第5話 『騒動の後の騒動』
今回はちょっとシリアス(?)回だと思います。
キャンプ地でのホブとゴブリン掃討を終えた
私達は、監督役の冒険者やギルド職員の
人達と共に町のギルドへと戻っていた。
不足の事態もあって、試験は殆ど中止。
ホブ襲来以前にキャンプに戻っていた
冒険者はそのまま試験の結果を鑑みて
合否判定を下すらしい。戻ってなかった
人は、中止となった事で、次の試験までの
準備をする為のと、それまでの町での
滞在費などをギルド側が負担することに
なったらしい。
まぁ、私達は戻ってたからその辺は関係無い
んだけど。
とか思いつつ、私はアリエス、ウリエスと共に
ギルドの片隅で椅子に座ったまま休んでいた。
今はギルドの合否判定待ちだ。
「は~~。疲れた~~」
「大丈夫ですか?ミハルさん」
「あぁ、うん。体は大丈夫なんだけど、魔力
を結構使ったから、そっちの消耗がね」
体力の方はちょっと疲れてる程度だから
問題は無いんだけど、魔力を消費した事
による倦怠感は、どうしようもない。
まぁ、休んでるから少しは回復してるん
だろうけど……。
とか思いながら休んでいると……。
「ちょっと良いかしら?」
「んへ?」
眠かった事もあって、変な感じで返事しちゃった。
見ると、ギルド職員のお姉さんが傍に
立ってた。
「ミハル・スプリングちゃん、だよね?」
「そう、ですけど?」
「よかった。それで、疲れてる所
申し訳無いのだけど、支部長が
あなたと話したいそうなの。来て貰って
良いかしら?」
ギルド支部長直々のお呼び出しかぁ。
じゃあ断るわけにはいかないよね。
「分かりました」
私は頬を軽く叩いて眠気を飛ばしてから
立ち上がる。
「ありがとう。じゃあこっちよ、
付いて来て」
「ごめん、アリエス。ウリエス。
ちょっと行ってくる」
「えぇ。ここで待ってるわ」
「いってらっしゃい、ミハルさん」
2人に見送られながら私はお姉さんに
続いてギルド支部長の部屋に向かった。
「ザックス支部長。ミハル・スプリング
をお連れしました」
「あぁ、ご苦労。下がって良いぞ」
部屋に入ると、あの褐色肌に白髪の支部長
さんがいた。
「失礼します」
そう言って、お姉さんは部屋を出た。
これで部屋に居るのは私と支部長さん
だけだ。
う~ん。気分は就活で面接に来た大学生。
……就活したこと無いけど。
「どうした?」
「あ、えっと、その……」
その時、声を掛けられ私はガチガチに緊張
していた。
って言うかそもそも私なんで呼ばれたのっ!?
そこ分かんないからメッチャ緊張してるん
だよねぇっ!
「あの、私はどうして呼ばれたんでしょうか?
