第7話 『思いがけぬ依頼』
今回から第2章スタートです。
日本のオタク女子としての前世を持つ私、
ミハル・スプリングは転生の時に神様へ
願って、ファンタジー世界へとチート能力を
貰って転生した。
そして16歳になった私は冒険者になるため
生まれ育った孤児院を出て冒険者ギルドの
ある町、セナーレへとやってきた。そこで
双子の姉妹、アリエスとウリエスと出会い、
2人と仲を深めながら冒険者になるための
試験を受験。これに合格、したんだけど
その後に起こした問題のせいで町を退去
するように言われ、私は仲良くなった
アリエス、ウリエスと共に3人で
旅をする事になり、一緒にセナーレの町を
出たのだった。
『パンッ!……パンッ!』
真昼の森林に木霊する銃声。その元は、私が
生み出して今ウリエスが使ってる、『スターム
ルガーMkⅠ』だ。
事の発端は町を出てからしばらくした時の事。
ある日私達は、夕食を確保するために狩りをして
いた。そして見つけた獲物は鹿。私達と鹿の
距離は100メートル以上。私は近くにあった
倒木にバッグをおいて土台にして、事前に
生み出しておいた狙撃銃、『レミントンM700』
を構えスコープをのぞき込む。M700は
最もポピュラーなボルトアクション式のライフル
と言っても過言じゃ無いほど有名な銃だ。
数々の弾丸のサイズに対応する事も可能で
今私が使ってるのは、こちらも狩猟などで
よく使われる『.308ウィンチェスター弾』。
「すぅ、はぁ」
私はゆっくりと呼吸しながら、スコープで
狙いを定め、引き金に指を掛ける。
地面の草を食べていた鹿が、その頭を
上げた瞬間。
「ごめんね」
『ドォンッ!』
ポツリと謝罪を呟いた直後、私は引き金を引いた。
その後、私達は倒した鹿を近くの川まで運んで
血抜きをしていた。で、もう時間も遅いから
今日はこの川辺でキャンプをする事になった。
私が鹿を捌いてる間に、アリエスは近くから
薪などを拾ってきて火打ち石で火を起こしている。
ウリエスはセナーレの町で買っておいたキャンプ
セットのテントを組み立てている。
しっかし、まさか私が猟師みたいに動物を捌く事
が出来るようになるとは、前世で普通にJK
やってたときは、血を見るのも苦手だった
のになぁ。ホント、慣れって恐ろしいわぁ。
とか考えつつも手を動かし、捌き終えた
肉をまとめて、セナーレの町で買っておいた
塩を揉み込み、置いておく間に、食べる肉
以外は穴を掘って埋めておく。
そのままにしておくと、血の臭いで野生動物や
魔物を引き寄せてしまうから。
それからしばらくして、塩を揉み込んでおいた
鹿肉を火で高温に熱した石で更に焼く。
う~ん、気分は焼き肉。
アニメとかだと、普通に木の枝を串みたい
に使ってるけど、あれだと正直衛生面が
心配。なので、高温に熱した石を使って
焼いていく。
そして焼き上がった肉と、狩猟をしている
傍らで見つけた果物を夕食として3人
で食べていた。
そして食後、のんびりしていた時の事だった。
「そう言えば、ずっと気になってて聞き
そびれてたんですけど、ミハルさんの
使ってる武器って、どう言う仕組み
なんですか?」
「あぁ、銃の事?」
ウリエスがひょんな事から銃に興味を持った
みたい。って言うか初めて使ったとき
詳しい説明は後で、って言って全然説明
してなかったっけ。まぁ彼女達になら話を
しても問題無いだろうし、私は2人に
大まかな銃の説明を、実物のM1911A1や
その銃弾を交えながらした。
ただ、火薬とか無い物、未だに存在しない
ものの説明込みでちょっと苦労したけど。
「成程。つまり爆発する粉の力で、鉄の
塊、銃弾というものを目に見えない速度
で相手に打ち込む、と言うのが銃なん
ですね?」
そう言いながら手にしていたACP弾を
私に返してくれるウリエス
「そうそう」
「にしても、こんな複雑な物じゃミハル
の力以外だと作れなそうね」
アリエスは、ホールドオープン状態の
M1911A1の機関部をのぞき込みながら
そんな事を言ってる。
「まぁ確かにね。私だからこそ作れるし、
実際、弾って矢なんかよりも作りが
複雑で大変。しかも実戦じゃ普通に何十発
って使っちゃうから、使うにしても結構
弾を確保しないとだしで大変でしょうね」
この世界で銃を運用するのなら、私という、
と言うか、『ドリーマーオブナイト』という
生産工場が必要不可欠だ。銃弾を生産する
意味でも、銃本体を生産する意味でも。
しっかしファンタジー世界で早速ミリタリー
テイストな事をやってるなぁ私は。
とか考えていた時。
「あの、ミハルさん」
「ん?どうかしたウリエス?」
「その銃って、私やお姉ちゃんも使ったり
出来るんですか?」
「うん。もちろん出来るよ。ちゃんとした
操作方法と正しい持ち方とかは私が
教えてあげられると思うから」
「じゃあ、教えて貰って良いですか?
