表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の子だって異世界で暴れたいっ!  作者: 結城
冒険者ライフのはじまり
9/19

第8話 『次なるイベントの予感』

好きな物を好きなようにかいてます。

楽しんで頂ければ幸いです。

冒険者となって西の都市、リーヴァを目指して

いた私とアリエス、ウリエスの3人は偶然にも

立ち寄った村で助けを求められてしまった。

そして私達は、村の作物を狙うゴブリン約

30匹と、戦う事になったのだった。


ゴブリン討伐の為のトラップと布石は、何とか

日が沈むまでに完了した。そして私達は

夜の戦いに向けて少しばかり休んだ後、

来るであろうゴブリンを待ち構えるために、私

が考えたポジションで待機していた。



~~~~

夜、すっかり日も落ちて暗くなり、夜空の月と

星の光だけが微かに大地を照らしていた。

そんな薄暗い中を、魔物、ゴブリンの集団が

村に近づいていく。

ゴブリン達は最初、いつもなら火を起こして

周囲を警戒しているはずの人間たちの姿が

見えない事に、警戒心を覚え、ゆっくりと

防護柵に近づいていく。だが、柵に近づいた時

ゴブリン達はこれまでには無かった有刺鉄線

に気づいた。それでも、何とか侵入しようと

するが、有刺鉄線に邪魔され柵を壊すのも

簡単では無かった。そのために周囲を歩き回る

ゴブリン達。すると、ゴブリン達は一部

が壊れたままな柵を発見した。その周囲には

補修用の木材や丸まった有刺鉄線の束が

転がっている。補修が間に合っていないよう

に見えた。

そこからなら侵入出来る、と考えたのか

ゴブリン達はその壊れたままの柵から中へと

入って行った。

辺りを警戒しながらもゴブリンの群れが

柵の中に入った、次の瞬間。


『ポシュッ!』

どこからか高い発射音が聞こえてきた。突然の

音にゴブリン達が警戒を強めた時。


『パッ!』

上空で『光』が瞬いた。

日の光、とまでは行かなくとも、それによって

ゴブリン達が照らされ、夜目に慣れていた

その目で光を見上げてしまったのが悪かった。

ゴブリン達はその明るさの変化で目が眩んで

しまい、その場から動けなかった。

そして直後。


『『『『ドドドドンッ!!!』』』』

ゴブリン達の前方、約180度の距離で

爆発が5つ、発生した。



~~~

よしっ!作戦第2段階成功っ!

見たかゴブリン共っ!指向性対人地雷、

『M18クレイモア』の威力をっ!

これこそが、私の考えた作戦。

クレイモアを利用しての、ゴブリンの掃討

と、その後生き残りを私達の手で始末する。


作戦の第1段階として、ゴブリンをあの、

見せかけの、壊れたままの柵にゴブリンを

誘導する必要があった。この作戦は、そこ

からゴブリンが入ってこなかっただけで

破綻していた。だから賭けに近かった。

でも、奴らは有刺鉄線を避けてそこから

入ってきた。これで第1段階は成功。

そして、ある程度ゴブリンが入ってきたのを

確認して、私が打ち上げたのは『照明弾』だ。


これは奴らの足を止めるのと同時に、その

姿を照らし出すため。

殆ど全てのゴブリンは柵の中に入っていた。

今だっ!私は隣に居たアリエスと

ウリエスに向かって頷く。


仕掛けたクレイモアは全部で5個。それを

起爆するスイッチを押すのは、2人にも

お願いしてある。

そしてそれを合図に、一斉にクレイモアを

起爆した。


爆発によって放射状に放たれる、クレイモア

1つ当たり700個の小さな鉄球。700×5。

合計3500もの鉄球がゴブリンに真っ正面から

降り注いだ。

爆発で畑から発生した土埃が周辺を覆う中、

私達3人は、私が作った89式小銃を

それぞれ、木箱の土台にしてバイポッドを

展開した状態で構え、既に引き金に指を

掛けていた。


やがて、煙も晴れた時。

そこにあったのは、体に無数の小さな穴を開け

倒れているゴブリンの姿だった。

これは全滅かな?とか思った時。

どうやら運良く生き延びた個体が居たのか、

足を引きずりながらも、慌てて逃げ出した。


ウリエスがそれを狙撃しようとするが……。

「待ってウリエス」

私がそれを止めた。

「ミハルさん、どうして止めるんですか?

