第1話 『冒険者になりたい』
早速第1話です。実を言うと第1章分の6話全部書き終わってるので、すぐに投稿出来ると思います。
はじめまして。私の名前は『ミハル・スプリング』。
現代日本に生きていた、アニメやラノベが
大好きなJK、『坂巻 美春』って言う前世を
持つ女の子です。
前世で私は、交通事故に遭いそうだった
女の子を助けた結果死んでしまい、神様に
よってテンプレ的な転生をする事になりました。
そんな中で私は特殊な力を与えられ、異世界
へと転生しました。
そこは正に王道ファンタジーとも言うべき世界。
剣と魔法があって、危険な怪物もいるけど
冒険と出会いのある世界。
そんな世界に生まれ変わった私の最初は、
それはもう大変だった。
気づいた時には、私は赤ちゃんで、しかも
孤児院の前に捨てられていた。これには
流石に戸惑ったけど、私はその孤児院を
経営している女性の院長さんに拾われ、
無事に16歳まで育つ事が出来た。
ちなみに、ミハルという名前は捨てられた
私の入っていたクーファン(赤ちゃんを入れる
籠みたいなの)に添えられていた手紙に
書かれていたから。スプリング、と言う姓
は、私を見つけたのが春のある日だった
から、と言って院長が付けてくれた。
名前は前世と変わらないのは、偶然か。
或いは神様の差し金なのか。
まぁ気にしてないから良いんだけどっ!
ちなみに容姿の方は、前世と殆ど変わらない。
前世との違いは、視力が悪くないから眼鏡を
していない事くらい。なので髪は茶髪。
ヘアスタイルはストレートのロングと、
前世と全く同じ。おかげで16歳若返って
もう一度16年やり直したみたい。
話を戻して、孤児院があるのは小さなの町。
裕福では無かったけど、生活や食事に困窮
する事は無かった。
そんな生活の中で私は、最初は周囲に
面倒を見られながら。ある程度すると
周りの面倒を見ながら、そして時に
町の周囲にある農家で仕事を貰ってお金を
稼いだりしながら、16年をその孤児院で過ごした。
そして、16歳の誕生日を迎えたある日。
その日は周りのみんなが盛大に祝って
くれた。何故かと言うと、この世界では
16歳から成人扱いらしい。だからこれから
私は大人扱いされ、そして同時に、この
孤児院や町に残るか、或いはここを
去って行くかを選択することになる。
そして、私は当然。
「みんな。ありがとう。そして、これから
私がどうするのかだけど……」
私の選択は、既に決まっていた。
「私、孤児院を出て冒険者になろうと思う」
そんな私の言葉に、院長先生は小さく
俯いて、でもすぐに笑みを浮かべた。
同い年の子達も、そっかと言った表情で
頷いている。でも、私が面倒を見ていた
年下の子達だけは、泣きそうな表情を
浮かべていた。
「ミハル。本当に、冒険者になるのね?」
「うん。前から決めてたんだ。私は
この世界を冒険したい。だから冒険者
になろうって」
「冒険者という職業は、危険が付きまとう
と聞いていますが、それでも?」
「うん。それでも私は冒険者になる。
そして、この世界を旅する」
「そうですか」
私の言葉に、院長先生は小さく頷いた。
しばしの沈黙。
「ならば、この孤児院から巣立っていく
彼女を、今この場で盛大にお祝いしましょう。
でも、彼女の巣立ちは別れではありません」
院長先生は、そう言って特に年下の子達に
言い聞かせた。
「さぁ、パーティを続けましょう。再び
出会った時、今日という日を笑いながら
思い出せるように」
正に鶴の一声。院長先生の言葉で、泣きそう
だった子達も涙を堪え、精一杯パーティを
楽しんだ様子だった。
そして数日後。私はついに孤児院を出る事に
なった。孤児院の門の前には、私を見送るため
に子供達と院長先生が集まっていた。
年下の子供達は、みんな泣きそうな表情だ。
「それじゃあ、院長先生。お世話になりました」
「ミハル。もし、辛い事があったら、いつでも
戻ってきて良いのですよ?ここは、あなたの
家なのだから」
「はい、ありがとうございます」
と、そう言って頭を下げた時。
「「「ミハル姉ちゃんっ!」」」
年下の子供達が私に抱きついてきた。
「本当に、本当に行っちゃうの?」
「もう帰って来ないの?」
皆、涙目で私の服を掴んでいる。
上目遣いで、涙目ながらに私を見上げる
皆の姿は、やっぱり心にクる物があった。
「大丈夫」
そう言って、私は視線を下げ、子供達の
涙を指で拭った。
「たまには顔見せに帰ってくるから。
だから安心して。お姉ちゃんはきっと、
ここに戻ってくるから」
「ホントに?約束だよ?」
「うん。約束する。私は絶対、ここに
戻ってくるから」
そう言うと、私は子供達を抱きしめた。
「それまで、みんなと仲良くしててね」
あっ、ダメだ。私も泣いちゃう。自然と瞳
から涙が溢れてくる。
「絶対、またみんなに会いに戻ってくる
からね。だから、待っててね」
