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女の子だって異世界で暴れたいっ!  作者: 結城
女の子だって異世界冒険したいっ!
4/19

第3話 『試験という名の初陣』

今回の後半はバトル回になります。

セナーレに町に来て3日目。試験の日がやってきた。


私は宿で朝食を取ると、部屋に戻って装備を

確認した。


武装は腰のマチェットモドキと、服の袖に

隠してある投擲にも使える小さなナイフ。

そして更に、『切札』を『右足の側面』に、

スカートで隠している。その切札を取り出し、

動作確認をすると元に戻す。

防具は革製防具を着込んで、ちゃんと

固定されているかを確認。背中に背負う

タイプの鞄には、町で昨日買った冒険者

セットにポーション4個、毒消しポーション4個。

冒険者セットの中にはナイフや非常食に

水などが入っている事も確認。


よしっ。これで準備はOKだ。

でも、やっぱりメッチャ緊張する。

……でも、行くしか無い。これは私が

望んだ事なのだから。


私は部屋を出て、ドアに鍵を掛けた。

と、その時。

「おはよう」

「あっ。マリーさん、おはようございます」

女将さんの娘で、受付などを担当してる

お姉さん、『マリーさん』が廊下に居た。


「今日は試験なんでしょ?頑張りなよ」

「は、はいっ、頑張りますっ!」

私は緊張を吹き飛ばす意味で、叫ぶように

腹から声を出した。

「おっ。良い声出てるじゃん。じゃあ

 そんなミハルには、はいこれ」

マリーさんが取り出したのは、小さな

小包だった。


それを受け取る私。

「あの、マリーさん。これは?」

「まぁ簡単な物だけど、お昼のお弁当よ。

 持って行きなさい」

「ありがとうございますっ」

私は受け取ったお弁当を鞄にしまう。


すると、マリーさんが優しく私の頭を

撫でてくれた。

「頑張ってね、試験。応援してるから」

「はいっ!行ってきますっ!」

頭を撫でられ、頬が熱くなるのを感じながら

私は元気よく返事をして宿を出た。


ギルドにたどり着き、中に入るとそこには

私と同い年くらいの男女が何人もいた。

数は、ぱっと見て30人くらいかな?