もしかして、何か不味い事でも、して
しまったでしょうか?」
「あぁ、それで緊張してたのか。
まぁ座れ」
そう言って、支部長さんは執務机の前にある
ソファに座るように促す。
「し、失礼します」
私は内心冷や汗をかきながら席に腰を下ろした。
「さて、まずは自己紹介からだな。俺は
『ロバート・ザックス』。この町の
ギルド支部を任されてる者だ」
「えと、私はミハル・スプリング。冒険者
志望、です」
「あぁ、聞いてるよ。それと、あんまり心配
しなくて良いぞ。俺はお前を咎めるつもり
はない。ただ、お前はゴブリンとの戦闘の時
に摩訶不思議な武器でホブを倒したって
話を現場に居た奴らから聞いたからな。
そのことについて、少し聞きたい事が
あったんだ」
あぁ、そっちで呼ばれたのか。それじゃあ
ちょっと安心。
でも……。
「あの、その事なんですが……」
「ん?」
「出来ればあまり周囲に広めないように
ご配慮いただいても良いですか?」
「む?別に構わんが、何故だ?」
「何と言いますか、下手に周囲に広まると
私が狙われかねない情報なので」
私のユニークスキル、『思い遂げる力』は
魔力さえあれば武器や防具、アイテムが
作り放題だ。当然、その能力欲しさに私に
襲いかかってくる連中も、いないとは
言い切れない。
「ふむ。まぁ良いだろう。その代わり、
ちゃんと話して貰うぞ?」
「は、はい。では、お話しします」
私はザックス支部長に、私の持っている
ユニークスキル、『思い遂げる力』の概要を
説明した。
「成程。魔力を糧として武器を作れる
能力か。こいつは確かに珍しいし
使える、その上金になる能力だな」
そう言って頷くザックス支部長。よかった。
能力の重大さは伝わったかも。
「なら、お前がホブを倒したのに使った
って武器も?」
「はい。私のスキルで生み出した物です。
このスキルの良いところは、それが
実在した物である必要は無い事です。
ある程度、どうやって動くの?とか、
どうやって使うの?と言うイメージが
出来れば生み出す事が出来るんです」
「つまり、自分オリジナルの武器を
1から作り出せるって事か。
何とも凄いユニークスキルだな。
ユニークスキルは使えない物の方が
多いと聞いていたが、お前のは
反対に万能に近いな」
そう言ってため息を吐くザックス支部長。
「分かった。お前のスキルの事は、周囲には
話さない。これで良いか?」
「はい。ありがとうございます」
「よし。なら話は終わりだ。悪いな、
疲れてる所呼んじまって」
「いえ。では失礼します」
話が終わり、って事で私はソファを立って
ザックス支部長に頭を下げてから退室
しようとした。
「あぁ、そうだ」
しかし何か思い出したように呟くザックス
支部長が気になって足を止め、振り返った。
「どうかしました?」
「あぁ、お前とあとの2人だが、喜べ。
冒険者試験は合格だ」
「ッ!本当ですかっ!」
「あぁ。試験の成績も優秀。しかもホブとの
戦いでホブ4匹を倒し、更に1匹の
討伐に貢献したのは、流石に無視出来ない
功績だからな」
やったっ!これで冒険者になれるっ!
「ただ、成績発表の時まで他の2人にバラすなよ?」
「はいっ!」
その話を聞いた私は、意気揚々と支部長室をでて、
アリエスとウリエスの所に戻った。
「あっ、ミハルさん。お帰りなさい」
「お帰りミハル。どうだった?どんな話したの?」
「ちょっと私の力の事で確認したい事が
あったんだって。特にやらかしたとか、
そう言うのじゃ無いから安心して」
あった事を話しながら、私は2人の
隣に腰を下ろした。
それからしばらく談笑していたのだけど……。
「ねぇ」
「ん?何、アリエス」
「ミハルって、冒険者になったらこの町で
暮らしながら依頼を受けるの?
それとも、色んな町を渡り歩く、とか?」
「う~ん。今のところセナーレの町を
出て行く気は無いかな~。懐もまだ
心許ないから、町を出るにしても、
しばらくは依頼をこなして、冒険者
の仕事に慣れてから、かな」
「ふ~ん。そう」
私の答えのどこが嬉しいのかは分からないけど、
何故か嬉しそうに頷くアリエス。
やがて……。
「あ、あのさミハル。もし、アンタが良いって
言うならだけど、しばらくは、私達とその、
一緒に」
と、アリエスが言いかけた時。