「うん。待ってる。ミハルお姉ちゃん」
私の涙ながらの言葉に。子供達も泣きながら
頷いてくれた。
私は涙に濡れた頬を拭うと、改めて皆と
向かい合う。
「それじゃあ、行ってきます」
「えぇ。道中、気をつけて」
院長先生の言葉を最後に、私は手を振る
子供達に手を振り返しながら、孤児院を
離れ、自分の道を歩き出したのだった。
そして私は、孤児院を出て町の外にある
乗り合い馬車の乗り場まで向かっていた。
そんな私の歩く道の周囲には、小さな
お店が家々の合間に点在していた。
街並みは正しく中世の田舎。元々冒険者みたいな
存在に憧れてこの世界を選んだ訳だけど、
やっぱり前世との違いを考えながら
見てみると、不便な事も多い。いつだって
お風呂には入れる訳じゃないし、蛇口を
捻れば水が出る訳も無し。夏は暑く、
冬は寒い。冷暖房なんて当然無い。
この世界で暮してからしばらくは、前世の
世界で人の暮らしを豊かにしていた、
当たり前に存在していた道具達への
感謝の念を禁じ得なかったのよねぇ。
そして……。
更に言えば、前世では自分が恵まれていた事
も、この世界に来て実感した。
親に愛され、自分の好きな事を好きなよう
に選べる人生。それはとても、恵まれた
事だった。この世界には親と普通に
暮す事さえ難しい子供達もいる。
例えば、『魔物』。
それはゲームで言う所のゴブリンや
リザードマン。果てはドラゴンなんかと
同じような存在。この世界では、
混沌の神ケイオスの眷属=魔物という
認識だ。魔物はこの世界のどこかから自然
発生し、時に小規模の町や村を襲う。加えて
魔物はサイズで脅威度を測るのだが、ドラゴン
のような重量級と呼ばれる大きさの魔物と
なると、破壊力も凄まじく、時には都市を
襲って甚大な被害を出すらしい。
そしてその被害の結果、親と死別する
子供も少なくは無い。実際、あの孤児院
にも何人かそう言う子がいた。
更に、他にも盗賊や山賊なんかの襲撃を
受けて両親を殺された、なんて話もよく
聞く。
そう言う意味では、この世界における、
私が前世で経験した『ありふれた生活』は
『贅沢』と呼べるような事だ。
それほどまでに、この世界は厳しいと、
この16年間で私は実感した。
そして、そうこう考えながら歩いている
内に、町の外の乗り合い所までたどり着いた。
私はとある町『セナーレ』という町へ
向かう馬車に運賃を払って乗り込んだ。
これから私は冒険者になるためにその
セナーレという町へ向かう。
冒険者というのは、まぁ大体前世で
私が呼んでいたラノベの冒険者と大して
変わらない。
冒険者ギルドに登録し、ギルドから斡旋
される様々な依頼をこなすことでお金を
稼いでいる者達。それが冒険者だ。
そして彼等、或いは彼女達の受ける依頼は
千差万別。隣町までのお使いだとか、
特定の薬草などの収集。危険度の高い
ものであれば魔物の討伐や商人の護衛など。
簡単な物から危険な物まで色々ある。
そして、私はこれからセナーレの町に
あるギルド支部へ行き、冒険者登録を
する。セナーレまでは馬車で約半日。
それまで私は、ガタゴトと馬車の荷台で
揺られていたのだった。
そして、私は道中何も無く、無事にセナーレ
の町に着いたんだけど……。
「う~~~。ぎぼちわるい~」
私は乗り合い所の近くの日陰で木に
寄りかかっていた。
ま、まさか馬車があんなに揺れの激しい
乗り物だったなんて、知らなかった。
まぁ車みたいなサスペンションも無いから
悪路とかだとガタガタ揺れてお尻が
痛くなるわ、揺れが酷くてこの様である。
うぅ、船や車、飛行機でも酔った事無い
のに。ば、馬車にも今後馴れるように
しとかないと……。
そう考えながら、私は木製の水筒を鞄から
取り出して水を飲んで一息ついた。
しばらくすると酔いも収まったので、
改めて私はセナーレの町の中へと
入って行った。
改めてセナーレの町の様子を見ているけど、
どうやら町としては中規模。私の育った
あの町よりは、二回りほど規模も人口も
多いくらいだ。
私はそんな街の様子を見つつ、門番を
していた兵士の人に教えて貰った
ギルド支部へと向かっていた。
そして歩く事、約15分。私は目的の
建物を見つけた。
「ここが。セナーレのギルド支部か~」
私の目の前に建っているのは、周囲の
建物よりも大きく、どこか荘厳な作りの
木造建築だった。大きな入り口の上には
看板があり『冒険者ギルド・セナーレ支部』
と書かれていた。
さてと、まずはここで話を聞かないと。
意気込みを新たに、扉を開けて中に入る。
中には受付のようなカウンターと、依頼を
張り出している掲示板。剣や弓を持って、
テーブルに座って話し合っている冒険者
らしき人達。更に2階には食堂があるのか、
そこで食事をしながら談笑したりしている
冒険者たちの姿もある。
く~~!これこそまさに冒険者ギルド!
