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女の子だって異世界で暴れたいっ!  作者: 結城
女の子だって異世界冒険したいっ!
5/19

第4話 『思いがけぬ乱入者』

前回に引き続きバトルメイン回となります。

私のユニークスキル、『思い遂げる力』で

アリエスとウリエスに武器を作った後。

ちなみにちゃん付けで呼ぶのはアリエス

から止めてと言われた。何でもそれだと

背中がむず痒くなるらしい。ウリエスの方も

同じように呼び捨てで良いって言うから

そうする事にした。


で、私は2人に私がユニークスキル持ちで

ある事と、スキルの概要を説明した。

「魔力を糧に何でも物が作れるって、

 凄いユニークスキルね。ハァ」

驚嘆するようにため息をついているアリエス。

「まぁね。でも、知らない、使い方が

 分からない物は生み出せない。自分の

 魔力量を超える物は創れないって言う

 制約があるけどね」

「でも剣とか弓とか作れるの、凄いと

 思います」

そう言って褒めてくれるウリエス。


「ありがとうウリエス」

褒められて悪い気はしないし、はにかんだ

笑みを浮かべる私。

さて、と。


「じゃあ改めて、ゴブリン狩りに行こっか。

 最低ラインは5、6匹だけど、念には念を

 入れて、8匹くらいは仕留めて帰りたい

 んだよね~。2人はどう思う?」

「そうね。最低ラインで満足して、試験に

 落とされましたって言うのは洒落に

 ならないし。私は賛成ね」

「う、うん。私も、頑張るよミハルさん」

どうやら2人ともOKみたい。


「よ~しっ!じゃあ合格目指してゴブリンを

 倒すわよっ!」

「はいっ!」

「えぇっ!」

私の言葉にウリエスとアリエスが頷く。



その後、一度戦った事で自信でも付いたのか、

2人は一度目みたいに怯える事は無くなかった。

と言うか、接触するゴブリンの数が1匹や

2匹だったので、落ち着いて対処出来たって

言うのが大きいのかも。


戦いの時は、私がゴブリンの攻撃を弾いた

所にアリエスが攻撃を仕掛けて倒したり。

或いは弓で気づかれる前に狙撃したりして

ゴブリンを順調に倒していった。


「はぁっ!!」

そして、9匹目。私のマチェットでゴブリンの

頭をかち割った。

「ふぅ」

息をつくと、すぐに周囲を警戒する。

幸い、他にゴブリンは居ない様子。


「ここまで狩れば、流石に大丈夫でしょう」

「これで9匹。1人耳3つね」

そう言って、アリエスは私が倒したゴブリン

から耳を切り取り、私に差し出してくれた。

「ありがと」

それを受け取り、布に包んで鞄にしまう。


まだ日は高いけど、ここまでやれば十分

だろうし。

「ちょっと休みたい所だけど、もう戻ろっか。

長居してこれ以上ゴブリンと戦うのもあれだし」

「賛成」

「そうですね」

私の提案に2人は頷く。まぁここで休憩しても

良いけど、森の中を徘徊しているであろう

ゴブリンと遭遇してまた戦闘、ってのは

避けたいから今は少し疲れた体を押してでも

森の外のキャンプに向かう事にした。


幸い、森を出るまでゴブリンと遭遇する事は

無かった。おかげで楽に森を出る事が出来た。

で、キャンプに戻ってきたんだけど……。


「うわぁ」

正直、驚いた。何故かって?それはもう、

キャンプのあちこちで負傷者の手当を

してたからね。

手当を受けている人達は、皆私達と同じ

ゴブリン討伐の試験を受けていた子達だ。

幸い、死傷者や重傷者はいないよう

だけど、皆切り傷やなんかを受けて、

処置された包帯が赤くなって血が滲んでいた。


私の口からも、驚愕の声が漏れ、

アリエスは冷や汗を浮かべ、ウリエスは

両手で口元を覆ってる。

「これ、私達って、結構上手くやった方

 なんじゃない?」

「……みたいだね」

戸惑うようなアリエスの言葉に、私は静かに頷く。


「おっ。君たちも戻ってきたか」

「あ、どうも」

その時、私に地図を渡してくれた男性の

ギルド職員らしき人が声を掛けてくれた。

そしてその人はそのまま私達を観察している

様子だ。な、何?