「あ~!これより、試験を受けた者たちの
合格発表を行うっ!」
ザックス支部長が直々に現れ、合否発表
を始めた。そのおかげで、と言うべきか。
或いはそのせいで、と言うべきか。私も
アリエスもウリエスも、そちらに意識を
向けてしまった。
「これから合格者の名前を1人ずつ
読み上げていく。従って、呼ばれなかった
者は失格って事だ。まぁ、だからといって
気を落とす必要は無い。今回は不測の
事態もあって試験自体が上手くいった
とは言えない。なので、もう一度試験に
望む気概があるのなら、何度でも挑戦
して欲しい。さて、では早速合格者の
名前を読み上げるとしよう。呼ばれた者は
返事をする事。では……」
そう言うと、ウォーレン支部長が名前を
読み上げ始めた。
「まず一人目っ!アリエス・ウォーランドっ!」
「ッ!?は、はいっ!」
あいうえお順なのか、真っ先に名前が挙がる
アリエス。彼女は驚いた様子で返事を返す。
「次っ!ウリエス・ウォーランドッ!」
「は、ふぁいっ!」
更にウリエスも呼ばれ、緊張からか舌を噛んだ
様子だった。
「や、やったねウリエスっ!」
「うんお姉ちゃんっ!今日から私達、
冒険者だよっ!」
2人は姉妹仲良く、嬉しそうに手を取り合って
喜んでいる。その光景を微笑ましく思って
いると……。
「最後に、ミハル・スプリングッ!」
「ッ、はいっ!」
私も呼ばれ、元気よく返事を返した。
「以上ッ!」
そして、私を最後に読み上げは終わり、
多くの受験者たちが嘆いている。
そう、今回呼ばれたのは、私達を含めて
10人ほど。今回の試験の参加者は30人以上
はいたから、3分の2が落とされたって事だ。
「では次に、合格者へステータスプレートを
与える。名前を呼ばれた順に俺の所へ来い。
こいつは持ち主が口づけをする事で
持ち主を識別し、冒険者としての名前が
刻まれるアイテムだ。まず、アリエス・
ウォーランド」
「は、はいっ」
緊張した面持ちで前に出たアリエスは、
ザックス支部長から小さな親指サイズの
金属プレートを貰うと、それに口づけを
した。すると、プレートが光り輝き、
光が収まるとそこにはアリエスの
フルネームと性別、そして現在の冒険者
ランクが記載されていた。
更に説明がされ、ステータスプレートは
持ち主の『オープン』と言う発声に
よって持ち主の詳細なステータスを
空中に投影する機能もあるらしい。
ちなみにステータス画面を閉じる方法は
『クローズ』らしい。
……なんてゲーム的なんだろうと私は思った。
で、そのステータスプレートの見た目は、
軍人のドッグタグに近いかな。
「や、やったっ!」
アリエスは、満面の笑みを浮かべながら私の
方へと戻ってきた。
「やったわよウリエスっ!」
「うんっ、お姉ちゃんっ!」
「次っ、ウリエス・フォーランド」
「あ、はいっ!」
名を呼ばれ、支部長の方へと向かったウリエス
が、プレートを受け取ったその時。
「納得できるかっ!!!」
不意に怒声が響いた。私達が声の方に視線を
向けると、声の主はあのシンとか言う
貴族坊ちゃんだった。
「なんで、なんで僕が失格で、そんな
平民如きが合格出来るんだっ!おかしいだろっ!」
ヒステリックに叫ぶ坊ちゃん。
「これは公正な試験の結果だ。ただでさえ、
お前は周囲の忠告を無視して森の奥へ
行き、ホブをキャンプに招くと言う醜態
を晒した。そんなお前が冒険者になれる
とでも……」
「うるさいうるさいっ!僕はここの領主の
息子だぞっ!」
ザックス支部長の言葉を遮り叫んだ坊ちゃんは、
あろう事かウリエスに目を付け、彼女の方に
大股で歩み寄ると……。
「寄越せ平民っ!それは僕のだっ!」
「ッ!?何するんですかっ!?やめて
くださいっ!」
ウリエスの持っていたプレートを奪おう
としてるっ!?どこまで腐ってるんだっ!
呼ばれた人の邪魔にならないように下がっていた
私とアリエスは咄嗟に駆け出した。
「寄越せっ!」
『ドガッ!』
「きゃぁっ!?」
すると、奴はあろう事かウリエスを突き飛ばしたっ!?
しかもその衝撃でウリエスが落としたプレートを
我が物顔で拾っているっ!?
「ウリエスッ!大丈夫っ!?」
私は咄嗟に倒れたウリエスに駆け寄る。
「な、なんと、か」
彼女は倒れたが、それだけのようだ。
「貴様ァッ!妹のプレートを返せっ!!
