第7話(3)
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しかし、要の予想に反して、二戸神祐介は時間がたっても何ら態度を変えることも無かった。それどころか、相も変わらず心の中は終始穏やかで、何ら雑言も聞こえてはこなかった。なんとも不思議な少年だった。
次第に要から祐介に興味を持ちだし、行動を共にするようになった。それから、ふたりとも屋上で食事をする事が好きだということを初めて知った。
「一年の時から屋上で食べていた」という祐介だったが、お互い一度も顔を合わせた事が無かった。祐介はなぜ気がつかなかったのか不思議がった。なぜなら、屋上に来る生徒はどういう訳か殆んど居なかったからだ。
「屋上は、僕だけの場所だと思ってた」
「俺は、ドア上のタンクんところで食ってたから」と要が言うと、祐介は納得した。
「そこまで注意を向けていなかった」と言って、人懐っこい笑顔を見せた。
要も不思議に思ったが、今ではさほど不思議にも感じない。なぜなら、祐介の心の声はほとんど聞こえないに等しい。こんなに静かであるなら、気がつかなくても当然だ。
「藤森、今日はコンビニ弁当なんだ」
祐介は要が手にしている弁当の入ったビニール袋を見て「珍しいね」と言った。
「ああ、うん。今朝、時間がなくて……」
普段、要は自分で弁当を作って来る。人と触れ合うことが嫌だからだ。食堂も売店も、生徒たちで込み合う。コンビニも、できれば行きたくはない。しかし、生活の中で人に触れないことは、生きていて外を出歩くとなると、難しいものだ。それでも、「外へ出る事」を父親と約束をしている以上、人並みの事はしなくてはいけない。
「時間が無かったって、もしかし、いつも自分で作ってたの?」
「え?ああ、そうだけど……」
「すごいね、僕、親任せだよ」
「俺も、前の晩の残りものとかだよ。俺はただ、詰めるだけ」
「それでも、偉いよ」
「そうか?」
そう言いながら、ふたりはそれぞれの弁当を食べた。
穏やかな時間が流れる。
不思議と、祐介のペースに乗せられてしまう自分に、要は戸惑いながらも楽しんだ。
誰かと弁当を食べるのは、小学校の遠足以来だ。他愛のない話をしながら食事を勧めること自体、そんなにない。あるとすれば、週に何度か歌穂が食事を作り来て、それを一緒に食べるくらいだ。その時も、もちろん話はするが、歌穂は女であることもあり、話題が時々よく分からない。その点、祐介は男で、ところどころ趣味も合っていて、話題には事欠かなかった。そしてなにより、二戸神祐介という人物は、同年代では珍しく、哲学的な所も持ち合わせており、その発言を要は楽しんでいた。
押し付けがましい事は言わないまでも、意外に頑固な二戸神祐介と言う人物を、時間がたつにつれ、受け入れ始めた。
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