「よかった。君たちは負傷してないようだね」

やがてその人は安堵したような表情を浮かべた。

「あの、あそこで治療を受けている人達は?」

そんな時、彼等の事が気になったので問いかけて

みた。正直、ゴブリン相手になんであぁなってる

のか分からない。

油断せず、冷静に対処すれば1匹ずつ、確実に

倒せる敵だと思うんだけど……。


「彼等は、まぁ勇み足が過ぎたんだよ」

「どう言う意味?」

彼の言葉に首をかしげるアリエス。

「ゴブリンの1匹や2匹、自分1人で

 大丈夫だと高をくくって戦って、あの様さ。

 中には、一気にゴブリンをおびき寄せて

 倒そうとして、逆に監視役の冒険者に

 助けられた大馬鹿野郎もいたっけな。

 結局傷を負うは、仲間に迷惑をかけるわ」

そこまで言うと、彼は周囲の負傷者たちへと

目を向けた。

「あぁ言う勇み足が過ぎる連中は、正直

 冒険者にはなれないな。なっても危なっかしい」

「じゃあ、彼等は?」

「十中八九落とされるだろうね。最近の 

 若い奴らは、何て言うか試験を通過儀礼

 程度にしか思ってないんだよ。実際には、

 命の危険が伴う実戦だってのに」

そう言って、呆れた様子でため息をつく男性。


成程。認識の甘さ、もっと言えば油断が彼等

の敗因って訳ね。油断大敵って言葉を知らない

のかな。

「おかげで、無傷で戻ってきたパーティの方が

 少ない始末だよ。まぁ君たちもその1つ

 みたいだけど。ところでどれくらい

 倒せたんだい?」

「私達は9匹です。と言っても、1匹か

 2匹の奴をちまちま倒して、ですけど。

 4匹以上の集団を見かけた事がありました

 けど、数が多いから相手するのは止めた方

 が良いだろうと思って。3匹を相手取った

 のも1回だけですし。これって、試験の

 評価的にマイナスになります?」

「そうか。いや、でもマイナスは無いよ。

 冒険者たるもの、そう言う危機察知

 能力も必要だからね。4匹以上の

 集団との戦闘を避けたのは正解だ。

 ……ハァ、あの大馬鹿お坊ちゃんも、

 キミくらい分別があればなぁ」

ん?その時ふと聞こえた単語に、私は

引っかかりを覚えた。


「あの、その大馬鹿お坊ちゃんって?