 今なら」

「うん、確かに今なら倒せるけど、でも、

 叩くんだったら『大本から』、じゃないとね」

そう呟く私に、2人は首をかしげていた。



その後、私と2人はすぐに生き残りの

ゴブリンの後を追った。

ちなみにこの時、私達3人は夜でも相手が

見える装置、『暗視装置』を装備していた。

これがあれば夜だろうが、ある程度距離が

離れてようがゴブリンの追うのなんて簡単簡単。

木々の影に隠れながらゴブリンを尾行する。

気分はまるで前世の特殊部隊だけど、今は

あまり浮ついてはいられない。逃げたと

見せかけて、周囲にゴブリンが潜んで居ない

とも限らないし。

「それにしても、なんでわざわざ大本まで

 叩くのよ」

ゴブリンを尾行しながら、アリエスが声を

掛けてきた。

「ゴブリンは魔物の中でも増殖力の高い魔物

 だって聞いたからね。だから出来れば1匹

 残らず倒しておきたいのよ」


魔物とは、生物とは異なる存在であるため

『生殖行為』という物をしないらしい。

どうやって増殖しているかは、私も知らないが

生殖行為を必要としないなら、雌雄の番いが

いる必要はない。下手したら一匹逃しただけ

でも後々増えるかも知れない。なので叩く。

「ミハルって時々凄い慎重になるわよね?」

「まぁ、実戦だからね」

アリエスの答えながら、岩陰からゴブリンの様子

を伺う。

「実際、この前の試験だって勇んでバカやった

 人達が大勢怪我してたし。勇み足になるくらい

 なら、ちょっと臆病な方が生き残る可能性は

 高いのよ」

某ロボットアニメの人も、『臆病なくらいが

ちょうど良い』って言ってたし。


現実世界(リアル)にリスポーンは無いんだから、

ゲームみたいに突っ込む勇気は私には

無いって。まだまだやりたい事もあるし。


そんな事を考えながらも、私達は遠くの

ゴブリンを追っていた。

そして、負傷しているからか、1時間くらい

だろうか?歩き続けていたゴブリンが小さな

洞窟の中に入って行った。

もしかしてあそこが巣なのだろうか?

