表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】Memory lane 記憶の旅  作者: 星野木 佐ノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/113

第42話(2)

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


※少し長めです。

 

 宗太郎は声を上げて笑ったが、その笑い声には「楽しさ」は何一つ感じられない、ただの「笑い」とよく似た行為をしただけだった。


「なぜ、そう思うんだね?」


「祐介と宗介さんの記憶で、腑に落ちない点がいくつかあったんです。二人の記憶は、所々、消えている箇所がある。それも、とても特徴的な消え方をしているんです。そして宗介さんに至っては、記憶を書き換えられている」


「人は、全ての記憶を覚えているわけではないんだよ。年を取るにつれ、記憶は消えていく。痴呆症やアルツハイマーといった病気もある。記憶が消えるなど、当たり前のことだ。それに、記憶の書き換えも良くある話しだ。人間は誰しも、自分が都合の良い風に、記憶を書き換えることは多々ある」


 宗太郎は穏やかな口調で言った。それに対し、要は微かに首を横に振る。


「確かに、記憶の書き換えも珍しい事じゃないし、記憶が消えるのには、幾つかの原因があります。記憶喪失もその一つです。事故や何らかのショックを受け記憶喪失になってしまった人、脳の手術をして記憶が無くなってしまったという人もいる。前行性健忘症など、色々な病気もある。でも、二人は病気じゃない。全く別のものです」


 宗太郎は何も答えず、黙って要を見ているが、その笑顔は完全に消え、冷酷で何の感情も持たない瞳が、ゆっくり瞬きを繰り返しているだけで、その他は何の動きも見せない。

 要は宗太郎の冷酷な瞳から逸らすことなく、真っ直ぐに見返した。


「普通の人が、忘れてしまったように思える記憶。でもそれは、ひょんな事で思い出せる。その記憶が、完全なものでなくても。心地よい風が吹いたときに、それを懐かしいと思う心、どこかで嗅いだことのある匂い、どこかで聴いたことのある音楽。どこでだったかはっきりと覚えていなくても、デジャブのように思えるそれらは、潜在意識が覚えているから。心が刻んだ歴史の中に残っている。だから、懐かしく感じる。本人が忘れてしまったと思っている記憶は、俺には色褪せて見えるだけで、ちゃんと消えずに残っている。じゃあ、なんで本人は忘れたと感じるか。ただ、その記憶以上に他の記憶が印象強くて、すぐには思い出せないだけ」


「なるほど。そうかもしれないね。それで?」


「祐介も宗介さんも、まるで無理矢理削り取られたかのように、記憶が消えている」 


「祐介は記憶喪失になっている」


「それとは別です」


「君は、記憶喪失者に何人触れてきた?」


「……祐介、一人です」


「では、記憶が消えている箇所というのは、一時的な記憶喪失に陥っていたのかも知れない。宗介に至っても、そう言えることが起きているかのも知れない」


「記憶喪失での消え方とは、明らかに違う」


「どうやって?」


「半透明なんですよ」


「半透明?」


「ええ。記憶喪失の場合、完全に真っ白なんです。祐介の事件前の記憶は、本当に記憶喪失で消えていた。きっと、祐介にとって忘れてしまいたいほど、辛い記憶だったんだ。でも、事件直後以降の、二人の消えている箇所は完全に真っ白じゃない。ノートの落書きを消しゴムで消したように、微かに痕跡が見えるんですよ。そこに何か書かれていた。その落書きを見るには、鉛筆の芯を横に寝かせて、撫でるように落書きの上を走らせると、落書きが浮き出てくる。半透明の記憶も、それと同じように、何かの切っ掛けで思い出せるものだ」


「なるほど」


「同様に、見えてしまっても、再び消しゴムで消すことが出来る。何度でも。それが祐介の場合、音楽だった」


 そう言うと、要は鞄から一枚のCDを取りだした。そして、近くにあったベンチに鞄を置き、中からCDウォークマンと小さなスピーカーを取り出すと、再生ボタンを押した。小さなスピーカーからは、小さな音で音楽が流れ始めた。決していい音とは言い難く、音は割れ、安っぽい音楽に聞こえる。


「スマホアプリで探したんですけど、俺が求めてる曲が無くて。音は悪いですけど。これは、ベートーベンのピアノ・ソナタ月光です。でも、重要なのは今流れている一曲目のこの曲ではなく、二曲目のアレグレットと三曲目のプレスト・アジタート。二曲目の終わりから三曲目にかけてが重要なんです」


 終始黙って立っていた宗介の腕が、ビクリと動いた。要は鋭い光をそのままに、宗介を見た。






最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


同時進行でbooks & cafeが舞台の現代恋愛小説

『光の或る方へ』更新中!

https://ncode.syosetu.com/n0998hv/




「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