 誰ですか?」

「あぁ、シンとか言うこの町の領主の

 息子さ」

彼の言葉を聞くと、後ろのアリエスの

表情が険しい物になり、それをウリエス

が宥めていた。たぶん、今朝のことを

思いだして頭に血が上ってるんだろうなぁ。


「これがまた、絵に描いたような自信家で

 自意識過剰と来てる。さっき、監視役の 

 冒険者に助けられた大馬鹿野郎がいた

 って話しただろ?そのシンなんだよ。

 助けられたのって」

「それで、そのシンって奴は?見たところ

 ここには居ないみたいですけど」

「あぁ。あいつは冒険者に助けられて

 早々にここに戻ってきて、治療を

 受けると俺達の忠告も無視して

 また早々に森へ戻っていったよ。

 『僕の実力はこんなものじゃない』

 とかブツブツ呟きながらね」

なんと無様な事か。って言うか……。

「……そいつ、冒険者になれます?」

「普通なら無理だね。そもそも監視の

 冒険者に助けられてる時点で

 失格にも等しい。……でも、あいつは

 領主の息子だからね。あとは、

 ゴブリンの耳をいくつか持って

 帰ってくれば、或いは。って所かな」


普通なら、って言う辺りあいつは普通じゃ

無いからゴブリンの耳を持ってくれば

OKにせざるを得ないんだろうなぁ。


ここでも持つ者の特権か。正直反吐が出そうだ。

後ろでもアリエスが唇をかみしめている。

「あの、正直聞くのはダメかもしれません

 けど、私達って試験に合格出来ると

 思います?一応、3人でそれぞれ3匹は

 仕留めたんですけど」

「さぁ。それは俺の口からは何とも。

 ただ、君たちの話が本当で、同じ話が

 現場の監視役から上がってくれば、可能性は

 限りなく高いと思うよ。何より、全員

 大した負傷も無く無事に帰ってきたのは

 ポイントも高いからね」

「そうですか」


どうやら私達の合格説は濃厚なようだ。

「アリエス。やったね」

「……えぇ」

合格できるかも、と言う話を聞いて幾ばくか

クールダウンした様子のアリエス。

ウリエスも話を聞いてて嬉しそうだ。


と、その時。


「ハァ、ハァ、ハァッ!」

ん?何やら森の方から人の走ってくる音が

聞こえてそちらに視線を向けた。

すると森の中から、息を荒らげた軽装の、

冒険者らしき人が現れた。

「おいっ!大変だっ!」

「な、何だ?どうした?何があった?」

冒険者の方に、私達と話していた人が

歩み寄って問いかける。


「あのバカ坊ちゃんっ!やりやがったっ!

 アイツ、森の奥の方まで行って、

 ヤバい奴と出くわしやがったっ!」

「な、何だとっ!?でヤバい奴って!?」

「『ホブゴブリン』だよっ!手負いのゴブリン

 を追って森の奥まで行った挙げ句、

 ホブ数匹と遭遇して、今こっちの方に

 向かって来てやがるっ!」

「何だとっ!?クソッ!バカ貴族めっ!

 皆聞けっ!こっちにホブゴブリンが

 向かっているっ!動ける者は負傷した

 者を連れて町へ向かえっ!冒険者たちは

 戦闘準備っ!急げっ!」

彼の怒声に、ギルド職員や受験者たちが

慌ただしく動き出した。動ける受験者達は

傷を負っている仲間に肩を貸したりしながら

急いで町の方に向かっていく。

しかし、ホブゴブリン。ゴブリンの上位個体

って事だけは聞いた事あるけど、それ以外は

知らない。


「あのっ、ホブって、どれくらいの強さ

 なんですか?」

情報が少ない。なので、傍に居たさっきの

職員の男の人に声を掛けた。

「ホブは、Eランクの冒険者が最低でも

 6人以上。Dランクで3人以上。

 Cランクで1人か2人くらい必要だ。それも

 一匹を相手にするときの計算だ。

 数が多いと、必要な人数は倍以上に

 膨れ上がる」

「ッ!あのっ!」

その話を聞いて私は咄嗟に、さっきの報告を

してくれた冒険者の人に声を掛けた。


「相手のホブの数って分かりますか!?」

「ぱっと見だが、俺が見た感じではホブの数

は3体くらい。だが、他にもゴブリン10匹

くらいが一緒になって貴族坊ちゃんのパーティを追ってた」

「不味いな。CやBランク冒険者は監視役

 として殆ど森の中だ。キャンプに居るのは、

 ゴブリンが襲ってきた時を想定して、

 Cランク数人と、あとはDランクが

 10人ほど。それだけの数だと、苦戦は

 必死か。ちっ!お嬢ちゃん達も早く

 逃げろっ!ここに居ても足手まといだっ!

 早くっ!」


そう、彼が言いかけた時。

『ドォォォォンッ!』

近くで何か、大きな物が叩き付けられた

ような爆音が響いた。そしてその音の

発信源は、森の中、それもすぐ近くから

だった。


と、その時。

『ガササッ!』

「ハァ、ハァ、ハァッ!お、おぉい!

 今すぐ僕を助けろっ!早くしろっ!」

草木をかき分けて飛び出してきたのは

あのいけ好かない貴族の坊ちゃんと、

その取り巻きをしていた女たちだ。

全員汗や土汚れで汚れながらも、

必死にその顔を青くしながらこっちに

走ってきた。


直後。

『グォォォォォォッ!!!!』

ゴブリンとは比較にならない怒号が聞こえた。

そして現れた大きな影が合計4つ。


現れた影の持ち主を見たとき、私は真っ先に

『力士』を思い浮かべた。

成人男性の1.5倍はありそうな巨躯。

子供の体ほどありそうな太さのぶっとい腕と足。

その手には巨大な棍棒を持っている。


そう、それこそが、ホブゴブリン。

ゴブリンなんかとは比べものにならない

くらいの圧倒的な存在感。

「クソッ!戦える者は武器を取れっ!