ファンタジー系ラノベも大好きな私が
来たかった場所ランキング上位の場所っ!
っといけないけない。テンション上げ上げ
だけど、今は落ち着いて。私は周囲を
見回し、総合受付、と言う看板のあるカウンター
を見つけた。幸いそこに人は並んでなかったので、
そこにいる受付のお姉さんに声を掛けてみよう。
「あの~、すみません。ちょっと良いですか?」
「あら。いらっしゃい。どうかしたの?」
そう言って声を掛けてくれたのは、眼鏡を
かけた知的で優しそうなお姉さんだった。
「はい。実は私、冒険者になりたくて
来たんですけど、方法が分からなくて」
「あぁ、そうだったの。なら早速だけど
教えてあげるわ。貴女、冒険者について
どこまで知ってる?」
「えと、冒険者ギルドに登録して、ギルド
が紹介している依頼を受けて、それを
こなすと報酬が貰える、って所は
分かるんですけど」
「そうよ。大体の事は分かってるみたいね。
じゃあ次。冒険者にはランク付けが
されてるんだけど、そこは知ってる?」
「いえ。そっちは全く」
「そう。じゃあ改めて説明すると、冒険者
には7段階のランク付けがされてるの。
上からSSS、S、A、B、C、D、Eと言う
具合にね。Aランク以上なら一流。
B、Cランクで中堅。D、Eランクで
駆け出し、って所ね。あと、依頼によって
は規定ランク以上でないと受注できない
物もあるから。ちなみに、冒険者登録用の
試験を受けて合格すると皆Eランクから
スタートだから。いきなりDとかCの
ランクになる事には無いからね」
「登録用の試験、ですか?」
「あぁ、ごめんなさい。そこも説明しない
とね。今登録用の試験って言ったけど、
まず、冒険者になるには各地のギルド支部
が行っている試験に参加して貰って、
試験の課題をこなして貰う必要があります」
「その試験の内容とか日程とか、今聞いても
大丈夫ですか?」
「もちろんよ。このセナーレ支部では、一週間
に一回のペースで試験を実施してるわ。
次の試験は明後日ね。試験の内容はシンプル
よ。当日集まった人数の中で、3人から4人
のパーティを作って近くの森に潜んで居る
難易度の低い魔物、『ゴブリン』を5匹から
10匹ほど倒す事」
「成程。あ、でもパーティを組むって言う
のは?1人で受けちゃダメなんですか?」
「えぇ。正直な話、ソロの冒険者って
少ないのよね。居ないって訳じゃないん
だけど、冒険者の依頼は、やっぱりどちらか
と言うと戦闘がメインなの。魔物の討伐
なんかが良い例ね。そして、討伐依頼とも
なると死亡したりする事もよくあるし、
危険度も高い。だから冒険者は討伐依頼を
受ける時なんかは他の冒険者と組む事が
多いの」
ふむふむ。なるほどなるほど。
確かに戦闘有りの討伐任務じゃ、1人
で挑むと危険か。囲まれて背後を取られたり、
奇襲への対処とか。そう言うのは1人より
複数の方が良いだろうし。
「でもね、依頼の度に仲の良い冒険者と
組める訳じゃないから、時には余り
知らない冒険者と組んで仕事に行く人も
多いの。だからそう言うのに今のうち
から馴れておくために、試験の段階で
団体行動が出来るかもテストするの」
「成程。それが試験でパーティを組む
理由ですか」
「えぇ。あ、そうだ。貴女、今日の内に
明後日の試験を予約しておく?」
「え?予約出来るんですか?」
「うん。出来るよ」
そう言うと、お姉さんは受付のテーブル
の下から一枚の用紙を取り出した。
「この紙に名前と年齢を書いてくれれば
大丈夫。あ、一応聞くけど、16歳
だよね?」
「あ、はい。今年で16歳ですけど……。
もしかして年齢制限があるんですか?」
何故年齢を聞くのか、正直気になったので
聞いてみた。
ラノベだと冒険者登録で年齢を聞かれる
シーンなんてあんまり無かったような……。
「まぁね。……こんな世の中だからかしら。
親と死に別れて行き場の無い子供達が、
よく来るのよ。冒険者になって
金を稼ぎたいって。でも私達ギルドと
しても、まだ年端もいかない子供を
はいそうですかって冒険者にして、
それで依頼を受けたけど死亡。失敗されて
