスは静まり返ったまま、それぞれが何かを考え込むかのように俯き、次のチャイムが鳴る音を聞いていた。
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