 Dランク冒険者はCランク冒険者の

 支援とゴブリンの相手をっ!」

その時、近くにいた冒険者の1人が

叫んだ。


「俺達Cランク冒険者は、ホブをやるっ!」

「「「「おおぉっ!」」」」

冒険者たちは武器を取り、それぞれがそれぞれの

相手を始めた。

すぐさまあちこちから冒険者の怒号と

ゴブリンの叫びが聞こえる。


それだけでキャンプにいた受験者達は殆ど

パニック状態。この事態を引き起こした

バカお坊ちゃんは既にここの事など

無視して町に向かって走ってる。


「おいっ!嬢ちゃん達も早く逃げろっ!」

その時、剣を持っていたギルド職員の

人が叫んだ。


「行くわよミハルっ!」

「わっ!?」

急に私の手を引いて走り出すアリエス。

びっくりしたけど私も彼女に続き、更に

その後ろをウリエスちゃんが続く。


私達はキャンプを飛び出すのが他の

受験者より遅れたせいか、周囲には誰も

いない。少し離れた前方を走っている

人影があるだけ。


「ったくっ!これだからお坊ちゃんはっ!」

アリエスは悪態を付きながら私の手を引く。

と、その時。

「お、お姉ちゃんっ!後ろっ!」

「え?」

後ろを走っていたウリエスの言葉に

アリエスと私が振り返ると……。


「ちょッ!?ゴブリン止められて無い

 じゃないっ!」

4匹のゴブリンが私達を追って来てたっ!?

しかもその全部が、できの悪い槍や石斧で

武装している。できが悪くとも武器。

しかも数は向こうが上。

「止まったら終わりだよっ!走ってっ!」

咄嗟に私は2人に向かって叫ぶ。


ただでさえ試験で疲れてるのに、数も

上な彼奴らとやり合って勝てる可能性は

低いっ!ここは三十六計逃げるが勝ち

ってねっ!


私とアリエス、ウリエスの3人は息を切らし

ながらも走る。ゴブリン達とは差を詰められて

はいないけど、引き離せても居ない。

とにかく今は走って逃げるしかないっ!


アニメやラノベの主人公だったら、立ち向かう

のかもしれないけど、そう簡単には行かないってっ!

第一、勇み足で突っ込んで死にましたなんて

目も当てられない。前世と同じくらい短命

なんて冗談じゃないっ!だから逃げるっ!