私みたいに防具や武装、道具を揃えている人も

いれば、殆ど持っていない子達もいる。


そのまま周囲を見回していると……。

いたっ。アリエスとウリエスの2人。

ギルドの壁際の席で、並んで座っていた。

私はそちらに向かう。


「あっ、お姉ちゃん」

「……ミハル、か」

妹のウリエスちゃんがまず気づいて、

アリエスは相変わらず鋭い視線で私を

睨んでいる。

「どうも。隣、良いかな?」

「……お好きに」

ぶっきらぼうな答えのアリエス。でも

拒否しないならいっか。って事で私は

アリエスの隣に腰を下ろした。


……とは言え話題が無いんだよなぁ。

どうしたもんか、と思って居ると……。


「よぉしっ!これから今日の試験について

 の説明をするっ!ガキ共っ!耳の穴

 かっぽじってよぉく聞けよぉっ!」

部屋の中央に現れた、全身古傷だらけで、

褐色の肌に白髪の、如何にも戦い馴れた

このギルドのギルドマスターと言う風体の

男性が現れた。


「今日、お前達にはこれから冒険者に

 なるための試験を受けてもらう。

 この試験に無事合格すれば、お前達も

 今日から冒険者だ」

彼の言葉に、志望者の子供達がザワザワと

ざわめく。

「静かにっ!」

それを一喝する男性。そしてざわめきが

落ち着くと、再び話し始めた。


「良いかっ。試験のルールは簡単だ。

 お前達にはこれから、まず3人から

 4人のパーティを作って貰う。その後、

 このセナーレの町を出て東の森へ行く。

 東の森の奥地には、大きなゴブリンの巣

 があり、巣から溢れたゴブリンが東の森

 に生息している。お前達はこのゴブリンを

 発見し撃破しろ。撃破後は支給するナイフ

 でゴブリンの耳を切り落せ。良いか。

 切り落した耳が証拠だからな。必ず

 持って帰ってこい。数は特に決めちゃ

 居ないが、最低でも5匹。行けると

 思う奴らは10匹分でも構わんぞ。

 制限時間は今日の夕暮れ時まで。

 それまでにゴブリンの耳を5個以上

 集められなければ失格と見なす。

 また、パーティの行動を意図的に妨害

 するような奴、まぁつまり、仲間の 

 足を引っ張るような行動を故意にやる

 ような連中も失格対象だ。森には

 潜伏系のスキルを持った冒険者達が

 いて、お前達を見張ってる。いざと言う

 時は助けてくれるが、ゴブリン相手に

 助けられるような連中も同じく失格

 扱いとする」

と、そこまで説明するとギルマスは

一旦言葉を切り、私達を見回した。


「ゴブリンは動きはすばしっこいが、

 力は子供程度だ。1匹や2匹なら、

 お前達でも倒せるだろうが、決して

 油断はするなよ?あと、お前達の中には

 武器を持ってない連中も多いみたいだな。

 なので、今から武器の売り出しを

 始める。おぉいっ!もってこいっ!」

と、彼が叫ぶと、奥から剣や槍、弓などが

入った木箱が運ばれてきた。


「近くの武器屋から仕入れた物だ。他では

 買えないくらい安くしてある。ほら、

 早い者勝ちだぞ」

と、ギルマスが言うと、多くの子達が

すぐさまボックスの方に駆け寄った。


「ウリエスッ、私達も……!」

「あっ、うんっ!」

そして私の隣に居たアリエスとウリエスも

すぐさまボックスの方に向かい、良い武器は

無いかと吟味していた。


私も取る気は無いけど、どんな武器を

売ってるのか気になって近くに寄ってみた。


ボックスの中にあったのは、剣と槍に弓。

あとは盾くらい。剣も短刀から一般的な

西洋剣風の物まである。そこそこ種類は

あるみたい。とは言え、品質はあまり

良くなさそう。多分、武器屋の弟子の人

たちか何かが作った練習の作品なんかを

売ってるんだろうけど……。強度の面

とか大丈夫なのか?と私は心配になった。


とか思ってると……。

「あっ。お姉ちゃん。これなんてどうかな?」

ウリエスちゃんが何かを指さす。見ると、

ボックスの中の武器ではマシな感じの、

輝く刀身の西洋剣があった。

「そうね。これをっ」


と、アリエスちゃんがそれを取ろうとした時。

「どけ平民っ」

『ドンッ!』

「きゃっ!?」

不意に、私と同い年くらいの男がアリエスを

押しのけて彼女の取ろうとしていた剣を

手に取った。


「ッ!ちょっとっ!」

あまりに横暴な行為に、私は咄嗟に声を

荒らげた。

「何するのよ!それは彼女達が今買おう

 としてたじゃないっ!」

「あぁ?何だお前」


男は私の方に気怠げに振り返り、そして

鼻で笑った。

「はっ!引っ込んでろ平民っ!こいつは

 僕の剣だっ!なぁそうだろお前等っ!」

「はいっ!それはシン様が持つに相応しい

 剣ですねっ!」

男がそう言うと、取り巻きか?女の子が

お世辞を口にしている。


「ほらっ!これの値段はいくらだっ!」

そう言って、男、シンとか言う奴は

会計を担当していた女性に声を掛けた。

しかし女性は、強引に剣を奪うところを

見ていたのか、少し戸惑った様子だったが……。


「何ちんたらしてるっ!僕は領主の息子 

 だぞっ!僕に逆らうと、どうなるか

 分かってるんだろうなっ!」

そう言って声を荒らげるシン。

「ぎ、銀貨2枚です」

奴の言葉に、お姉さんは戸惑った様子で

そう言った。すると傍に居た女が布袋の

中から銀貨を取り出し、奴に渡して……。


「ほらよっ」

奴は金をお姉さんの方に投げた。それを

慌ててキャッチするお姉さん。あらゆる事

で上から目線な奴。その時。


「お前っ!それは私達がっ!」

その時、アリエスが声を荒らげた。

「あぁ?何言ってんだよ平民。こいつは

 僕が金を出して買ったんだ。つまり

 もう僕の剣なんだよっ!それとも、

 お前ら、金はあるのか?金貨1枚でも

 出せれば、この剣売ってやっても

 良いんだぜ?」

「ッ!?」

奴の言葉に、アリエスは唇を噛む。


「そ、そんな金、あるわけ……」

そして、彼女は絞り出すように語った。


「あはははっ!だよなぁっ!平民如きに

 そんな金あるわけないよなぁっ!