もね。実際、失敗したらしただけ
ギルドは無能な子供を冒険者にするのか、
とか言ってギルドへの批判も出るし、
冒険者全体の信用にも響く。だから
今のギルドでは16歳以上の冒険者
登録は受け付けてないの」
「……そうですか」
やっぱり、この世界は残酷だ。
親を失った子供達にとって、孤児院で
面倒を見て貰える事は、まだ幸運と
言えるのかもしれない。運の無い子供達
は自分で生きるために金を稼ぐしかない。
その最もな所は、冒険者だろう。依頼を
こなせば報酬が貰える。依頼の中には
簡単な物もある。だから親を亡くした
子供達にとって、お金を稼ぐために
冒険者になろうとするのは、理解出来る。
そしてきっと、その子供たちには、
そうする以外に生きる術が無いのかも
しれない。でも、今はその方法さえも、
閉ざされている。
「……どうかした?」
「あ、いえ。何でも無いです」
しばし俯いていたけど、お姉さんが声を
かけてくれたので我に返った。
改めて、私は用紙に名前と年齢とかを
書いて提出した。
「はい。確かに受理しました。それじゃあ
明後日の朝、またここに来て下さいね」
「はい。分かりました」
そう言って私が頷くと、何やらお姉さんは
私の腰元に視線を向けた。あっ、
もしかして武器を持ってない事に
気づいたのかな?
「そうだ。一応言っておくけど、もし
お金に余裕があるなら今のうちに武器を
買っておく事ね。当日参加で武器を
持ってない子達のために、安く武器を
売ってるんだけどね」
「へ~」
やっぱりか。……まぁでも、私には武器
を『買う必要は無い』んだけど……。
「でも、当日は大体そう言った持ってない
子達の間で取り合いみたいになっちゃう
から、出来れば今のうちに買っておく事
がお勧めよ。ちょうどギルドの近くに
適正価格でちゃんとした武器や防具を
買えるお店があるから、あとで寄って
見ると良いわよ」
「はい。ありがとうございます」
そう言って小さく頭を下げた時。
「あ、そう言えば、この近くで安く泊まれる
宿とか無いですか?正直出費は抑えたくて」
それは、お金のない女の子の切実な願いだ。
孤児院育ちの私じゃ、良い宿で数日泊った
だけでお金が底を突きかねない。
それを分かってか小さく笑みを浮かべながら
「そうね」と呟くお姉さん。
「それなら、ギルドを出て右に見える
道をしばらく行くと『マーサの宿』って
安宿があるよ。朝昼夜3食付きでね。
ただ、結構人気のある宿だから空き部屋
があるかは、行ってからだけど」
「分かりました。じゃあ、そろそろ私は
失礼します」
「えぇ。じゃあ明後日にね」
「はい。ありがとうございました」
受付のお姉さんに別れを告げ、私はギルド
を出た。そして教えられた武器屋へ……。
とは行かず、真っ直ぐマーサの宿とか
言う安宿に向かった。
正直、お姉さんに武器屋の事も教わったし、
覗いてみても良いんだけど、でも武器を
入手するのなら、私は買う必要なんてない。
何故なら私は武器を『生み出せる』のだから。
神様から貰った力、『思い遂げる力』、
別名『ドリーマーオブナイト』。略してDOK。
夢想家の騎士って意味の力。この力は頭の中に
イメージした物を、私の中にある精神
エネルギー、『魔力』を使って実体化させる事
が出来る。
その条件として、明確な形をイメージ
出来る事と、その使用の動作や使い方を
私自身が理解している事。
細かい構造を理解していないと再現出来ない、
って言うハードルが無い分、私はあらゆる物を
生産出来た。例えば剣。それもゲームに出てくる
属性が付与された魔法剣のような物もある。
更に現代兵器でお馴染みの『銃火器』。
これはお父さんの影響でミリタリーマニア
の端くれだった事が功を奏した。
実体化出来るのは拳銃からアサルトライフル、
狙撃銃、ショットガンなどなど。更には
対戦車兵器として一昔前のパンツァー
ファウストまで再現出来た。
……まだ試した事があるのは拳銃だけ
だけど。
ともかく、今の私なら、魔力のある限り
剣や銃、銃弾を生み出せる。最も
『魔力のある限り』、と言う制約が