生きる為に逃げる。

そう思って、走っていた時。


「きゃぁっ!」

すぐ後ろで悲鳴が聞こえた。走りながら

振り返ると、石にでも躓いたのかウリエスが

倒れるところだった。

「ウリエスッ!?」

慌てて足を止める私とアリエス。


だが、私達が駆け寄るより、ゴブリン達が

ウリエスに迫る方が早かった。

1匹のゴブリンが、手にしていた槍を

振りかぶる。


「ッ!?逃げてウリエスッ!」

咄嗟に叫ぶアリエス。でもウリエスは何とか

上半身を起こしたばかりだ。間に合いそうに

ない。


「ダメッ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

アリエスの悲鳴が聞こえる。



そこからはもう、殆ど反射に近かった。


私は右足太腿に隠していた『切札』を、

『ホルスター』から抜いた。


この切札の扱いだけは、これまで何十回と

練習してきた。だからお手の物。


左手で切札の『スライド』を引いて『初弾』

を薬室に送り込む。


そしてしっかりと『グリップ』を握り、狙い

を定める。


あとは、『引き金』を引くだけ。


『バンッ!!』


乾いた音が響き渡る。そして私の切札、

『拳銃』、『M1911A1』から放たれた

『.45ACP弾』が、今正に槍を投げようと

していたゴブリンの頭を撃ち抜いた。


「「え?」」


突然の銃声に、アリエスとウリエスは

驚き、2人とも私の方を見ている。

そしてゴブリン達も、おそらくは始めて

見るであろう銃と、それによって倒された

同族を前にして、完全に私を警戒して

足を止めている。


『バンッ!バンッ!』


そこから更に2匹目、3匹目と射殺し……。


『バンッ!』


最後の4匹目も有無を言わさず撃ち殺した。


音を立てて倒れるゴブリン。

……使っちゃった。切札。本当は目立つから

あまり使いたくなかったんだけど、ウリエス

の命に替えられない。


「大丈夫?」

私とはM1911A1の安全装置を掛け、

ホルスターに収めながら倒れているウリエス

の傍に駆け寄る。

「え?え?ミハルさん。今の、は?」

目を、文字通り丸くしながら聞いてくる

ウリエス。

「ごめん。今は説明してる時間が無いの。

 立てる?」

「あ、は、はいっ」

私が手を差し出すと、それを引いて

立つ上がるウリエス。


「ウリエスッ!大丈夫っ!?」

「うんっ、何とか」

「あぁっ!よかったっ!」

アリエスは心配した様子でウリエスを

抱きしめている。


でも、感動シーンは後にして欲しい。

今は逃げないと、そう言おうとした時。


「ぐあぁぁ……!」

遠くから聞こえた男の人の悲鳴。

悲鳴の発生源は、キャンプだ。そこで

戦っている冒険者の誰かがやられたんだ。

ここから遠目に見ても、彼等は押されている。


このままじゃ、彼等は勝ったとしても、

死傷者の数は多いだろう。

でももし、私が参戦したら?


銃の力を生かせる私が加われば、形勢を

逆転出来るかもしれない。

でも、本当に出来るの?私はまだ、

16歳の女の子で、ちょっと力があるだけで……。


出来ないのではないか?自分はただの女の子

だと言う言い訳が頭の中に浮かぶ。だって、

怖いから。死にたくないから。


と、その時。

「ふんばれぇっ!」

「っ!」

声が聞こえた。冒険者の人達の声だ。

「冒険者は仲間を見捨てないっ!俺達で

 こいつらを倒して、生き残るぞっ!!!」

「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」


それは鼓舞するための叫びなのかもしれない。

だから戦っている人達に向けた物なのかも

しれない。……でも響いた。『私にも』。


私には、助けられる力があるのかもしれない。

確証は無いけど、でも……。


ここであの人達を見捨てて逃げたら一生

後悔するっ!それだけは絶対ヤダっ!


それに、私はアニメやラノベの主人公、

ヒーローに憧れてこの世界に来た。

そして、きっと主人公達なら彼等を

助ける為に、努力するはずだ。

言い訳を考える事なんかより、先にっ!

だったら、未来の主人公志望として、

やってやろうじゃないのっ!

ここで決めなきゃ女が廃るってねっ!


「何してるのっ!行くわよミハルっ!」

その時聞こえるアリエスの声。でも……。

「ごめん2人とも。私のことは良いから。

 先に行って」

「え?」

どうしてそんな事言うの?と言わんばかりに

呆けた声を出しているウリエス。

「私、お人好しだから」

そんな彼女とアリエスに、私は笑いかけ

ながら答えた。


「だから、あの人達の事、見捨てられないみたい」


それだけ言うと、私は目を閉じて意識を

集中し、別の武器を想像し、具現化

させた。


それは、『89式小銃』。私の前世、日本の

陸上自衛隊などで正式採用されていた

アサルトライフル。

更にマガジンを創り出して装填。右側面の

ボルトハンドルを引いて初弾を薬室に

送り込む。


「2人は町へ急いで。私は、これで出来る

 だけの事をやってみるから」

「……ミハル、アンタってホント、救いようが

 無いわね」

……彼女の言うとおりだね。

アリエスの言葉に、私は内心、同意してしまう。

私は救いようのないバカなのかもしれない。


「でも私は、後悔だけはしたくないから」

そう言って、私は笑みを浮かべる。


「バカッ!それで死んだら元も子もないでしょっ!」

「大丈夫。私は死なないし、死にたくないから」

「それじゃ何の根拠にもなってないじゃないっ!」

そう言って、私の両肩を掴むアリエス。


「私は、ミハルに死んで欲しく無いのよっ!」

……その言葉は、正直ズルい。気持ちが動きそうで。

でも、止まるわけには行かないから。

「どうして?私達って、出会ってまだ数日

 だよね?」

「それでもっ!アンタはこれまで私達が

 出会って来た屑とは違うっ!上辺だけの

 優しい奴じゃ、無かったっ!