 だが、僕は優しいからなぁ」

そう言うと、奴はボックスの中に残っていた

みすぼらしい短剣を取ると……。

「ほらよ」

それをアリエスの足下に放った。


「それくらいならお前達でも払えるだろ?

 あははははっ!あ~僕って優しい~!」

高笑いを浮かべるシンとか言う奴。

もうあからさま過ぎる悪役っぷりに、

私は怒りを通り越して呆れを覚えて居た。

どうやったらあんな自己中息子に育つんだ。

あれは親の教育にも原因があるな。


とか思って居ると……。

アリエスちゃんが、震える手で床の上のナイフを

拾い上げた。そして、そのままお姉さんの

方に歩み寄る。

「……いくらよ」

「え?」

消えそうな声で呟かれた言葉に、お姉さんも

聞き返してしまう。

「このナイフは、いくらなのよ……!」


直後、アリエスちゃんは肩をふるわせながら、

叫びを押し殺すように小さく呟いた。

「ど、銅貨2枚、です」

戦々恐々とした様子のお姉さんの言葉に、

アリエスちゃんはポケットから銅貨を取り

出すと、それを渡して、そのままウリエス

ちゃんの方へと向かった。


「お姉ちゃん。大丈夫だよ。きっと、

 大丈夫だから」

ウリエスちゃんは、優しくアリエスちゃんを

抱きしめ宥めている。

でも……。


「こんな奴らばっかりだ。世界は。

 ロクデナシばっかりだ……!」

小さく聞こえる呪詛のような、怒りの声。

怒りに肩をふるわせるアリエスちゃんを

ウリエスちゃんが必死に宥めている。


やがて、皆に武器が行き渡った。

ちなみにウリエルちゃんも自腹でアリエス

ちゃんのと同じような短刀を1本買っていた。


「よぉし。お前達武器は持ったな。なら

 次はパーティを組め。パーティが出来次第、

 ギルドを出て東の森へ迎え。ゴブリンの

 耳を手に入れた奴らから戻ってこい。

 良いか。制限時間は夕暮れまでだぞ。

 それまでには戻って来いよ。それじゃあ

 開始」


そう言うと、彼らは傍に居た者達と

パーティを組み始めた。あの貴族坊ちゃん

は取り巻きとパーティを組んだのか、

さっさとギルドを出て行った。

私はアリエスちゃん・ウリエスちゃんの

傍に居たけど、皆、2人の事を見ても

声を掛けてきたりはしない。まぁ、持ってる

武装とさっきのやり取りがあった後じゃあ

ねぇ。


「待ってても4人目は来なさそうね。

 しょうがない。私達3人だけで行こうか?」

「……そうね」

暗い、沈んだ声で頷くアリエスちゃん。


そして、私達はギルドを出て東の森に向かった。


その道中。

相変わらず、鋭い視線のままのアリエスちゃん。

これは完全に、怒りが限界突破したまま

降りてこないみたいなんだよなぁ。

とは言え、頭の中が真っ赤っかのまま魔物

と戦うのは正直止めた方が良いんだよなぁ。

かといって、私が何か言って変に刺激する

のもなぁ。


とか考えていた時。

「お姉ちゃん。もう、アイツの事は忘れよう?