だとすれば、あそこを『爆破』する必要が

ある。


「アリエス、ウリエス。私が入り口の

 天井付近にこれを仕掛けるから、中を

 警戒してて」

「えぇ、任せて」

「ミハルさんは私達が守ります」

私は鞄の中から爆薬、『C4』を取り出すと

アリエスとウリエスにお願いして、中を

警戒して貰っていた。その間に入り口の天井に

C4を仕掛けている。


「よしっ、2人とも、下がるよ」

「「えぇ(はい)」」

幸い、私達に気づいてゴブリン共が出てくる、

なんて事は無かったので、2個ほどC4を

仕掛けた私達は洞窟の入り口がギリギリ見える

場所まで下がった。

そして私の手には無線式の起爆装置が。


「行くよ2人とも。念のため耳を塞いで

 口を開けておいて」

と、私が指示を出すと、2人ともそれに

倣い、木の陰で耳を押さえて口を開けている。

私も右手で右耳を押さえながら、木の陰から

入り口の方に目を向ける。幸い、ゴブリンが

出てくる様子は無い。


「行くよ。3、2、1。起爆っ!」

『カチッ』、とスイッチを押し込んだ直後。

『『ドドォォォンッ!!』』

洞窟の入り口で爆発が起きた。周囲に

広がる爆風と砂塵を、木の陰に隠れて

やり過ごしたあと。私は陰から89式を

構えたまま身を乗り出し、鞄にしまっていた

暗視装置を取り出し、洞窟の様子を探る。


洞窟の入り口は、今の爆発で崩れて崩落。

崩れた土砂によって完全に塞がっていた。

更に念のため周囲も索敵するけど、ゴブリン

の姿は無かった。つまり……。

「お、終わったぁ」

私は安堵の声と共にその場にへたり込んで

しまった。実を言うと。色々Dokで作ったおかげで

魔力が結構枯渇気味で、内心倦怠感がヤバいん

だよねぇ。


すると。

「大丈夫ミハルっ!?」

「もしかしてどこか怪我をっ!?」

アリエスとウリエスがメッチャ心配してくれた。

「あぁ違う違う。魔力が不足気味でちょっと

 だるいだけだよ。心配してくれてありがと」

と言うと、アリエスは呆れたようにため息を

漏らし、ウリエスは苦笑してる。

「全くミハルは。ほら」

そう言って手を差し出すアリエス。

私がその手を取ると、彼女は手を引いて私を

立たせてくれた。

んだけど……。

「わととっ!?」

まだフラフラする。もう一度倒れそうに

なるのをウリエスが支えてくれた。


「だ、大丈夫ですかミハルさん?」

「あぁ、ごめん。正直体がメッチャだるい」

正直もう、あまり動けそうにない。

「しょうが無いわねぇ」

すると、アリエスが呆れながらもそう言って

肩を貸してくれた。

「あ、じゃあ私も」

更にアリエスも、同じように私に肩を貸して

くれた。


「ありがと、2人とも」

「気にしないで下さいミハルさん。だって、

 私達は同じパーティの仲間じゃないですか」

そう言って笑うウリエス。アリエスもそれに

同感なのか、小さく笑みを浮かべている。


その後、私達3人は元来た道をゆっくりと

帰って行った。元々襲撃があったのが

夜中だった事もあり、村へ戻る頃には

空が白み始めていた。


そして、村に戻ると……。

「あっ!おぉぉいっ!冒険者さん達が

 戻ってきたぞぉっ!」

村の入り口で待っていた男の人達が私達を

出迎えてくれた。


その後、ゴブリンの巣らしき洞窟の入り口を

崩して閉じ込めた事を話したあと、私達は

村長さんの家の部屋と布団を借り、すぐさま

爆睡してしまった。


それから数時間後、私達が目を覚ましたのは

もうお昼時も過ぎた頃合いだった。

「ふぁ~~~。よく寝た~」

「あっ、おはようございますミハルさん。

 って言ってももうお昼過ぎですけど」

「おはようウリエス。アリエスは?」

「ふふっ、隣ですよ」

「え?」

首をかしげ、ふと自分の右隣を見ると、

そこには今も眠っているアリエスの姿が。


その可愛らしい寝顔は、普段の周囲に対する

ツンツンした態度からは想像出来ないほど

穏やかなものだ。

って言うか、改めて見るけどアリエス。

やっぱり前世の日本とかでモデル出来る

くらい顔立ちが整ってるんだよなぁ。

そしてそれを言ったら双子のウリエスも

だし。でも私は前世と同じで平凡。

う~ん、女性としては負けてる気がしなくも

無いが……。まぁ良いか。


とか考えてると……。

「良かったですね、ミハルさん。ゴブリンの

 討伐が無事に成功して」

「あぁうん。正直最初のクレイモアで

 ほぼ全滅させられたのは良かったかな。

 私的には、あのあと数匹くらいは

 生き残るかもって思ってたから。

 いや~でも、正直ギリギリだったわ~

 魔力量的に」