返さないならっ!」
妹を傷付けられ激昂したアリエスはマチェット
の柄を握りしめて、今にも抜いて斬りかからん
ばかりの気迫だっ!
「はっ!黙れ平民っ!こいつは僕の物だっ!」
「ッ!?どこまでも腐ってる奴が、何を
偉そうにっ!」
マチェットを抜こうとするアリエス。
「アリエスッ!ダメっ!」
「止めるなミハルッ!こいつだけはっ!」
このままじゃアリエスが殺人者になる。
殺したいほど憎いのは分かるけど、
あんな奴を命1つで、人殺しになる必要は
無い。
そう、言おうとした時。
「分を弁えろ平民っ!ここは僕のお父様が
治める町だぞっ!そこで僕に手を出して
ただで済むと思うなよっ!町から
追い出すことだって簡単なんだぞっ!」
「ッ!?」
お坊ちゃんの言葉に、アリエスの手が
震え、マチェットを抜くのを躊躇わせる。
更に彼女が俯いた時。
「アリエスッ!前っ!」
「おらぁっ!」
『ドンッ!』
「ぐっ!?」
お坊ちゃんがアリエスの腹を蹴った。
そのまま後ろに倒れるアリエス。
「アリエスッ!?大丈夫っ!?」
「平気よっ!」
どうやら威力は大した事ないのか、彼女は
すぐに体を起こして、お坊ちゃんを
睨み付ける。
「あぁ、何を見てる平民っ。気安く僕を……」
そう言いかけ、奴は何かに気づいた様子だ。
何だ?
と思って居ると……。
「く、くくっ!何だお前達のその目はっ!
よく見れば、左右で色が違うなぁっ!
しかも姉妹で左右逆とはなぁっ!」
「「っ!?」」
奴の言葉に2人は息を呑む。あいつ、
オッドアイに気づいたのか?
「可笑しな目をしやがってこの平民がっ!
いや?そんな目をしてるのだから、
もう化け物だなぁっ!だったら人間の僕が
お前達から物を奪って何が悪いっ!
あはははははっ!」
『プツンッ』
その時、私の中で何かが切れた。
……そう言って、奴は勝ち誇ったように嗤っている。
『許せない』。
「……嗤うな」
自分でもびっくりするくらい、怒気を孕んだ
低い声が出た。
「は?何だ貴様。平民の分際で僕に指図を」
「黙れって言ってるのよ。このクズ」
「ッ!?貴様ぁっ!平民の分際で
何様だぁっ!」
奴は右手で腰の剣に手を掛けている。
「……大人しく、それをウリエスに
返しなさい。そうすれば、見逃してあげる」
「はっ?はぁっ!?何を言うか
平民の分際でっ!これは僕のだっ!
そんな化け物には過ぎた代物だろうがっ!」
「……もう一度、彼女達を侮辱してみなさい。
ただじゃおかないわよ」
「ハッ!何度でも言ってやるさっ!そいつら
は不気味な目の化け物だっ!」
ッ!!!