 それに試験は魔物と戦うんだから。そっち

 に集中しよう。ね?アイツの事なんか

 考えてて、怪我したりしたら、その、

 それこそ馬鹿らしいじゃない?ね?」

「……そうね」

ウリエスちゃんが必死に宥めたおかげか、

幾ばくかクールダウンした様子の

アリエスちゃん。ともあれ、怒りが

フルスロットル状態から落ち着いてくれた

のはありがたい。


その後、町を囲う城壁の門を出て、更に

平地を歩いてようやく東の森にたどり着いた。


森の入り口にはいくつかテントがあり、

そこにはギルドの冒険者や職員の人達が

いた。森に入る前に、その人達から、

万が一自分達でどうしようもないくらいの

負傷をしたら、ここのキャンプに戻って

くるように言われた。

キャンプの位置は狼煙を上げ続けるから、

それを目印にしろ、だって。あと一応

地図も貰った。


それと最後に、余り森の奥の方へは行くな

と言われた。森の浅い部分なら出てくる

のはゴブリン程度だが、深くまで行くと

上位種の『ホブゴブリン』や魔法が使える

ゴブリン、『ゴブリン・キャスター』など

が出てくるらしく、気をつけろとの事だった。


敵が魔法使ってくるのか~。それは確かに

今の私達じゃ対処出来そうにないなぁ。

魔法は、魔術としてスキルの一つに数え

られている。しかしその学習方法が厄介

なんだよね。その方法って言うのが、

道具屋かなんかに売ってるスクロール、

所謂巻物を購入して、中にある魔法に

対する説明文を理解しなければならない

らしいが、それがものすごく難解らしく、

魔術系のスキルを持つ者は多くないらしい。


私としては魔法より便利なこの『思い遂げる力』

があるから大して魔法に執着は無い。

せいぜい『覚えられたら良いなぁ』程度だ。


まぁ、そこらへんの事は、今は良い。

とりあえず目下の目的はゴブリンを

最低5匹は仕留めないといけない。


そして、森の中に入ってしばらく散策

していた時だった。


林の中を抜けると、不意に開ける視界。

そして森の中にあった開けた場所には、

ゴブリンが3匹。


「ッ!?いきなりっ!」

私は咄嗟に腰のマチェットを抜く。

「えっ?」

その時、後ろからウリエスちゃんの

呆けたような声が聞こえた。

「2人ともっ!武器抜いてっ!

 早くっ!」

「わ、分かってるわよっ!ウリエスっ!」

「う、うんっ!お姉ちゃんっ!」


私の叫びを聞いて、2人は短刀を抜く。

アリエスちゃんの方はまだマシだけど、

問題はウリエスちゃんの方だ。両手で

柄を握りながらカタカタを震わせている。

正直に言って危なっかしい。


対して、ゴブリンの武装は。木製の

棍棒1。簡素や石槍1。もう一匹は、

何も持ってない素手。

奴らの方もやる気なのか、うめき声を

上げながら警戒してる。

どうする。どれをやる。一番ヤバそう

なのは、槍の奴。……私があれをやるか。


「槍の奴は私がやるっ!2人は他のを

 お願いっ!」

「わ、分かったわっ!任せなさいっ!」

頷くアリエスちゃん。でも、その顔には

緊張の冷や汗が浮かんで居た。これは、

すぐにでも一匹倒して加勢した方が

良いかもっ!


「行くよっ!」

私はマチェットを手にかけ出した。

するとゴブリン達も向かって来た。

先頭は棍棒持ち。そいつが私目がけて

振り下ろすように大ぶりの一撃を放ってきた。


でもそれは、空を切り地面を叩いただけだ。

私はステップで攻撃を避け、更に前に出る。


冒険者になるために、この世界に生まれて

16年、必死にトレーニングして体を

鍛えてきたんだからっ!

前世と同じ平凡なオタク女子のままだと

思わないでよねっ!


更に前に出て、飛びかかってきたゴブリンを

もう一度ステップで回避し、槍のゴブリンと

距離を詰める。

『ギギャァァァァァッ!!!』

雄叫びを上げながら突きを繰り出してくる

ゴブリン。狙いは、頭っ!だったらっ!


体を横に傾け、突きを回避する。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

そして、カウンターの一閃っ!

右手を大きく振って、狙うは胴体、脇腹っ!

『ザクッ!!!』


鈍い音と、マチェット越しに伝わる肉を

切り裂いた感触。マチェットの刃が、

ゴブリンの胴体に深々と突き刺さっていた。

そして傷口から大量の血が溢れ出す。

「グギャァァァァッ!?!?!?!」

直後に絶叫するゴブリン。


でもまだ死んでないっ!咄嗟にマチェットを

引き抜くと、大きく振り上げ、そして

ゴブリンの首目がけて振り下ろした。

ザクッという音と共に首が落ちるゴブリン。


「ハァ、ハァ、一匹、撃破っ!」

馴れない感触。生き物を殺した感触。

それだけで全身から汗が噴き出し、疲れて

ないはずなのに呼吸が荒くなる。


でも、まだ終わってない。

「このっ!このっ!」

必死にナイフを振り回すアリエス。

ゴブリンの方も、そのデタラメな振り方に、

逆に恐れて近づこうとしない。


問題は、ウリエスちゃんの方だ。

「こ、来ないでっ!」

ガタガタと震えながらナイフを構える。

両手でギュッとナイフを握る様は、

素人感丸出しだ。

ゴブリンが一歩近づくと、ウリエスちゃん

も一歩下がる。と、次の瞬間。


『ギギャァァァァァァッ!』

ゴブリンがウリエスちゃんに飛びかかったっ!?

