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不運

作者: あいうら

相棒と2人で実行した誘拐作戦は概ね成功だったといえる。


ただ1つ失敗があるとすれば、誘拐した子どもに顔を見られてしまったため、身代金を受け取った後に殺めてしまったことだ。


当初は身代金さえ手に入れば、親のもとに返してあげる予定だった。


しかし、それが原因で捕まってしまっては元も子もない。


本人はもちろん、家族にも申し訳ないことをしてしまったが、不運だったと諦めてほしい。


その誘拐事件から今日で25年。

いよいよ時効を迎える。


この25年は長く苦しいものだった。


慎重な私は、常に目立たないように人目を避けて行動してきた。


受け取った身代金も、その手の業者に依頼し、海外の銀行を通じて地道に資金洗浄してきた。


そんな生活とも今日でお別れだ。


私は相棒とともに今日という日を盛大に祝う約束をしていた。


ちょうど日付が変わる0:00にヘリコプターで東京上空の遊覧を予約していたのだ。


私は集合場所で相棒と落ち合った。


「いよいよだな。」


相棒も満面の笑みで答える。


「ああ。」


午後11:30になると、定刻通りヘリが離陸した。


スカイツリーや東京タワー、レインボーブリッジなど、東京の夜景は今までで一番美しく見えた。


「お客様はどういうご関係なんですか。」

年老いた操縦士が訪ねてきた。


「昔からの友達とでもいいますか。腐れ縁ですよ。」

相棒が答えると操縦士は「仲が良さそうで、うらやましいですね。」と答えた。


その会話をきっかけに操縦士の口数が増え始めた。


私はその他愛もない話を聞き流しながらも、時計が0:00になったことを確認し、これ以上ない解放感を味わっていた。


すると、操縦士が急に声色を変えて話し始めた。

「実はね、25年前に娘が誘拐犯に殺されましてね。たった今、時効を迎えました。」


突然の告白に私も相棒も全身が硬直する。


「あの時娘に約束しました。必ず犯人を捕まえると。でもそれも叶いませんでした。」


極度の緊張で喉が萎んでしまい声が出ない。


「私は前々から決めていました。もしも犯人を捕まえられなかったら、このヘリコプターもろとも自殺しようと。」


私はその時、ヘリコプターが暗い海の上を飛んでいることに気づいた。


「ど、どこへ行くつもりだ。」


やっとの思いで声を出した私の方へ振り向くと、操縦士は心苦しそうに言った。




「あなた方には申し訳ないですが、不運だったと諦めてください。」






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