表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/113

第1話(2)

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

長いため、2部に分けました。

公園に残された男の子は、手に持ったまだ水の入っていない水風船を、じっと見つめている。

 男は男の子に近寄り、前にしゃがみ込むと「こんにちは」と声をかけた。

 いつも通りに声を出したはずが、妙に擦れ、小さな声だった。

 男の子は、男を上目遣いで見つめながら、無表情で「こんにちは」と答えた。


「佐々木、祐介くん、だね?」


 祐介は大きな瞳を微かに見開いた。近くで見ると、ガリガリに痩せこけていて、見開いた目が必要以上に大きく見える上、ぎらぎらとした何とも不気味な輝きを放っている。


「おじさん、だれ?」


「おじさんは……きみのお父さんの友達だ」


「おとうさん?」


「そう」


「おとうさんなら、いえにいるよ」


「その人じゃない。本当のお父さんだよ。君は会ったことがないから知らないだろうけど」


 祐介は小首を傾げた。男は優しく微笑むと、祐介の頭を優しく撫でた。手を伸ばされ、びくりと身体を動かしたが、逃げはしなかった。祐介の頭は、汗と油でねっとりとしている。祐介からは、汗臭さだけではない、獣の臭いもしてきている。

 風呂に入っていないのだ。


「祐介くんは、お昼ご飯食べに帰らないの?」


 男は祐介をベンチに座らせると、自分もその隣りに座った。


「おかあさんが、ゆうがたまで、かえってくるなって、いったから」


「それで、帰らないの?」 


「かえると、おこられる」


 祐介は俯くと、ブカブカのTシャツの裾を握り締めた。男は、祐介の半ズボンから見える、今にも折れそうなほど細い足に目を向けた。無数の痣が見える。子供は危険を顧みない遊びをするから、怪我などは日常茶飯事だとしても、痣の大きさ、多さが、妙に気になった。髪の毛といい、獣の臭いといい、明らかに虐待を受けている。昼ご飯を食べられないことから、それは決定的だと、男は思った。


「ねえ、祐介くん。おじさんと一緒に、銭湯へ行かないか?そのあと、お昼ご飯を食べよう。祐介くんの好きな物、何でも食べて良いよ」


 男の言葉に、祐介は顔を上げたが、すぐに首を振った。


「でも、おかあさんにおこられるよ」


「怒られないよ。祐介くんが黙ってれば、ばれない」


 そう言うと、男は眉毛を上げ、おどけるような笑みを浮かべた。

 祐介は不安げに男を見ていたが、暫くして小さく顎を引いた。


「よし。じゃあ早速、行こうか」


 男は祐介の細くて小さな手を優しく握った。六歳にしては、小さすぎる背丈。男は怒りと悲しみを抑えながら、ここへ来る途中に見かけた銭湯へ向かって、歩いてきた道を戻った。

 銭湯で祐介の裸を見て、愕然とした。痛々しい痣が無数にある。

 石鹸を使うと、匂いでばれることも考えたが、それ以前に、湯ですら傷に沁みるらしく、声には出さないが、祐介は酷く痛がった。男はぬるま湯を優しくかけるだけにし、身体を洗うことは止めることにした。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


続きが気になる!という方は是非ブックマークや☆、評価、感想など今後の励みになりますので、残してもらえると喜びます!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