危ないっ!

咄嗟に駆け出そうとした次の瞬間。


「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」

悲鳴にも等しい叫びを上げながらナイフを

突出すウリエスちゃん。その一撃は、

見事ゴブリンの胴体に命中した。だが……。


『バキンッ!』

「きゃぁっ!?」

深々と突き刺さったナイフが根元辺りから

折れ、ゴブリンはそのまま覆い被さるよう

にしてそのままウリエスちゃんを押し倒して

しまった。


「ッ!?ウリエスッ!?」

悲鳴のせいで、アリエスちゃんの意識が

逸れてしまう。

『ギギャッ!!!』

それをチャンスと捉えたのか、ゴブリンの

持っていた棍棒が彼女の短剣を弾き

飛ばした。

「あぐっ!?や、やばいっ!」

『ギギッ!』


武器を失い、その表情を青くするアリエスちゃん。

そしてゴブリンは、ニタリと笑みを浮かべ

棍棒を振りかぶる。

「ひっ!?」

悲鳴を上げるアリエスちゃん。でもさぁゴブリンっ!


「私も居るんだよねぇっ!はぁっ!」

『ザンッ!』

後ろに回り込んだ私の、渾身の振り下ろしが

ゴブリンの右腕を切り落した。

『ギギャァァァァァァァッ!?!?!?』

ゴブリンは左手で右腕の切り口を押さえながら

その場に蹲った。


「今よっ!トドメをっ!」

「ッ!?」

私の叫びにアリエスは戸惑った後、すぐに

ハッとなって落ちていたナイフを拾った。


「こ、このぉぉぉぉっ!」

そしてナイフをゴブリンの頭に突き刺した。

どうやらこっちのナイフも耐久度に問題が

あったのか、そのまますぐ折れてしまった。


でもこれで2匹目。と、安堵した時。

「きゃぁぁぁっ!」

ウリエスちゃんの悲鳴が聞こえたっ!

慌てて視線を戻すと、死に体のゴブリンが

ウリエスちゃんに跨がっていた。そして、

その首を絞めて殺そうと言うのか、両手を

ウリエスちゃんの首に伸ばしていた。それを

必死に押しとどめているウリエスちゃん

だが、今にも押し込まれそうだっ!


「う、ウリエスッ!」

「させるかぁっ!」

悲鳴じみた叫び声を上げるアリエスちゃんの

横から駆け出し、数秒で距離を詰めてからの、

キックッ!ゴブリンを吹っ飛ばしてからのぉっ!


「トドメェッ!」

仰向けに倒れたゴブリンの胴体にマチェット

振り下ろした。切り裂いたゴブリンの体から

血飛沫が飛び散り、私の顔や服、装備を

汚してしまうが……。


私はゴブリンが死んだ事を確認すると、周囲

を見回した後、傍で尻餅を付いていた

ウリエスちゃんの方に振り返った。


「ウリエスちゃん」

「あ、あ、あの」

彼女は戸惑った様子で私を見上げている。

今の彼女の顔色ははっきり言って悪い。

そりゃぁ、あんな事があった後だ。

仕方無いのかもしれない。

だからこそ。そんな彼女に私は優しく手を

差し伸べた。

「あ、え、えっと」

戸惑いながらもその手を取るウリエスちゃん。

私は彼女の手を引いて立たせた。


「大丈夫だから。どこか怪我してない?」

「は、はい。大丈夫、です」

見たところ怪我はしてないみたい。でも

倒れた事なんかもあってあちこちが

土やゴブリンの返り血で汚れていた。

って返り血で汚れてるのは私も同じか。


「ウリエスッ!」

その時、アリエスちゃんが飛び込んできて

ウリエスちゃんを抱きしめた。

「大丈夫なのっ!?どこも怪我してない!?