はっきり言って昨日、あれ?今日のか。

あの戦闘で殆ど魔力を使い果たしてしまった。

う~ん。何とかして魔力を補給する方法を

確立しておかないと、いざって時魔力切れ

で動けません、ってのは2人の負担に

なっちゃうかもしれないし。


とか考えていると。

「それでも、ミハルさんは凄いです」

ウリエスが笑みを浮かべながら私の隣に

腰を下ろした。

「新人冒険者3人で、ゴブリン30匹を

 撃破なんて、簡単にできない事ですよ」

そう言いながら、ウリエスは私の肩に

寄りかかってくる。

「それに、依頼じゃないのに人助けを

 するなんて、やっぱりミハルさんは

 とっても優しいんですね」

「それは私がお人好しなだけだよ。

 困ってる人を見捨てられないって

 言うかさ」

「ふふっ、そのお人好しって、優しさと

 イコールだと私は思いますよ?」

そう言ってクスクスと笑みを浮かべるウリエス。


「でも、そんな風に優しくて強いミハル

 さんだから、私達姉妹は好きになったん

 ですけど」

そう言ってじゃれつく猫のように私に体を

寄せてくるウリエス。


い、今更ながら、2人を比較するとアリエスは

ちょっと恥ずかしがり屋なのか、愛情を

ストレートに表現出来なくてツンデレな

行動とかが多いけど、ウリエスは対照的に、

知り合いや友人程度にはちょっと壁を作ってる

感じがあるのに、私や姉のアリエスには

メッチャ甘えてくるんだよなぁ。

まぁそれが凄い可愛いんだけどさぁ。


その後、私がウリエスの頭を撫でたり

しながらイチャついていると、アリエス

も目を覚ましたので、私達は家を出て

村長さんを探した。村長さんが居たのは

クレイモアを起爆したあの偽の入り口の

所だった。


そこで壊れた柵の修理とゴブリンの

死体の処理をしていた。作戦とは言え、

クレイモアを起爆した結果、入り口付近の

柵も飛び散った鉄球を喰らってボロボロ。

死体の方も数が多いので燃やしている。


「ん?おぉこれはこれは冒険者様。 

 お目覚めになられましたか?」

私達が歩いてくるのに気づいたのか、

村長さんが声を掛けてくれる。

更にその周囲にいた村民の皆さんからも、

なんかメッチャありがたがられている。


「えぇはい。今し方」

と、話していたけど、う~ん。ボロボロに

なった柵が視界に入る。

「あの、すみません。結果的に柵を

 壊してしまって」

作戦の為とは言えやっぱり罪悪感がある。

私はそう言って頭を下げるが……。


「そんな冒険者様っ!どうか頭をお上げ

 下さいっ!あの憎きゴブリン共を

 倒して頂いたのですっ!これくらいの

 事など、どうかお気になさらずっ!」

って、村長さんが言うと更に村民の

人達が「そーだそーだ!」と声を上げて

くれる。


なら、大丈夫かな?と私は頭を上げる。

しかし直後、村長さんの表情がちょっと

陰る。なして?

「あの、非情に申し訳ないのですが、今の

 村には、皆様にお支払い出来るほどの

 お金が無く、その……」

あぁ、そっか。お金はギルドに依頼の報酬

として出してるんだから、お金がないのも

当たり前だよね。う~ん、じゃあ……。


「お金の方は別にいりませんよ?今は

 そこまでお金に困ってるわけでは

 ないので」

「えっ!?よ、よろしいのですかっ!?」

「はい。ただ、別のお願いを3つ程

 聞いて頂いても良いですか?もちろん

 断って頂いても大丈夫です」

「は、はいっ。それで、そのお願いとは?」

「1つは明日の朝まで滞在させて欲しい事。

 実は朝食どころか昼食も食べて無くて、

 お腹ペコペコで。今から村を出る気にも

 なれなくて。それと2つ目は少し何か

 食べる物が欲しいのと、これは2つ目と

 被ってしまうんですけど、干し肉みたいな、

 日持ちする食料があればそれを少し

 分けて欲しいんですが、どうでしょうか?」

「そのくらいでよろしいのですかっ!?」

私の提案に、村長さんは驚きながらも

戸惑った様子だ。


「えぇ。無いと言うお金を無理に請求する気も

 ありませんし。そもそもこれはギルドを

 介しての正式な依頼でもありませんから。

 私達が勝手に首を突っ込んだだけですし。

 なのでお金はいりません。代わりに、

 って事になってしまいますが、今のお願い

 を聞いて頂くことは出来ますか?」

「それくらいで良ければっ!喜んでっ!

 皆もそうであろうっ!?」

と、村長さんが言うと、村の人達は

笑みを浮かべながら頷く。


すると……。

「今日は宴だっ!」

村人さんの誰かが叫んだ。

「そうだなっ!今日はめでたい日だっ!

