第1話(2)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
長いため、2部に分けました。
公園に残された男の子は、手に持ったまだ水の入っていない水風船を、じっと見つめている。
男は男の子に近寄り、前にしゃがみ込むと「こんにちは」と声をかけた。
いつも通りに声を出したはずが、妙に擦れ、小さな声だった。
男の子は、男を上目遣いで見つめながら、無表情で「こんにちは」と答えた。
「佐々木、祐介くん、だね?」
祐介は大きな瞳を微かに見開いた。近くで見ると、ガリガリに痩せこけていて、見開いた目が必要以上に大きく見える上、ぎらぎらとした何とも不気味な輝きを放っている。
「おじさん、だれ?」
「おじさんは……きみのお父さんの友達だ」
「おとうさん?」
「そう」
「おとうさんなら、いえにいるよ」
「その人じゃない。本当のお父さんだよ。君は会ったことがないから知らないだろうけど」
祐介は小首を傾げた。男は優しく微笑むと、祐介の頭を優しく撫でた。手を伸ばされ、びくりと身体を動かしたが、逃げはしなかった。祐介の頭は、汗と油でねっとりとしている。祐介からは、汗臭さだけではない、獣の臭いもしてきている。
風呂に入っていないのだ。
「祐介くんは、お昼ご飯食べに帰らないの?」
男は祐介をベンチに座らせると、自分もその隣りに座った。
「おかあさんが、ゆうがたまで、かえってくるなって、いったから」
「それで、帰らないの?」
「かえると、おこられる」
祐介は俯くと、ブカブカのTシャツの裾を握り締めた。男は、祐介の半ズボンから見える、今にも折れそうなほど細い足に目を向けた。無数の痣が見える。子供は危険を顧みない遊びをするから、怪我などは日常茶飯事だとしても、痣の大きさ、多さが、妙に気になった。髪の毛といい、獣の臭いといい、明らかに虐待を受けている。昼ご飯を食べられないことから、それは決定的だと、男は思った。
「ねえ、祐介くん。おじさんと一緒に、銭湯へ行かないか?そのあと、お昼ご飯を食べよう。祐介くんの好きな物、何でも食べて良いよ」
男の言葉に、祐介は顔を上げたが、すぐに首を振った。
「でも、おかあさんにおこられるよ」
「怒られないよ。祐介くんが黙ってれば、ばれない」
そう言うと、男は眉毛を上げ、おどけるような笑みを浮かべた。
祐介は不安げに男を見ていたが、暫くして小さく顎を引いた。
「よし。じゃあ早速、行こうか」
男は祐介の細くて小さな手を優しく握った。六歳にしては、小さすぎる背丈。男は怒りと悲しみを抑えながら、ここへ来る途中に見かけた銭湯へ向かって、歩いてきた道を戻った。
銭湯で祐介の裸を見て、愕然とした。痛々しい痣が無数にある。
石鹸を使うと、匂いでばれることも考えたが、それ以前に、湯ですら傷に沁みるらしく、声には出さないが、祐介は酷く痛がった。男はぬるま湯を優しくかけるだけにし、身体を洗うことは止めることにした。
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