 痛いところはっ!?」

「だ、大丈夫だから。落ち着いてお姉ちゃん。

 本当に大丈夫だから」

妹のことを心配するお姉ちゃん、アリエスちゃん。

ウリエスちゃんは彼女を安心させようと、

そう言って笑みを浮かべている。


このやり取りだけで、何て言うか、アリエス

ちゃんは本当に妹のウリエスちゃんを大事に

思ってるんだなって分かった。

だって、その表情に浮かんでいたのは、

焦りと恐怖だったから。


『妹は大丈夫だろうか?』、『妹は怪我など

してないだろうか?』。そんな心配から

来る焦りと恐怖の表情。でもそれは、それ

だけ妹の事を心配していると言う事への、

つまり愛情の裏返しだと思う。


さて、2人の仲が良いことは確認したし、

私は私で、今のうちにゴブリンの耳を

切り落した。これで3匹。最低ノルマ

まであと3匹って所かな。

まぁ、出来れば9匹くらいは行きたい。

確実に試験に受かるためにもね。


とは言え、私もウリエスちゃんもすっかり

汚れてしまった。

「あの~。ちょっと良い?」

アリエスちゃんが落ち着く頃を見計らって

声を掛けた。

「な、何?」

どうやらすっかり2人だけの世界に

入っていたのか私が声を掛けると

アリエスちゃんがビクッと肩をふるわせた。

……そんなに影薄いかね私。


まぁいいや。

「ほらこれ。2人の分の耳」

そう言って、私は取った3つの内の2つを

2人に差し出した。

「え?こ、これ、良いの?」

戸惑った様子でアリエスちゃんは私の顔

と手の上の耳を交互に見つめている。


「良いも何も、別に証拠は誰が持ってろ、

 とか決まってないし。だから渡しておくの」

私がそう言うと、彼女たちは1つずつ

耳を受け取った。


本当は、私1人が持ってることが不安だった

んだよねぇ。私1人が耳もいくつも持って

たら、彼女達2人に冒険者になるだけの

資格無しって判断されちゃうかもしれないし。

だからそれを回避するために2人にも耳を

分けておく事にした。


とは言え、汚れちゃったし。私は鞄から

地図を取り出して確認する。確か、ここから

少し行った場所に川が……。あった。

「ねぇ、ここから少し歩いた所に川が

 あるんだけど、そこに行かない?

 私、彼奴らの返り血で汚れちゃった

 から体とか装備洗いたくて。それに

 ウリエスちゃんもちょっと汚れちゃって

 るし。休憩も兼ねて、どうかな?」

「どうしよう、お姉ちゃん」

「……分かったわ。じゃあそこに行きましょうか」

悩むウリエスちゃんの事を見てから、私の

方を向いて頷くアリエスちゃん。


そして歩く事数分。川にやってきた私達は

私が持ってたタオルを水で濡らして、装備

や服、体の汚れを拭った。


そして、濡れた体や装備、服が乾くのを

待つ意味でも川辺で休憩をしていた。

幸い今日は晴れ。気温は春の陽気っぽい

から、多分20度前後かな?


は~~。しっかし、練習はしてたつもりでも、

初めて自分の意思で命を奪うって言うのは、

しんどい物があった。……でも、思ってた

より精神的ダメージが少ないのは、やっぱり

『殺さなきゃ殺される』って意識が働いて

たからなのかな?

