第1話(1)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
しばらく、幼少期の物語です。
かなり壮絶な物語です。
読まれる方は、お心の準備をしてお読みください。
あと三日で八月も終わるというのに、アスファルトを焼き付けるような暑い日差しが、容赦なく降り注ぐ。
拭っても拭っても流れ出す汗に、手に持っていたハンカチは、水に浸したようにぐっしょりと濡れ、もはや役には立たない。
夏の終わりとは思えないほど、蝉の声が盛大にそこら中から聞こえ、暑さを余計に感じる。蝉の声に混じって、市が放送している昼を知らせる音楽が、どこからともなく聞こえてきた。
男は額に手をかざし、雨一つ降りそうにない青空を見上げた。
男が空を仰ぎ見ていると、不意に、子供の声が耳に入ってきた。
「てっぺんがおれのキチな。おまえのキチは、すべりだいのてっぺんな。キチにいるときは、こうげきしちゃだめだ」
ジャングルジムのてっぺんから、小綺麗な格好をした男の子が、下から自分を見上げている男の子に向かって言った。
ジャングルジムを見上げた、痩せ細った背の低い身なりの悪い男の子が「うん」と頷きながら返事をする。
「じめんにおりたとき、こうげきかいしだ」
「うん」
「じゃあ、これがおまえのぶんの」
小綺麗な男の子は、背の低い男の子に、水風船を数個手渡した。
「これが、ほじゅうぶんな」と言って、まだ水が入っていない風船を手渡した。
「ありがとう」
「じゃあ、いちについて!」
二人は、それぞれの自分の陣地近くへ行き、日陰に隠れた。どうやら、日陰の中に入っているときも攻撃は出来ないらしい。
男は二人の男の子たちを公園の外から眺めていた。小綺麗な男の子を見て、まだ会ったことのない自分の子供も、丁度彼くらいの大きさだろう、と思いながら、公園を後にしようと歩き出した。その脇を、数人の男子児童が通り過ぎた。一人が公園にいる子供を指さして、「あ!ビンボーユースケだ!」と叫んだ。
ユースケという言葉に、男は足を止めた。
「ユースケとあそんでるやつ、だれだ?」
「しらないヤツだ」
「ちょっと君たち」
男が子供達に声をかけると、男子児童は一斉に男を見上げた。男はにっこりと笑みを浮かべ、「ひとつ、訊きたいことがあるんだ」と言った。
子供達は男の質問に答えると、公園へ寄らずに、どこかへ走り去っていった。
男は公園の入り口に立ったままだった。
小走りに女が走ってきていたが、それにも気がつかずに、男は公園の入り口前に立ち尽くしていた。
女は男を一瞥してから、男の隣に立って「カナちゃん」と、大声で子供の名を呼ぶ。
水風船で遊んでいた子供二人が振り向いて、小綺麗な男の子が「ちょっと待ってて」と叫んだ。
男の子は、母親から隣に立つ男に目を向けたが、男は男の子に見られていることに気がついてはいなかった。男の目には、その隣にいる、身体の細い子供だけが映っていたからだ。
「ねえ、あのおじさん、おまえのおとうさん?」
身体の細い子供が、不意に男に目を向けた。男は硬直するように背筋を伸ばしたまま、子供を見つめている。
「ううん。ちがう。しらないひと」
「うそだ」
「うそじゃないよ」
「だって、あのおじさん、おまえのこと、おれのむすこだって、いったよ」
「いつ?」
「いまさっき。こころのなかで」
「こころのなか?」
「そう。でも、あのおじさん、わるいひとじゃないよ。しんようできるひとだ」
「どうしてわかるの?」
「カナちゃん、いい加減に早くしなさい。ご飯が冷めちゃう」
「わかったよ、いまいく。じゃあな」
「まって。これ、かえすよ」
「いいよ。あした、またここへくるだろ?おれ、あさってまで、じいちゃんちいるからさ。あしたも、あそぼうぜ。じゃあな」
小綺麗な男の子は母親の元へ駆け寄り、男を見上げた。男が親子に軽く会釈をすると、母親が「どうも」と言って、男の子を連れて公園から出て行った。
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