そこからはもう、怒りにまかせての事だった。
「歯ぁ食いしばれぇぇぇっ!!!」
「へ?」
『ドゴォォォッ!!!』
気づいた時には、もう奴の腹に渾身のパンチを
ぶち込んでいた。
「ぐっ!?うげげぇぇぇぇぇぇっ!?」
奴は口から唾液と胃液が混じった物を
吐き出すと、数歩下がって腹を両手で
抑えながらその場に蹲った。
でも、終わりじゃ無い。
「おらぁっ!」
『ドゴッ!』
私は奴の顎を、思い切り蹴り上げた。
口の中が切れたのか、奴はいくつかの
歯と血をまき散らしながら後ろに倒れた。
そして、倒れた衝撃で奴が手放した
プレートを手に取ると、そのまま
起き上がっていたウリエスの方へと
歩み寄り、呆然としている彼女の
手を取り、その手にプレートを
握らせた。
「み、ミハルさん」
「はいこれ。これはウリエスの
プレートでしょ」
そう言って、私はウリエスに微笑みかける。
「み、ミハル。貴女今……」
アリエスが呆然とした様子で私を見つめている。
と、その時。
「お、お前っ!」
あのお坊ちゃんが怒り心頭のご様子で立ち上がった。
「ぼ、僕にこんなことして、た、ただですむ
と思うなよっ!お父様に言って、お前を
町から追放してやるっ!」
奴は血を流す口元を抑えながらワーギャー
と喚いている。
「それが、嫌なら、今すぐ僕の前で頭を
下げろっ!床に額を擦りつけて、許しを
請えっ!」
……誰が、こんな奴に許しなんて。
「悪いけど、アンタのそんな下らない
脅しに屈するほど、私は弱くないの」
そう言うと、ホルスターからM1911A1を
抜き、マガジンを抜いて残弾を確認する。
よし、ちゃんと入ってる。
「わ、分かってるのかっ!追放だぞ追放っ!」
「えぇ。追放したければ、何でもすれば
良いわ」
そう言って、マガジンを戻してスライドを引き、
初弾を薬室に送り込む。
「でもね、私にはそれ以上に許せない物が
ある。だから怒ってるのよ」
「お、怒るだとっ!?」
「えぇそうよ」
私は頷く、アリエス達の方へと視線を向ける。
「誰しも、自分の意思で親や体のつくりを
決められる訳じゃない。恵まれた環境に
生まれたあなたには、分からないでしょうね。
貧しかったり、周囲から疎まれる環境で、
それでも必死に生きようとしている人間は、
この世界にごまんといる。……2人だって、
望んでその目になった訳じゃない。
その目のせいで、2人がどんな思いをして
来たのか。私はまだ知らない。でも……。
彼女達は、それでも『生きようとしている』っ!」
「「っ」」
後ろに居た2人が息を呑む声が聞こえた。
彼女達は、自分達の意思で生きようとしている。
前世の私は、自分に選択の自由があった。
それこそが『恵まれた環境』。
でも2人には、選ぶ自由なんて与えられなかった
のかもしれない。人並みに平和に生きる自由も
許されなかった。家族に愛される事も無かったの
かもしれない。その目ゆえに、残酷な過去を
背負って、それでも必死に2人で
冒険者として働いて、お金を稼いで、一生懸命
生きようとしている。そんな彼女達を否定する
こいつが許せないっ!
自分の道を自分で切り開こうとする2人を
バカにするこいつが許せないっ!
「彼女達は生きてる。必死に生きようとしてるっ!
それを、周囲の誰かが否定していい理由なんか
無いっ!瞳の色が何よっ!アンタには
分かんないでしょうねっ!髪色と同じように
輝く金色の瞳と、ルビーのように美しい
その紅い瞳の美しさがっ!彼女達が怪物
ですって!?美少女の間違いでしょっ!」
「「っ!!」」
なんか恥ずかしい事を言った気がするけど、
今は無視っ!!!
「そして何より、今の彼女たちは私の
大切な冒険者仲間だっ!私の友達だっ!
2人を傷付けるのは許さないっ!
2人を侮辱するのは許さないっ!
追放上等っ!2人に手を出す奴は、
私が許さないっ!!」
そして、私はM1911A1の狙いを定め……。
『バンバンバンバンバンバンバンッ!』
全弾、奴の足下にぶち込んでやった。
カランカランと音を立てながら金属薬莢が
床の上を転がる。
一瞬の静寂。そして……。
『バタンッ』
お坊ちゃんは、泡を吹いて失禁しながら
その場で倒れた。
それに満足した私は、M1911A1をホルスター
に戻した。
んだけど……。
ど~しよこれ。
皆固まってるよ。アリエスはなんか顔を赤く
しながら私の方見てるし、ってかウリエス
に至っては泣いてるしっ!なんでっ!?
ど、どうしよ~~。
シリアス場面だけど、やらかした本人は内心困ってますっ!
誰かこの状況なんとかして~~~!
怒りにまかせて引き起こした現状だけど、
私は内心、メッチャ焦ってた。
いやまぁ追放上等は問題無いし、なんなら
アイツぶっ殺すし。それは良いんだけど、
今の空気に耐えられないってっ!