 宴をしようっ!」

更に誰かが叫んで、皆がノリノリになって

いった。

「それは良い。ならば、我々に出来る

 宴を開き、冒険者様に楽しんで頂くと

 しよう」

そこに更に聞こえた村長さんの一言で、

宴の開催が決まったみたい。



そして夜。村の中央の空き地では村の人達

が料理を持ち寄って、キャンプファイヤー

のように火を囲って談笑しながら料理を

食べたりお酒を飲んだりしていた。

私達の前には木製のテーブルが置かれ、

村の人達が作ってくれた料理が所狭し

と並んでいる。


朝と昼抜きだった事もあって、私達3人の

お腹は早く食べたいと急かすように音を

出してしまう。

「食べよっか」

流石に出されたんだから食べても良いだろうし。

私がそう言って左右の2人を見回すと、

2人とも頷いて料理に手を付けた。


それからしばらく、料理を楽しんで

いたときだった。


「しっかしよぉ、最近は街道も物騒で

 いけねぇよなぁ」

近くでお酒を飲んでいた、男の人達の

会話が聞こえてきた。どうやらお酒を

飲んで酔っているのか、会話も愚痴っぽく

なっている。

「あぁ、最近じゃ街道で魔物に襲われた

 って話も聞く。安全に街道を行くって

 んなら、冒険者でも雇うしかないが……」

「はっ!んなの金持ちの行商人だけだろぉ。

 俺等みたいな貧乏農民に、一々冒険者を

 雇う金なんかねぇってのっ」

街道で魔物、か。街道ってつまりは物流の

要でしょ?そんな所で魔物に襲撃される

なんて、それって物流の危機みたいな

ものだよね?でも話を聞いてる感じだと、

そのこと、つまり街道に魔物が出るって

話に誰かが対処してる訳でもなさそうだし。


そしてそれ故に、お金の無い人達は作物を

売りに行くのも命がけ。かといって護衛の

冒険者を雇うお金もない。

相変わらず、この世界は弱者にも容赦無い。

かといって、各地の街道に出現する魔物を

どうにかするなんて私たち3人に出来る事

じゃない。


などと考えながら、私は料理に手を付けた。


そして翌日の朝。村の人達から食料を

分けて貰った私達3人は、見送りに来て

くれた村人さんたちから感謝されながら、

その村をあとにした。



そして村を出た私達は、村長さんから教えて

貰った、この辺で一番大きな町である、

『マレマーテ』という町へ行くことにした。

そのマレマーテは、あの村の人達や、別の

村の人達も作物を売りに行く町らしい。


って事はここら一帯の治安維持とか街道の

安全を守るべきはマレマーテの町だよね?

これは領主の怠慢の予感がしてきたぞ~。

もしかすると、セナーレの町の逆で、

親がロクデナシで息子が良識ある青年、

みたいな?