私、2人の足手まといにならないように、
強くなりたいんです」
そう言ってやる気を示すウリエス。やっぱり
良い子だな~ウリエス。
私はそう思って隣に座っていたウリエスの肩に
手を回して抱き寄せる。
「はわわっ!?ミハルさん!?」
「強くなりたいってウリエスの思いは尊重する
けど、でも自分を足手まといとか
言っちゃダメだよ。これから少しずつ
強くなっていけば良いんだから」
「は、はひっ」
顔が真っ赤なウリエスは可愛いな~。
とか思いながら彼女の頭を撫でてると……。
「……」
『スススッ』
何やら無言で体を寄せてくるアリエス。
あぁ、妹だけ構ってるから寂しいのか~。
でもそれを素直に言葉では表せない。
なんてテンプレ的ツンデレっ!
ここは……。
「折角だから……」
「あっ」
声を掛けながら彼女の腰に手を回してアリエスも
抱き寄せる。
「アリエスも銃の勉強する?」
「ッ~~~!い、いきなり抱き寄せるなんてっ!」
「なんて?」
顔を真っ赤にして抗議するアリエス。その続きを
促すと……。
「そ、その、ドキドキ、しちゃう、じゃない」
顔を更に赤くして俯きながら呟いている。
その初々しい感じが、何と私に刺さる事か。
結論、私のツンデレ彼女がめちゃくちゃ可愛いです。
もしかして私元から百合の気があったのかな?
まぁ実際そっち系の漫画結構読んでたし。
んでそっから調子に乗って頭とか撫でたら
『調子に乗りすぎっ』、ってアリエスに怒られた。
でも撫でられてまんざらでも無かったみたい
だよ?って聞こうとしたけど、更に怒られそう
なのでやめた。
で、話を真面目な方向に戻して……。
「それでアリエスはどうする?ウリエス
みたいに銃の扱い学んでおく?」
「そうね。学んでおいて損な事は無いし、
お願いしようかな」
「OKOK。じゃあ、明日から始めよっか」
って事で私は2人に銃の扱いを教える事に
なった。
ちなみに、それとは関係無いけど、野営を
するのに使うテントは、大の大人数人が
入れるサイズなので、女子3人なら窮屈な
思いをすることは無い。でも……。
夜、寝るときになると決まって2人が私の
傍に寄ってくるんだよなぁ。
右にはアリエス。左にはウリエス。3人
揃って肩を寄せ合って眠る。今では
すっかり眠る時は両手を抱きしめられるのが
当たり前になっている。
おかげで夜、トイレに起きた時脱出するのが
一苦労だけど。まぁでも好かれてるって
ストレートに実感出来るから悪くは無いん
だけどね。
と、まぁそんな事があって時間を見つけては、
2人に銃の扱いを教える事に。そこで私が
創り出したのが、小さめの銃弾、『.22LR』弾を
使う『スタームルガーMkⅠ』。
何故この銃を選んだのか、と聞かれると理由は
むしろ銃弾の方にある。拳銃弾の中でも
小さい部類の.22LR弾は前世でも訓練用に
適していると言われている弾丸だった。
他の弾より反動も小さく、音も小さい。
更に理由は不明だけど、どうやら私が生み出す
銃弾も、種類によって消費する魔力量が
微妙に違うみたい。それは大口径の弾ほど
大きくなっていき、逆に小口径なら消費する
魔力量も小さくなる。
そう言ったメリットと、まだ銃声や銃を撃つ
反動になれていない2人の慣し、って事で
このスタームルガーMkⅠを生み出した。
MkⅠを使っての訓練も、数日やれば慣れた物。
『パンッパンッ!』
すっかり日課になった。朝の射撃トレーニング
で2人は30メートルほど離れた場所に私が
立てた的、大体成人男性サイズくらいのそれに
全弾当てている。
「うん。もうルガーMkⅠの操作は問題
なさそうだね」
「そうね。でも、これでもまだ反動は小さい
方なんでしょ?」
アリエスは頷きながらも、マガジンを抜いて
薬室に弾が残ってないかを確認すると、
MkⅠを私が作ってあげた右腿のホルスター
に収め、逆の足、左腿に付いてるマガジン用
ホルスターに空になったマガジンを戻している。
「まぁね。2人にMkⅠを渡したのは
