第4話(3)
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自室のドアを静かに閉めると、祐介はベッドの上に仰向けになった。今の生活に何不自由はない。記憶が戻ったところで、自分には、ここ以外に帰る場所がないことくらい、分かっている。それでも、時々夢に見る、不可解で恐ろしい夢の断片を思い出しては、自分の記憶が戻りだしているのでは、と何とも言えない奇妙な気分になる。知りたいような、知りたくないような。
その夢は、誰かに殺されそうになる夢。真っ黒い姿をした、大きな人物。髪の長い人物と、身体の細い人物が、交互に自分を殴りつける夢。あまりにリアルで、殴られた箇所が痛むことがある。そこに手を触れると、何針か縫った後があった。養父の話しによると、祐介は子供時代、活発で、しょっちゅう怪我をしていたと言う。その縫った場所も、階段から落ちて大怪我したときの痕だと、説明を受けていた。
そして、もう一つ。
同様によくみる夢があった。それは、真っ赤に染まるフローリングの床。誰かに名前を呼ばれ、我に返る。そんな夢だ。
養父と養父の父親は精神科医で、ふたりとも祐介のメンタルケアをよくしていた。子供の頃、実の両親は何者かに殺害され、自分もその被害に遭っていたが、幸い、両親ほど酷い傷ではなく、一命を取り戻した祐介は、二戸神家に引き取られた。二戸神家に引き取られた後も、よく覚えていないが、警察官と話をする機会が何度となくあったと聞いている。
養父曰く、それらの情報があって、自分が何者かに襲われるような夢を見てしまうのであろうと。祐介も、そうであろうと思っていた。
養父や養父の父に話しをした後は、ぱったりとその夢を見なくなる。そんな夢を見ていた事すら忘れてしまう。それでも、ある程度、時がたった後、再びその夢を見る。その夢を見る度、「またこの夢か」と、以前も見ていたことを思い出す。何故忘れてしまうのだろう、と思い養父に訊ねると、養父は「夢という物は、人に話してしまうと忘れてしまうもんだよ」と答えた。
今日の明け方、その「またこの夢か」と言う夢を何ヶ月ぶりかに見た。朝、養父に話をしようかと思ったが、祐介が起きた頃には既に出掛けていた。夜、話をしようと思っていたが、先ほどのTVを見て、考えを改めた。もしも、この夢が記憶を取り戻す鍵だとしたら、未だ捕まっていない実の両親を殺害した犯人を、見け出すことが出来るのかも知れない。
夢を見たことを養父に話さなければ、忘れないかも知れない。しかし、時間が経って忘れるかも知れない。そう思うと、祐介はノートに夢の内容を書き留め置くことにした。
ベッドから起き上がると、勉強机の引き出しを開け、新しいノートを一冊取り出す。
「やっぱり、僕はTVの彼女よりラッキーなのかもしれない」
失われた七年分の記憶を取り戻せるかも知れない。それは、きっと残酷で無惨な記憶かも知れない。それでも、犯人を捕まえることが出来るのなら、思い出すべき事なのかも知れない。実の両親が、どんな人達だったかは覚えていない。もしかしたら、殺されても仕方のない人間だったかもしれない。しかし、それでも自分を産んで七歳まで育ててくれた親だ。敵を討てるのは、今や自分だけなのだから。
祐介は決心したように奥歯をぐっと噛み締めると、ノートに今日の日付と夢の内容を書き留めた。
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