まぁ、人間全ては慣れだから、そのうち慣れる

かもしれないけど……。


とか考えていた時。

『ク~~~~』

近くから聞こえたお腹の悲鳴。見ると、声の

主であるウリエスちゃんが顔を赤くしていた。

「……う、ウリエス?」

「ご、ごめんお姉ちゃん」

戸惑った様子のアリエスちゃんと顔を赤く

したまま謝るウリエスちゃん。


改めて空を見上げると、太陽は既に天辺だ。

時間的にはもう昼食の頃だろう。

「あっ、そうだ」

朝にマリーさんから受け取った小包を

思いだした私は、それを取り出して開いた。


中に入っていたのはサンドイッチだった。

具は厚めのハム、チーズ、レタス、トマトと

いったある意味ありふれたのサンドイッチ

だった。その数、ちょうど3個。これはありがたい。

私は1つを取ると、残り2つが入ってた

包みを2人の方に差し出した。


「どうぞ?ちょうど3つあるから。後の

 2つは2人にあげる」

「え?い、良いんですかっ!?」

差し出されたサンドイッチを、ウリエスちゃん

は目を輝かせながら見つめている。

そ、そんなに喜ばれるとは思ってなかったけど……。


「待ちなさいよ」

すると、そこに待ったを掛けたアリエスちゃん。

「昨日、私は言ったわよね?同情や

 哀れみなら結構よ」

鋭い視線で私を睨み付けるアリエスちゃん。

「……そう言うの、ホントに嫌になる。 

 同情や哀れみで優しくされたって、 

 ちっとも嬉しくないっ!どうせ、弱い

 奴らだから守ってやってるとか、私が

 どうにかしてやろうとか、そう考えてる

 んでしょっ!?」

「ッ!お姉ちゃんっ!」

彼女の言葉に、ウリエスちゃんが反論する。


「世の中の奴らなんか、屑ばっかよっ!

 この目のせいで忌み嫌われ、優しく

 してくる奴らも、裏では私達をどこの

 娼館に売り飛ばそうとか考えてっ!

 おかげで、誰も信じられなくなったっ!

 私達2人は、私達だけで生きていくっ!

 そう決めたのっ!だから、余計な

 お節介なんてしないでっ!これ以上優しく

 されたら、私は貴女のこと疑っちゃうからっ!」


それは、多分アリエスちゃんの心の叫び。

周りの人間を信じられなくて、周りには

碌な大人や人間が居なかった。だから

信じられるのは、きっと妹のウリエスちゃん

だけだったのかもしれない。

そして、それ故に他人の良心を、信じられない。

それがアリエスちゃんなんだ。


そして、誰にも頼れないからこそ、冒険者

になるしか無かった。

それが、彼女達が冒険者にならざるを得ない理由。


彼女達は、精一杯生きようとしている。

そんな2人を私は応援して助けてあげたい。

だからこそ……。


「出会ってまだ2日だもんね。私達」

「え?」

突然の言葉に、アリエスちゃんは呆けた声を

出していた。

「信じてくれなくても良い。疑われても良い。

 それでも、今のアリエスちゃんとウリエス

 ちゃんは、間違い無く私のパーティ

 メンバーだから」


そう言って、私はもう一度サンドイッチを

差し出す。


「『仲間』だから助ける。フォローする。

 例え今この一時の関係だとしても、

 2人は間違い無く、この試験をクリア

する為に一緒に戦ってる私の仲間

なんだよ」

「「っ」」


その時、2人は私の言葉に息を呑んだような

気がした。でも気にせず続ける。私の胸の

内を話す。


「それにお腹空いてる仲間を前にして食事する

鈍感さは、流石の私も持って無いよ。あと、

実を言うと試験って事で緊張しちゃって

 あんまりお腹空いてないのよね」

そう言って、私は苦笑を浮かべる。


「それと最後に、この試験がどこで評価

 されてるか分からない以上、ちゃんと3人

 で戻らないとね。だからお腹空かせて

 動けません、じゃ洒落にならないから、

 食べてくれると嬉しいな~、って」

そんな私の言葉に、2人はどこかキョトンと

している。


やがて……。

「あ、あとで返せとか、お金払えとか

 言っても知らないからねっ」

顔を赤くしながら呟くアリエスちゃん。

お~~。何というテンプレ的ツンデレ。

「ふふっ、言わないから。さっ、一緒に

 食べよ?」


そうして、私は2人と一緒にサンドイッチを

食べた。私が食べてる横で、2人とも凄く

美味しそうにサンドイッチを食べている。

「ふふっ、美味しいね?」

「はいっ!」

「ふん。ま、まぁまぁね」

私がそう言うと、ウリエスちゃんは目を

輝かせながら頷き、アリエスちゃんの方は

ぷいっとそっぽを向いたけど、見逃さないぞ~。

ちょっと笑ってるその表情、確かに

見てたからね~!