訓練って目的があるから。それに使ってる
.22LR弾も威力は弱い方で、戦闘とかには
あんまり向いてない弾だから。まぁそれでも
MkⅠも命中精度とかは良いから、頭とか
心臓とか、弱点を狙って当てられる腕があれば
十分実戦でも使えるだろうけどね」
威力の高い弾だって当らなければ意味が
無い。某赤い彗星の人もビームライフルを
『当らなければどうと言う事はないっ!』
って言ってたのと同じ。逆に言えば、
威力が低くても、脆い所に当てられる
技術があると十分使えるって話。
とは言え、今の2人どころか私でも動く
相手に当てるのは簡単じゃないけど。
「じゃあ、もうしばらくしたら、私達2人も
ミハルさんが使ってるのと同じ銃を
使えますか?」
ウリエスも、MkⅠを腿のホルスターに
戻しながら問いかけてくる。
「まぁね。多分近いうちには渡せると
思うから。楽しみにしてて」
「えぇ。そうね、楽しみに待ってるわ」
「はい。これで3人、お揃いですね」
私の言葉に笑みを浮かべる2人。
しかし、武器をプレゼントでこんなに
喜ばれるなんて。う~ん、前世とのギャップを
感じる。
ちなみに、今の私達の武装は、私がM1911A1
と背面にあるマチェット。アリエスは私と同じ
マチェットとMkⅠ。ウリエスはMkⅠ。弓と
背中に矢筒。あと護身用に、左腕の二の腕に、
巻き付けるタイプの鞘を付くって、そこに
短刀を1本持ってる。何気にウリエスが一番の
重装備だったりする。
とまぁ、そんな訓練をしたり、狩猟して夕食
を手に入れたりしながら、私達は目的地
である都市、リーヴァを目指して西へ向かって
いた。そんなある日の事。
西へと延びる街道を歩いていた時。
「あっ、ねぇ2人とも。村だよ」
前方に小さな村が見えてきた。
「どうやら今日は野宿しないで済みそうね」
「良かったねお姉ちゃん、ミハルさん」
「そうね~。テントだと、殆ど固い地面
の上に寝るようなものだし、たまには
ちゃんとしたベッドで寝たいからね~」
なんて話をしながら私達はその村の方へと
進んでいったんだけど……。
「あれ?」
その途中、村を囲う防護柵に近づいた時、
よく見ると柵が所々壊れている事に
気づいた。
「これって、壊れてる?」
「「え?」」
私の言葉に2人が首をかしげてから
周囲を見回している。
「あっ、ミハルさん。あれ」
「ん?」
何かを指さすウリエス。彼女が指さす方を
見ると、畑があった。でも、その畑はまるで
野党に荒らされたかのようにグチャグチャで、
僅かにボロボロの野菜クズが転がっているだけ
だった。
「これは、もしかしなくても何かあった
感じだね。2人とも、念のため気をつけて」
「「えぇ(はい)」」
明らかに普通じゃ無い事態に、警戒しながら
村の中へと進んでいく。
すると……。
「ん?」
村人だろうか、男の人がどこかやつれた様子
で近くの民家から出てきて、そちらに
向かっている私達に気づいた。更に私達が
武装している事に気づくと……。
「お、おぉぉいっ!皆ぁっ!」
急に叫び始めたっ!?な、何事っ!?
私達は驚きながらも、いつでも抜けるように
腰のマチェットの柄に手を掛ける。
「冒険者だっ!冒険者が来てくれたぞぉっ!」
そう言って村の奥に向かって駆け出す男性。
なんか、少なくとも私達を警戒してるとか
攻撃しようとしてるって感じは無い。
って言うか、来てくれた、って言った?
「な、何?あれ?」
「さ、さぁ」
とりあえず襲われる心配はなさそうなので、
私とアリエスはマチェットから手を離し、
ウリエスも矢筒に伸ばした手を戻している。
やがてしばらくすると、あちこちから
ワラワラと人が出てきた。
「おぉっ!ホントだっ!冒険者だぞっ!」
「良かったっ!来てくれたんだっ!」
「ありがたや、ありがたや……!」
そして私達を見るなり喜んだり、なんか
拝んでるようなおばあちゃんまで居るしっ!?
ちょっ!?ホントに状況が読めないんだけどっ!?