とか考えていた時。
「……ミハル・スプリング」
「ッ、はい」
ザックス支部長に呼ばれ、私は出来るだけ
ポーカーフェイスでそちらに向き直る。
ザックス支部長は私達3人と気絶してる
坊ちゃんを交互に見てから、深い、
深~~いため息をついた。
「お前達3人は別室で待機。誰か、その
大馬鹿貴族様を家まで送ってさしあげろ。
あと、怪我の治療はしなくて良い。
……良い薬だバカ貴族が」
その後、私達はザックス支部長によって別室
へと連れて行かれ、そこで話を聞いた。
曰く、『あの貴族坊ちゃんは町の悩みの種だ』。
曰く、『親である領主も手を焼いている』。
曰く、『ぶん殴ってくれてすっきりした』。
曰く、『お前達の、と言うよりミハル・
スプリングの処遇は後ほど、日を改めて伝える』。
と、まぁまとめるとこんな感じ。
……あいつの人望の無さに助けられた、
って事かな。いやなんか嫌だな。
あいつに助けられたとか思うの。
まぁ流石に何の罰も無し、にはならなかったけど。
それは仕方無い。これが前世だったら暴行罪で
牢屋行きだし。
ザックス支部長曰く、『領主と話し合って決める
から数日待ってくれ』、だそうだ。
で、今日は解散になる、はずだったんだけど……。
「おいスプリング。あと、フォーランド姉妹も」
「はい?」
「何?」
ザックス支部長に呼び止められ、私達は
出て行こうとしたドアの前で振り返った。
「お前達はホブ討伐の功労者だ。なので、
褒美って訳じゃねぇが……」
「「「???」」」
支部長の言葉に私達は首をかしげた。
その数分後。
私達は『お風呂』に浸かっていた。
そう、お風呂であるっ!
あのあとザックス支部長に、ギルド施設の
奥にあるCランク以上の冒険者用のお風呂を
使って良いって言われたんだよっ!
ギルドには、冒険者のやる気を増進させる
ために、等級に応じた特典がある。
セナーレの町であれば、このお風呂。
このお風呂はCランク冒険者以上でないと
利用出来ないんだけど、今回はお礼って
事で特別に使わせて貰ったっ!
いや~こっちの世界に来てから温かいお湯
に体を浸す、なんてのは金持ちの贅沢みたい
なものだったら、簡単じゃなかったけど、
あぁ、やっぱりお風呂は良いなぁ~。
「はふ~~」
大きな湯船に体を漂わせ、安らいでいると……。
「ねぇ、ミハル」
「ん~?な~に~アリエス~」
傍にアリエスとウリエスが寄ってきた。
「その、えっと……」
ん?なんかアリエスは、言いたい事があるけど、
口に出せない、的な感じで言葉を詰まらせている。
「お姉ちゃん」
その時、ウリエスが優しく彼女の背中を撫でた。
ん?んん?もしかして、ゲームやラノベで
よくあるイベントかな?
とか考えた私は体を起こしてその場に腰を
下ろした。
「もしかして、大事な話、かな?」
「ッ、そ、そうよ」
私が声を掛けると、アリエスは静かに
頷いたあと、決心したような表情で
話し始めてくれた。
それは、2人の生まれに関係する事だった。
彼女達が生まれた地方では双子が忌み子
として恐れられていた事。更にオッドアイ
の事もあって、それが悪い方にプラスと
なって早々に親に捨てられ、拾われた
孤児院でも周囲から恐れられ、軽蔑され、
お金を稼ごうにもやらせて貰える仕事と言えば
どぶの掃除と言った、キツく汚い仕事。
それでも何とかお金を稼ぎながら暮していた
ある日、2人を引き取りたいと言う男が
現れた。2人は最初、こんな自分達でも
受け入れて貰える、と内心喜んでいた。
だが、男の目的は、2人を手に入れて娼婦
として娼館に売り飛ばそうと言う物だった。
たまたまその話を聞いた2人は、ありったけ
のお金を手に孤児院を飛び出した。
でも持っているお金は決して多くは無い。
だから早々に仕事を見つける必要があり、
冒険者になる事を決心。そして、この町で
私に出会った事を。
その話をしている間、ウリエスは悲しそうに
目を伏せ、アリエスは怒りに体を震わせていた。
それが、アリエスが他人を信じられなくなった
理由。他人なんて頼ってはいけないと思う
ようになった理由。
そして、2人が冒険者にならざるを得なかった理由。
「そう。2人には、そんな事があったんだね。
でもどうして私に話してくれたの?