 悔しいけど、アンタと出会って私達は

 助けられたし、冒険者にもなれそうなのっ!

 そんな恩人を、こんな事で失いたくないのっ!」

「お姉ちゃん。うん、そうだよ」


感情を爆発させ叫ぶアリエスの後ろで、

ウリエスも彼女に同意するように、

頷いている。

「私達、ミハルさんがいたから、ここに

 いられるのかもしれない。だからミハル

 さんは、私達の恩人だよ」

「そっか」


出会って数日の2人から、そこまで言って

貰えるのは、嬉しかった。でも……。

「それでも、ごめんね。私は行くよ」

そう言って私は自分の胸に手を当てる。


「私は私の意思に、思いに従う」

「……どうしても、行くの?」

『コクンッ』

鋭い視線で私に問いかけてくるアリエスに

答えるように、私は無言で頷く。


すると……。

「……バカに付ける薬は無い、か。ハァ」

そう言ってため息をつくアリエス。

傍目には、馬鹿にされてるみたいだけど、

いや実際馬鹿にされてるのかな?

まぁいいや。


「それが私だから」

そう言って私は笑った。


すると……。

「だったら私達も行く」

「え?」

急にアリエスが一緒に行くと言い出した。

「ミハルは私達の恩人って今言った

 わよね?だったら受けた恩を返すまで、

 ミハルに死なれちゃ困るの。だから

 私達も行く」

「ちょっ!?分かってるっ!?相手はっ!」

「ストップ」


相手はホブにゴブリンの群れ、って事を

伝えようとした所で、彼女に遮られた。

「それはミハルも同じでしょ?危険は

 覚悟の上よ」

そう語るアリエスの瞳は、真っ直ぐ私を

見つめていた。


あぁ、これは説得するのは無理なパターンだ。

私でも分かる。アリエスは覚悟決めちゃってる

目してるもん。

でも、アリエスだけじゃなかった。


「なら、私も行くっ!」

「ウリエスまでっ!?」

「お姉ちゃんとミハルさんだけ残して戻る

 なんて、出来ないからっ!」

こ、この子、普段は結構臆病だけど、決める

時は決めるパターンの子だっ!?


「さぁどうするのミハルっ!ここで

 やりあってる場合じゃないでしょ!」

「ミハルさんっ!」

あ~も~!なんか上手く丸め込まれてる

気がするけどっ!


「コンチクショォォッ!!!こうなったら

 やってやろうじゃないのっ!ゴブリン共

 ぶっ殺してっ!その上で2人も守って

 冒険者も助けるっ!人生何時だって

 難易度はハードモードじゃぁぁぁっ!」


こうなったらやってやるっ!私は89式小銃

を抱えたまま走り出し、それにアリエスと

ウリエスが続く。


そしてキャンプに戻った時、すでにそこは

混沌としていた。冒険者たちとゴブリン、ホブ

が入り乱れて戦っている。既に両者無数に

傷を作って血を流している。


私は素早く周囲に視線を巡らせ、ちょうど良い

サイズの木箱を見つけた。

「2人ともっ!あそこの木箱持ってきてっ!」

「えぇっ!」

「は、はいっ!」


2人が木箱を持ってくる間に、私は薬室の

中をのぞき込んで初弾が装填されている

事を確認すると、銃身に付属している

二脚、いわゆるバイポッドを展開する。


私が89式を選んだのには、ちゃんと理由が

ある。祖国の銃とか、いい加減な物じゃ

ない。私は軍人やってるような屈強な人達

とは体のサイズが違いすぎる。だから、

ただでさえ大きな突撃銃じゃその力に

振り回されそうだから。だから一般的な

突撃銃より日本人の体格に合わせて、

カービン銃に近いサイズのこれを選んだ。

そして更に、バイポッドを展開出来れば、

手で支えて撃つより命中精度も上がる。

だからこそ、この89式を選んだんだ。


「お待たせっ!持ってきたわよっ!」

そこに2人が木箱を運んできた。

よしっ!


早速木箱の上にバイポッドを置いて

銃を安定させる。

89式の命中精度は、300メートルの

距離で縦横1メートルの範囲に散布する。

でも、ここからホブまでの距離は100メートル程度っ!

