第10話(2)
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「なに?」
要は訝しげに紙とペンを見ると、その目を祐介に向けた。
「僕のストレス発散方法。藤森にも効果があるかどうかは分からないけど」
要は紙とペンを受け取ると、首を傾げた。
「これに、腹が立ったことを全部書き出すんだ。思いついた順に。文法とか字の汚さとか一切関係なく。自分の怒りの丈を、ここに全部書き出す。さ、書こう」
そう言うと、祐介は焼却炉の段差に腰かけ、紙に怒りを書きだし始めた。要は困惑気味にその場に立ち尽くしたまま、祐介の真剣な横顔を見つめた。それに気がついたのか、祐介は要に目を向け、「ほら、早く」と言い、書くように促した。
「騙されたと思って、とりあえず僕の言ったとおりにしてみてよ」と、若干、口を尖らせて言う。高校二年生が見せる表情ではない。その幼い表情を見て、自分の弟をふと思い出し、要は小さく笑うと、祐介の隣りに腰を下ろし、先ほどの出来事を紙に書き始めた。コンクリートのデコボコで字が歪む。始めは、書けば書くほど苛々としていたが、それでも、書き続けていくうちに、心に灯っていた怒りの炎は静かに沈下しはじめていた。
あらかた書き終わると、既に書き終えていた祐介が、「紙、足りた?」と訊ねた。
「ああ、十分。書き終えたよ。で?これ、どうするんだよ」
「かして」
要は言われるまま、怒りを書き殴った紙を祐介に手渡した。祐介はそれを受けとると、自分が書いた紙と共に破り、焼却炉の中に捨てた。
焼却炉の中は、まだ微かに火が燻っていた。祐介は棒を持って、燻っている火に自分が入れた紙を寄せた。火は紙に移り、燃え始めた。
ふたりは、燃えていく紙をぼんやりと眺めていた。要は火を眺めながら、不思議と心が落ち着いていくような気がしていた。全部の紙が灰になると、祐介は両手を叩き、「よし」と小さく頷いた。
「本当は、全部燃えたら水で流したいんだけど、ここじゃあ無理だからね」
「これが、お前のストレス発散法?」
要は真っ暗な焼却炉の中を見つめながら、ぼんやりとした口調で訊いた。祐介は「そう」と明るい声を出した。
「単純なことだけど。小学校の頃、父親に教わったんだ。怒りを人にぶつけるのは、たまには良いけど、ぶつければぶつけるほど、ぶつけられた相手も気分悪くなるし、自分はもっと気分が悪くなる。自分の怒りを他人が理解してくれなかった場合は、怒りが倍増する。だから、こうやって紙に殴り書きした怒りを燃やす。そうすることで、自分の怒りは収まりだして、他人を不愉快にもさせない。僕には結構効果があってね。藤森にも効果あった?なんか、無理矢理付き合わせちゃったけど」
祐介は困ったような申し訳なさそうな顔で要を見た。
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