そう言う話は、簡単に誰かにできる物じゃ
無いよね?」
「……ミハルなら、信じられるって思ったからよ」
「え?」
「あなたなら、私達を裏切らないんじゃないか
って、思えたのよ。超が付くくらいお人好しで、
それに……。私達の目を、綺麗だって
言ってくれた、ミハルなら」
「私なら?」
「……正直、虫がいい話だとは思う。出会って
数日なのに、こんなの。……でも」
その時、アリエスは泣いていた。彼女の涙が
湯船に落ちる。
「あなたと一緒にいて、あなたに助けられて。
ミハルに出会えてよかったって思った。
それに、私達を助けてくれた。あの時、
ミハルは私達を友達だって、仲間だって
言ってくれた。それが、嬉しかった。
何より、初めてだった。この目を
綺麗だ、なんて言ってくれる人と
出会ったのは」
そう語るアリエスと、後ろのウリエスは
頬を赤く染めている。
「この目のせいで、辛い思いをした事もあって、
こんな目を持って生まれた事を2人で
後悔したこともあった」
そう言って、アリエスとウリエスは涙を
流している。本当に、2人はオッドアイの
せいで苦労してきたんだろうなぁ、と
分かってしまう。
私はそっと、2人の頬に手を添えた。
アリエスには右手を。ウリエスには左手を。
「私は2人の目が、とっても綺麗だと思う。
金色に輝く瞳も、ルビーのように美しい
瞳も」
私に言わせれば、2人は十分ラノベやアニメ
のヒロインやれるくらいに可愛い。
「ッ、そ、そう」
「えへへ、ありがとう、ございます」
何やら2人とも顔が赤い。まぁお風呂
入って暖まったからかな。って、そこら辺
は今はいいや。
「それで、話の続きは?」
私が問いかけると、2人は互いに顔を
見合わせ頷いた。
「ミハル。お願い。これからも私達と
積極的にパーティを組んで一緒に依頼を
受けて欲しいの。お願いっ!」
「私からもお願いしますっ!ミハルさんっ!」
そう言って、2人はその場で頭を下げた。
そっか。それが2人の願いなんだ。で、
私にはそれを断る理由なんて無いから。
「うん、良いよ」
あっさりOKを出した。
「え?そんなあっさり。い、良いの?」
すると、顔を上げてキョトンとした表情の
アリエス。
「うん。だって私も2人を誘おうと思ってたし。
折角こうして一緒に試験受けて、ホブ倒した
仲なんだし。……それになにより、友達
でしょ?」
「友、達?私達、が?」
首をかしげるアリエス。え?ウリエスも?
あ、あれっ!?やばっ!そう言えば一方的に
友達認定してるの私だけだったっけ!?
「あ、え、えっと、もしいやなら、
冒険者仲間として、って事にするけど……」
「そんな事ないですっ!」
恥ずかしくてモニョモニョとそんな事を
言ってると、急にウリエスが声を上げながら
私の両手を掴んだ。
「友達で良いですっ!ねっ、お姉ちゃん」
「えっ!?えぇ、そ、そうね。まぁ、あれ
だけの事を一緒に乗り越えたんだし、
まぁ友達でも良いわね、うん」
ウリエスの言葉に、アリエスはちょっと
戸惑い顔を赤くしながらも頷いた。
よ、よかった~。一方的に友達としか
思ってなかったなんて、ちょっと気まずいし。
でもこれでお互い友達って事にもなれた。
これからしばらくは、このセナーレの町で
2人と一緒に冒険者やれるかも。
そう、思って居た。『あの時』までは。
第5話 END
面白いと思っていただければ感想や評価などお願いします。
両方ともメッチャ励みになるので。