実際ゲームとかで、親子なのに性格が

正反対なんてよくある話だったし。

まさかね。


なんて事を考えながら、私達はマレマーテ

へ続く街道を歩いていた。マレマーテの町まで

は馬車で1日。人の足なら3日ほど掛かるらしい。

幸い、食料はあの村の人達に分けて貰ったので

十分あるから問題無い。


「にしても、ギルドも随分冷たいのね」

歩きながら話していると、アリエスが不意に

そんな事を言い出した。

「どうしたの?冷たい、って?」

「あの村の依頼の事よ。冒険者が受けない

 のなら、誰かに強制的に受けさせれば

 良いのに」

「あぁ、その事」

仏頂面で語るアリエス。多分、依頼を受けなかった

冒険者達に怒ってるんだろう。


「まぁでも、そこは仕方無いんじゃない?」

「どうして?冒険者を庇う気?」

「冒険者って言うか、ギルドの方だよ。

 ギルドはあくまでも依頼を冒険者に

 斡旋するだけ。どの依頼を受けるかの

 選択権は冒険者にあるわけだし。

 強引に依頼を受注させて失敗。

 冒険者は死にました、ってなったら

 ギルドの信用問題とかにもなるし」

「それはそうだけど。……でも、依頼を

 受けなかった冒険者にも問題はあるん

 じゃないの?」

「それは、まぁ、何て言うか、条件が

 悪かったのもあるし。極論を言えば、

 冒険者の『仕事』はお金を稼ぐためって

 人もいるだろうし」

「あの、条件が悪かった、って言うのは?」

私の言葉に首をかしげるウリエス。


「あの数のゴブリンを相手にするのは新人

 じゃ無理に近いし、かといって中堅の

 冒険者ならもっと割の良い依頼がある

 かもしれないから、依頼を受けない。 

 新人には向かず中堅以上には旨みが少ない。

 そんな依頼だから誰も受けたがらなかった

 んじゃない?」

「だからって、それは依頼を受けなくて良い

 理由には……」


アリエスは唇をかみしめている。確かに、

あの依頼を受けないって事は村人達を

見捨てているようなもの。言い換えれば、

弱者を考慮していないようだ。

まぁでも……。


「冒険者の人達も、仕事だから依頼を受ける

 んじゃないかな。あの人達だって、

 人助けをするために依頼を受けてる訳

 じゃないだろうし」

私は静かに呟く。すると、後ろの2人が

どこか沈んだ表情になってしまう。


でも、それだけじゃない。

「だからこそ」

更に続けた言葉に、2人は私の方を向く。

私は足を止めて振り返った。


「たまには良いんじゃない?私達みたいな、

 お金のためだけじゃなく、人を助ける

 ために戦う『正義の冒険者』が居てもさ」

そう言って私は笑みを浮かべる。


すると2人は少しばかり目を見開いた後。

「全く。ホントミハルは救いようのない

 くらいお人好しなんだから」

そう言ってため息をつくアリエス。でも、

彼女は満足そうに笑っている。

「それでこそミハルさんです。それに、

 正義の冒険者って、ちょっとカッコいい

 響きですね」

ウリエスも、そう言って笑ってくれる。


「私ね、おとぎ話とかの正義のヒーローが

 好きなんだ」

再び歩き出しながら、私は語る。

「それが虚像だって、存在しない人だって

 分かってる」


光の巨人も、戦隊ヒーローも、仮面のヒーローも。

どれもこれも、人が生み出した幻影、虚像。

『存在しない英雄』。


でも、その生き方を、誰かを助ける生き方を

お手本として、同じように生きようと思える事

は出来る。彼等のようになりたい。子供の頃、

テレビの画面越しに彼等を見ながら、そう思った。


そして、それが存在しないヒーローだと

知っても、その思いは変わらなかった。

心のどこかでは否定しつつも、彼等のように、

『かっこ良く生きてみたい』って。


「でも私は、ヒーローに憧れた。彼等のよう

 になりたいって思った」

「それが、ミハルがお人好しな理由?」

「ふふっ、そうかも。私がお人好しな理由

 って、案外そんな所かも。ヒーローへの

 『憧れ』。それが、私がお人好しな理由

 なのかもしれない」

「でも、そのおかげで私達はミハルさんと

 出会い、助けられたんですね」

「そうだね」

ウリエスの言葉に頷き、前を向く。


そして、歩いていたその時。

「ん?」

何やら遠くから、ワーワーと人の声が

聞こえてきた。

「何っ?」

私達は道の脇の木の陰に咄嗟に隠れた。


「戦闘の音かな?」

各々武器に手を掛け、周囲を警戒していると……。


「ぐあぁぁぁぁぁっ……!!!」


男の人の悲鳴が聞こえてきた。次の瞬間、

私は考えるよりも先に駆け出したっ。

「ッ!あぁもう全くっ!また厄介事

 みたいねっ!」

「行こうお姉ちゃんっ!」


すると一拍遅れてアリエスとウリエスも付いて

きてくれた。

街道を走る私達。そして緩やかなカーブの

先で、私達は狼の群れに襲われている隊商

らしき馬車を発見した。


「ッ!?狼っ!?」

驚くアリエス。でも、狼に襲われてる隊商の

護衛だと思う冒険者たちは押されてる。

このままじゃ危ないっ!

「ウリエスッ!援護お願いっ!」

「はいっ!」

「アリエスは、私と一緒に行くよっ!」

「分かってるっ!」


足を止めて弓を構えるウリエス。私とアリエス

は腰のマチェットを抜いて掛ける。

その時、隊商を襲っていた狼2匹が、私達に

気づいたのかこちらに向かって来た。


私は咄嗟に落ちていた小石を拾い、走りながら

アンダスローで投げた。

投げた石が狼の顔に当る。狼は悲鳴を上げながら

足を止める。チャンスッ!

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

一気に距離を詰め、その頭にマチェットを

振り下ろした。


グシャッと言う音と共に大量の血が溢れ出し

1匹目は血に伏した。

すぐに2匹目とアリエスの方を確認するが……。


「はぁっ!」

アリエスはタイミングを合わせ、飛びかかって

来た所を避け、横から胴体目がけてマチェット

を振り下ろした。流石に一刀両断とは

行かなくても、骨を断たれた狼はその場に

倒れると動かなくなった。


「ふぅ」

息をつくアリエス。と、その時っ。

『ガササッ!』

彼女の背後にある茂みから3匹目が飛び出して

きたっ!?