セレクターを単射に設定。狙いを定める。


狙える。深呼吸をする。狙うはホブの頭。


『グォォォォォッ!』

その時、ホブの一匹が倒れている冒険者

目がけて棍棒を振り上げた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」

「クライスッ!」

冒険者が絶叫を上げ、その仲間と思われる

人が彼の名を叫ぶ。


させないっ!

「当れぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


『ダンッ!』


甲高い銃声が響き渡る。放たれた5.56ミリ

の銃弾は、私の狙い通りに飛んでいき……。


『ボッ!』


見事のホブの頭を撃ち抜いたっ!

と言うか初弾で当てられた事に内心

驚いてるけどっ!今はその驚きを後回し

にしてっ!


「次っ!」

まずはホブを全滅させるっ!


『ダンッ!ダンッ!』


2匹目に狙いを定め、その胴体を撃ち抜く。

撃たれた結果、力が抜けたのかその場で

蹈鞴を踏むホブ。


「今だよっ!ホブを倒してっ!」

その時、私の傍に居たウリエスが叫んだ。

「ッ!うぉぉぉぉぉっ!」

直後、無数の冒険者がホブの体に剣や

槍を突き立て、これを倒した。


よしっ!これであと2匹っ!

『『グォォォォォォォッ!』』

と、その時、こちらの方を脅威だと

理解したのか、残りのホブ2匹が

こちらに突進してきた。

これじゃちまちま単射してたらすぐ

に距離を詰められるっ!


だったらっ!

私はすぐさまセレクターを3点バースト

に合わせる。


『ダダダンッ!ダダダンッ!』


とにかく弾をぶちこむっ!狙いは胴体っ!

走ってる相手の頭に当てられる程の技量は、

まだ無いからねっ!


89式から放たれた銃弾はホブ2匹の腹部を

撃ち抜く。


『ダダダンッ!ダダダンッ!』


一匹に合計6発ぶち込んでやった。

見た感じ全弾当ってた。すると、直後に

ホブ2匹は腹を押さえて蹲るように

その場に倒れた。


腹に6発も銃弾喰らったんだし、多分内臓

はズタズタだろう。

これで、後はゴブリンを……。


と、思って居た時。

『グォォォォォォォッ!』

聞こえた咆哮。しかも結構近いっ!?

慌てて聞こえた方角に目を向けると……。


「5匹目ッ!?」

そこには5匹目のホブがっ!?

あの後更に出てきたのっ!?

彼我の距離は、もう30メートルくらい

しかないっ!数秒で距離を詰められる。


「このぉぉぉぉっ!」

私は咄嗟にセレクターをフルオートに

して、ある程度狙いを付けてぶっ放した。


『ダダダダダダダダッ!!!』


放たれた弾丸の雨がホブの腕や脚を

撃ち抜いていくが、狙いが甘いせいか

腹や胸、頭に当らずホブは止まらないっ!


『ダダダッ!』

っ!?ある程度撃った所で、弾が切れたっ!?

しまったっ!?弾数を数えるの忘れたたっ!


「ミハルッ!」

弾が切れた事で視線が89式に行ってしまい、

ホブから目を離した時、アリエスの叫びで

ハッとなって前を向いた。既にホブとの

距離は6メートル程度。ホブはあと一歩でも

踏み込んで、手を伸ばせば私に届く。


掴まれたら終わりだっ!パワーは向こうが

上っ!一か八かっ!引きつけて避けるっ!


そう、考えていた時。


「させるかぁぁぁぁっ!!!」


『ザブッ!!』

『グォォォォォッ!!?!?!』


アリエスが、後ろからホブの腿にマチェット

を振り下ろした。肉が切れる鈍い音に次いで

ホブの悲鳴が聞こえる。アリエスはマチェット

を離してその場から飛び退く。直後に彼女の

いた場所を、デタラメに振っていたホブ

の腕が薙ぐ。


「ウリエスっ!」

「うんっ!お姉ちゃんっ!」

そして彼女が離れた直後、ウリエスは矢を番え

狙いを定める。


「当ってっ!」

叫びながら放たれたウリエスの矢が、ホブの

背中に突き刺さる。

『グッ、グォォォッ……!』

その痛みに呻くホブ。

「今よっ!ミハルッ!」

「っ!」


アリエスの声でハッとなった私は、咄嗟に

腿のホルスターからM1911A1を抜き、

握った右手の親指で安全装置を外し、

両手で構える。


ホブは震える体で私の方を向くが、もう

遅いっ!この距離なら外さないっ!