すると……。
「よくぞ来て下さいました。冒険者様」
村人達の中から、白髪のおじいちゃんが
現れた。もしかして、村長さん?
「あ、あの、えっと、これはどういうこと
ですか?」
全く状況が読めず、聞き返してしまう。
「いえ。やっとこさ依頼を受けて来て
くれた冒険者に、皆喜んでいるのですよ」
「は、はぁ」
もしかして、この村から何か依頼を出して、
私達がその依頼を受けた冒険者と勘違い
してるの?
どうしよ、これ?って感じの視線を後ろの
2人に送ると、2人も困った様子で首を
かしげている。
するとそれを見ていた村長さんが……。
「も、もしや、依頼を受けてくれた冒険者、
ではないのですか?」
なんか絶望したような表情してらっしゃる!?
しかもそれが瞬く間に伝播して周囲の村人
さんたちも、今にも『嘘だっ!』って叫び
たそうな表情してるぅっ!?
あれ?これってもしかして冒険者の私達が
来たから、逆に一旦上げてぬか喜びさせ
ちゃってるパターンッ!?それって喜んだ分
ダメージでかいよねっ!?
あぁ、もう、こうなったらっ!
「確かに、私達は通りすがりの冒険者です」
って、私が言うと村長さん達が落胆した様子で
俯いてしまう。
「でも待って下さいっ!」
なので、彼等の注目をもう一度集める為に声を
大にして叫んだ。
「今日ここに私達が訪れたのも何かの縁です。
何があったのか、ゆっくりお話を聞く事は
出来ませんか?もしかしたら私達3人で
何か出来るかもしれませんし」
そんな私の言葉に、村人さん達は再び目の色を
取り戻した様子で喜んでいる。
「では、儂の家までお越し下さい。詳しく
お話をさせて頂きます」
「はい、分かりました」
その後、私達は村長さんに案内されながら
その家に向かっていた。で、その道中。
「相変わらず、お人好しよねミハルは。
自分から問題に首突っ込んでるんだから」
隣を歩いていたアリエスがあきれ顔で
声を掛けてきた。
「ごめんね、なんか結果的に2人まで
巻き込んじゃったみたいで」
「べ、別に、気にしてないわよ。その
お人好しな所は、もう分かってた事
だし。そ、それに、私達は好きで
ミハルと一緒に冒険してるんだから、
これくらい……」
私が謝ると、アリエスは顔を赤くしながら
ツンデレ発言をしてる。
やっぱり私の彼女はメッチャ可愛いです。
「そのお人好しな所もミハルさんの良い所
です」
更に笑顔で褒めてくれるウリエス。
何て可愛く、そして出来た彼女なんだろう。
とか、緩んだ事を考えながら村長さんの
後に付いていったけど、話を聞くときは
やっぱりシリアスモードじゃないとね。
「それで、依頼を出した、と言う事でしたが、
その内容を詳しく教えて貰って良いですか?」
村長さんの家に案内された私達は、早速
話を聞くことにした。
「はい。事の始まりは、今から3ヶ月と少し
ほど前の事でした。ある日の夜、村の若い男
が物音に気づいて目を覚まし、何事かと畑
の方に行ってみると、そこにはゴブリン
がいて、収穫間際だった野菜を奪って
いました。咄嗟に男が声を荒らげると、
ゴブリンはすぐさま逃げていったそうです。
それからと言うもの、定期的に現れては畑
を荒らしていくゴブリン達に、村の若い
男衆が畑を守ると言い出しまして。
最初は相手も数匹のゴブリンでしたので、
村の男共でも追い払えては居たのですが、
次第にゴブリン共が数を増していき、
村の衆だけではどうする事も出来なく
なってしまいました。今では少ない
食料を何とか守るのが精一杯でして」
成程。そう言えば村人が集まってきた時にも、
怪我をしていた男性を何人も見かけたっけ。
「それで少し前、村の者達で話し合い、
ここから馬で1日ほどの町のギルドに
ゴブリン討伐の依頼をしました。村の者達
もお金を出し合って何とか報酬金を
集めたのですが、中々冒険者が来て貰えず、
もう一度ギルドに使いを出して話を聞いた
のですが、数が多く新人向きではない。
かといって中堅には報奨金の額から
言って実入りが少ないので、誰も受けたがらない、
とまで言われてしまう始末でした」
……なんとまぁ酷い話だ。
しかし、数が多くて新人向きじゃない、
ってのは?
「あの、ゴブリンの数って分かりますか?