「アリエスッ!」

「っ!?」

咄嗟に振り返るアリエス。間に合いそうにないっ!

そう思った時。


『ドシュッ!』

横合いから飛んできた矢が狼の脇腹を撃ち抜き、

空中でバランスを崩した狼がアリエスの傍に

倒れた。

「このぉっ!」

アリエスは起き上がろうとする狼を足で

押さえ付け、頭をマチェットでかち割った。


私とアリエスが振り返ると、そこには

サムズアップするウリエスの姿が。さっき

の矢は彼女の一撃だ。

「よしっ、これで3匹」

とは言え、今も隊商は襲われている。

「行くよアリエスっ!」

「えぇっ!」


その後、戦いに参加した私達3人の活躍も

あって、狼は無事撃退する事が出来た。

何とか狼を退けた後、隊商のリーダーを

していた、少し後退した白髪の男性が

現れ、私達にお礼を言ってきた。


「このたびは、助けて頂きありがとう

 ございます。私はこの先の町、

 マレマーテに居を構えております、

 商人の『マルコ・グランティス』と

 申します。重ね重ね、お礼申し上げます」

「いえ。私達はたまたま通り掛かっただけ

 ですから。お気になさらず。それより、

 負傷者の方は大丈夫ですか?」

「はい。噛まれたり引っかかれたりなど

 して、傷を負った者は多いですが、皆

 致命傷にはなっておりません」

そっか。死者がいないのは何より。

って、安堵していると……。


「お父様」

ん?

その時声が聞こえた。声が聞こえた方に

目を向けると、馬車の陰から1人の女の子が

現れた。良いとこの子供みたいに少し豪華な

服装。目を引くのは右側でまとめられた

銀髪の右サイドテール。

彼女はそのままマルコさんの方に歩み寄る。


「お父様、この方達はもしかして」

「そうだよマリル。先ほど私達を助けてくれた

 冒険者の方達だ」

お父様、って事はマルコさんの娘さんか。

私は念のため彼女に会釈し、後ろの2人も

軽く頭を下げる。


「お初にお目に掛かります。冒険者の

 ミハル・スプリングと言います。

 こちらは私の冒険者仲間で……」

「……アリエス・ウォーランド」

「えと、ウリエス・ウォーランド、です。

 始めまして」


相変わらず、見ず知らずの人には態度が

どこか刺々しいアリエスと、少し壁を

作って居る様子のウリエス。

「このたびは、危ない所をお助けただき、

 誠に有り難うございます」

彼女は来ていた服の、ドレスの裾を

摘まんで会釈しながらお礼を述べる。

その動きは正に『良い所のお嬢様』だ。


「私の名は『マリル・グランティス』。

 重ね重ね、お礼申し上げます」

初めて見るリアルなお嬢様に、内心私は

生まれや育ちの違いを改めて実感していた。

「え、えと、ご丁寧にありがとうございます。

 でも私達はホント偶々通り掛かって

 助けただけですから、お礼なんて……」

と言って謙遜を言っていると……。


な、なんかマリルお嬢さんがじ~っと私を

見ているんですけど。しかもちょっと

頬が赤いんですけどぉっ!?

ちょっと嫌な予感。もとい、私のアニメや

ゲーム大好き脳の第六感が、『イベントの

予感』を告げている。


そして、それは当った。

「あ、あの」

「はい、なんでしょうか?」

私は必死にポーカーフェイスを決めながら

マリルお嬢さんに答えた。


すると……。

「あの、えと、その。……お」

「お?」

何かを言いたそうなお嬢様。しかし、『お』って

何だ?と考えていた時。



「お姉様と呼ばせて頂いてもよろしいですかっ!?」


「………………。へ?」


「「はぁ?……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?!」」



突然の、お姉様と呼ばせて宣言。そして森林に

響き渡る双子姉妹の絶叫。


そんな中で私は……。


『イベントは尽きないなぁ』


なんて事を考えていたのだった。


     第8話 END


って事で新キャラ登場です。もし面白いと思っていただければ、

感想や評価などお願いします。励みになりますので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