「アンタって、ホントお人好しよね」

「ふふっ、よく言われま~す」

食事をしながら呟いたアリエスちゃんの

言葉に、私は笑みを浮かべながら頷いた。

「ふふっ」

そして、その隣で笑うウリエスちゃん。


試験中だというのに、森の中で2人と

食べるサンドイッチは、とても美味しかった

気がした。



って、事で、2人と一緒に昼食を取ったのは

良いんだけど……。

「う~ん」

今現在、2人は武器を持ってないのだ。

どっちも壊れてもう使い物にならない。


かといってゴブリンの使ってた槍は

見た目的に凄く脆そうだし、棍棒もなぁ。

「ど、どうしようお姉ちゃん。私達もう

 武器が無いよ」

「どうしようって言っても、耳を

 切るためのナイフはギルドからの

 支給品だって話だし、万が一これを

 使って壊すわけにもいかないし……」

悩む私の隣で同じように悩んでる2人。


う~~~~んよしっ!悩んでても仕方ないっ!

「あのね2人とも。ちょっと良い?」

「何ですか?ミハルさん」

私が声を掛けるとウリエスちゃんが首をかしげた。

ちなみに何故か2人とも、昼食の後から私の

事をミハルって呼ぶようになった。ちょっとは

懐いてくれたのかな?まぁ今は良いや。


「これからちょ~~~っと不思議な事をするん

 だけど、出来れば驚かないでね?」

「不思議な事って。ミハル、何する気?」

眉をひそめながら問いかけてくるアリエスちゃん。

「まぁそれは良いから。所で、2人は武器を

 持つとしたらどんなのが良い?」

「はぁ?武器?そうねぇ。正直、ミハルの

 持ってる短剣と剣の間くらいのが

 良いかも。ウリエスは?」

「わ、私は、あんまりゴブリンとかに近づき

 たくないので、出来れば槍とか

 弓矢みたいなのが良い、かな」


「ふむふむ。なるほどなるほど。

 んじゃ、早速……」


私は目を閉じ、一昨日作ったマチェットと

同じイメージをして、掌の上に魔力を

集めてマチェットを作る。

「えっ!?」

「う、うそっ、何も無い所から、剣、が」

突如として現れたマチェットにアリエス

ちゃんは驚愕し、ウリエスちゃんは

驚いて目を疑っているのか瞼を

擦っている。


さて、これでマチェットはOK。次は、

う~ん。弓と矢にするか。

頭の中にウリエスちゃんが弓矢を

使うイメージを浮かべ、弓と矢が入った

矢筒をイメージする。


うっ、マチェットの時よりかは魔力を

持って行かれるけど、これくらいなら

大丈夫。

私が浮かんだイメージに十分な量の魔力を

込めると弓と矢筒が実体化した。


ふぅ、ちょっと疲れたけど、これで2人の

武器は大丈夫だね。

宙に浮いたままだった武器を手に取ると、

私はそれを2人の方に差し出した。


「さぁどうぞ?使って」

そう言って差し出すんだけど、何やら2人は

無反応。

あ、あれ?

「お、お~い。どうしたの~?」

なんか無反応が怖くて声を掛けてて見た。


すると……。

「ど、どうしたの~。……じゃないわよっ!」

おわっ!?びっくりしたぁっ!急に

大きい声出さないでよアリエスちゃん。


「何それ!?どうやって武器作ったの!?

 魔術っ!?魔術なのっ!?それとも

 スキルなのっ!?」

「す、凄いよミハルさんっ!」

めちゃくちゃ戸惑っているアリエスちゃんと

目を輝かせているウリエスちゃん。


「ミハル。アンタ、何者なの?武器を作れる

 なんて、普通じゃないわよ?」

怪訝な表情で私を見つめているアリエスちゃん。

べ、別に怪しい事とか後ろ暗い過去なんて

無いんだけどなぁ。いや、前世があって転生

した過去は十分に驚くか。

とは言え、これを話すわけにも行かないし……。


「や、やだな~。私は普通の女の子だよ?

 だたちょ~っと不思議な力があるだけだよ?」

とりあえずそう言ってみた。

「「いや(いえ)、ミハル(さん)が普通なわけ無いわよ(です)」」


普通だって全く信じて貰えませんでした。何故ェ。

ま、まぁ私自身自分が普通だとは思ってないけど。

ハァ。……説明、するかぁ。


とか考えながら、私は天を仰ぐのだった。


     第3話 END


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