『バンッバンッバンッ!』

残っていた3発。全弾奴の頭にぶち込んだ。

頭をぶち抜かれたホブは、ぐらりと揺れる

と、そのまま後ろに倒れた。


音を立てて倒れたホブを見つめながら、

M1911A1を構えていた。

ホブは倒した。次はゴブリンだ。まだ、

魔力には少し余力がある。今すぐ

M1911A1のマガジンを弾込みで

創り出して、それから、それから……。

荒い呼吸のまま、死体を見下ろしながら

考えていた時。


「ミハル」

「ッ!」

不意に声を掛けられ、ビクッとなった。

慌てて振り返るとそこにはアリエスが。

「アリ、エス?」

荒い呼吸のまま、彼女の名を呟く。


「終わったわよ。それ、もうしまったら?」

「え?で、でも待って。まだ他のゴブリンが」

「大丈夫ですよミハルさん」

残ってる、と言おうとした私を遮り、

ウリエスは笑みを浮かべながら、先ほどまで

ゴブリンと冒険者が戦っていた場所を

指さした。


見ると、そこでは冒険者たちが立っていた。

そしてその足下に転がるゴブリンの死骸。

「どうやら、ミハルさんがホブを倒した

おかげで、ゴブリン達に集中出来たみたい

です。戦いは、もう終わってますよ」

「そ、それじゃあ……」


「えぇ、私達の勝利みたいね」

そっか。じゃあ、勝ったんだ。生き残ったんだ。

私も、アリエスやウリエス、それに冒険者の

人達も。よかった~。これで一安心。


『フラッ』

って、あ、あれ?あれれ?何だか、安心

したら体に力が入らない。


倒れそうになる私。あぁヤバい、このまま

じゃ地面とキスする事に……。


『ギュッ』


はならなかった。

「ったく、何やってるの?」

「大丈夫ですか?ミハルさん」

両脇からアリエスとウリエスが支えてくれた。

「あ、アハハッ、ごめん。安心したら、

 なんか体の力抜けちゃった」

「まぁ、仕方無いわよね。アンタはその、 

 頑張ったわけだし」

何やら顔を赤くしながら褒めてくれる

アリエス。お~~。これこそまさにツンデレだわ~。


「あっ、お姉ちゃん、ミハルさん」

「ん?」

ウリエスに声を掛けられ、彼女の方を

向き、更に彼女の視線を追っていくと……。


いつの間にかこっちに数人の冒険者たちや

ギルドの人達が来ていた。

その表情は、皆驚愕と困惑の色を浮かべていた。


あ~~。やっぱ目立つよね~銃は。

ハァ、これから色々聞かれるんだろうな~。


「……君たちは、いや、君は、今回試験を

 受けた子だよな?」

「は、はい」

「さっきの武器、あれは君の物か?」

「はい」

「そうか」


聞かれるがまま答えていると、冒険者らしき

男性はしばし無言で黙り込んだ。が……。


「正直、色々聞きたい事はあるが、

 まずはこれだけ伝えておこう」

そう言って姿勢を正す男性。

うぅ、何言われるんだろ。怒られるのかな?

そりゃ逃げろって言われて無視して

来たんだから、怒られるかなぁ。


とか思って居たけど、それは違った。

「お前のおかげで仲間が助かった。

 ありがとう、礼を言う」

そう言って彼は頭を下げてくれた。

更に彼の仲間と思われる人も、同じように

私に頭を下げている。


「あ、え、えと、どういたしまし、て?」


しかし、予想外過ぎる反応に、私は

おかしな疑問形を浮かべることしか

出来なかった。


これでとりあえず一件落着。

ハァ~。ただの試験のはずが、メッチャ

疲れた~~。


その後、私はアリエス、ウリエスと共に

町のギルドに戻るように言われ、2人と

一緒にギルドへ戻っていった。


今日の騒動は、まだ終わっていない事を、

知りもしないまま。


     第4話 END


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