具体的でも良いので」
「はい。分かっている限りでは30匹近く。
それ以上はいないと思いますが」
30匹、か。それは確かに新人向けじゃない
よね。数が多いって事は、戦っても最悪
囲まれて嬲り殺し。かといって中堅冒険者は
依頼の報酬金額が低いから受けたがらない、と。
「……これだから金の亡者は」
私の後ろでポツリと呟くアリエス。
あぁ、まぁお金云々が第1な奴らは嫌い
だよね。実際そんな奴のせいでセナーレ
の町を出なくちゃいけなくなった訳だし。
しかし、ゴブリン30匹ほど、か。となると
私達1人当たり10匹は殺さないといけない
計算になるけど、とてもそこまでの技術は
今の私達には無い。ただし、それは正面から
ぶつかりあった場合の話。
「あの、いくつか質問しても良いですか?」
「えぇ。どうぞ、儂に答えられる事ならば、
いくらでも」
私の質問に頷く村長さん。その時、後ろに
座っていたアリエスが私の肩に手を置いた。
「ちょっとミハル」
振り返ると彼女が小声で声を掛けてきた。
「分かってるの?相手は30匹を超えてる
のよ?いくら銃があるからって、その数
は相手に出来ないんじゃ?」
「うん、アリエスの心配は最もだよね。
確かに今の私達じゃ銃があっても一気に
30匹を相手にするのは無理だよ。
でも大丈夫。要は、私達が相手できる数
まで減らせば良いんだから」
そう言って私は笑みを浮かべる。
「その表情、何か作戦があるんですね?」
「もちろん」
ウリエスの言葉に私は頷く。
生憎私は脳筋じゃないし、リアルな戦いは
ゲームみたいに『レベルを上げて物理で殴る』
なんて出来ない。だからこそ作戦を練る。
そしてそれはもう、既に頭の中で出来上がっていた。
「ゴブリン共を蜂の巣に作戦がね」
その後、私達は村長さんや村人さん達に
協力をお願いして、ゴブリンに破壊された
防護柵の修理と、更に私が『ドリーマーオブ
ナイト』、略してDoKを使って生み出した
有刺鉄線を防護柵に施していく。
私がこれを産みだした時には驚かれたけど、
村長さんの話で、今日の夜にもゴブリンが
来るかもって言うから、皆私の話を聞いて、
急いでこれを柵に取り付ける作業をしてくれた。
みんなが柵の補修作業をしている間、私は
村の一角で『それ』を生み出していた。
これを上手く使えば、ゴブリンの群れも
壊滅させることが出来るかも知れない。
仮に生き残りがいたとしても、私達
3人の射撃でどうにか出来るだろうし、
真夜中に射撃出来るための装備も、既に
整えてある。
おかげで魔力の消耗が少し激しいけど。
でもゴブリンを30匹も迎撃するには、
今の私が思いつく作戦上これが必要不可欠だ。
で、それの準備をしていると、そこに
有刺鉄線の作業を手伝っていたアリエスが
戻ってきた。村の人から借りた、服の上に
来ている厚手の上着は所々ボロボロだ。
「ふぅ、ミハル。あのゆうしてっせん?
とか言う奴を柵に付ける作業、粗方
終わったわよ。そっちはどう?」
「大体は終わったかな。あとはこれを
セットするだけだよ」
と、話をしていると……。
「ねぇ」
突然、アリエスが私の隣に腰を下ろした。
「勝てるかしら。私達」
そう語る彼女の表情はどこか不安そうだ。
まぁでも無理は無いのかもしれない。
ゴブリン30匹以上を相手にするなんて、
どう考えても新人冒険者3人の仕事じゃない。
だから感じるプレッシャーは相当な物のはず。
「大丈夫だよ」
だからこそ、彼女を安心させる意味でも、私は
アリエスを優しく抱き寄せた。
それだけで彼女は顔を赤くするけど、今は
シリアス、って言うか本気モードで語る。
「私が、アリエスもウリエスも、ちゃんと
守るから。まだまだ始まったばかりの
冒険を、旅を、こんな所で終わらせたり
しないから。私が、必ず守るから」
「う、うん」
そうだ。まだまだ始まったばかりの旅を
こんな所で終わらせてたまるかっての。
アリエスは柵の補修を手伝っている
ウリエスの方を見てくると言って離れた。
そんな彼女の背中を見送った後、私は
念のために、もう数個『あれ』を作っておく
事にした。
来るなら来てみなさいゴブリン。文字通り、
蜂の巣にしてやるんだから。
私たちは必ず勝つ。そんな気概を現すように、
私はこの作戦の要である『それ』を更に生産
するのだった。
第7話 END
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