付いているが。……更に悪い事に、現在私が
保有する魔力の総量では、最低限バイク1台を
何とか生み出せるレベルだ。それ以上、
例えば車やヘリサイズになるともう無理だ。
正直な所、私はロボットアニメのファンでも
あったから、この能力があればロボット。
更には某変身ヒーローのような変身も夢では
無い。なにせ、私の能力は『創造』の力なのだ。
どういうことかと言うと、実は以前、この力
を試していた時にふと頭に、某有名な
モンスターをハントするゲームの大剣を
イメージしたら、それを見事に生み出せたの
である。
そこから言えるのは、私が生み出せる武器は
現実や架空とか関係無いのだ。それを生かせば、
自分で考えた武器を生み出す事が出来るのだ。
であれば、自分の必要な、或いは欲しい武器を
イメージするだけで創り出す事が出来る。
何とも汎用性の高い、ありがたいチート能力
である。
とは言え、当面の問題はスキル以前に職探し、
と言うか冒険者の試験に合格することが
一番大事な事なんだよねぇ。
ハァ。正直、銃とかを使えば楽だとは思うけど、
こっちの世界じゃ遠距離武器は魔法か弓
とかが基本。なのに銃なんてぶっぱなした
日には注目度爆上がり。……こんな事なら
弓関係の『スキル』、『弓術』を学んでおけば
良かったと私は後悔してる所。そんな中で、
私は改めてスキルというものについて考えていた。
『スキル』。
それを一言で表せば『資格』みたいな物かな。
更に言えばスキルって言うのは2種類ある。
一つが今言った普通の『スキル』。
もう一つが、私の持っている『思い遂げる力』
のような『ユニークスキル』。
この二つの違いは、スキルというのは
学習や研鑽を通して、後天的に身につける
技術の総称。
対してユニークスキルは、先天的に備わって
いるスキルの事。
また、ユニークスキルはスキルと違って
同じ物は一つとして存在しない一方、特定の
場面でしか力を発揮しないような、特化型の
物が多いらしい。
……そう言う意味では私のユニークスキルは
汎用性が高すぎるかもしれない。
ちなみに、スキルを確認する方法は私の
知る限り二つ。そう言うのを見たり
アドバイスしたりする占い屋みたいな所
があってそこに行くか、ギルドで冒険者
登録をすると貰えるステータスプレート
で確認する。この二つだ。
以前、教会に依頼で来た冒険者の人に
プレートを見せて貰ったけど、その人は
サバイバル技術と剣術の他に色々なスキルを
持っていた。その人の話では、中堅クラスに
なるとスキルの数は4~5は当たり前らしい。
更に聞いたところによると、スキルにもレベルが
あって、レベル10が最高らしい。そこまで
行くともう『極めた』というレベルなんだとか。
そして付け加えるのなら、スキルというものの
分類は広い。例えば剣術や弓術、槍術、魔術の
ような戦闘系の物から料理、洗濯、と言うか家事の
スキルまであるらしい。つまりこの世界は、
あらゆる技術の習熟度を、スキルのレベル
として見る事が出来る。
そしてレベルのシステムはユニークスキル
にも適応されているらしく、もしかしたら
私が強くなってスキルのレベルを上げたら、
それだけもっと多くの物を作れるように
なるかもしれない。
っと。
なんて考え事しながら歩いてたら、近くに
立て看板が見えた。『マーサの宿』。ここだね。
看板の示す宿を見てみる。確かに年期は
入ってるようだけど、それが返って風情がある
って言うか。どこか安心する感じだね。
私は早速ドアを開けて中へ。
すると『カランカランッ』と音がした。
ドアの上にベルが付けてあるんだね。
「あっ。いらっしゃいっ!」
すると、入ってすぐの所に受け付けがあって
そこには1人の、私より少し年上くらいの
女の子がいた。見た目的に二十歳手前くらいかな?
私はそのままカウンターへと歩みを進める。
「こんにちは。こちらに宿泊したいんです
けど、部屋って空いてますか?」
「うん。空いてるよ。それもラス1の
部屋が」
おぉ、何というラッキー。
「それじゃあその部屋でしばらく宿泊
したいんですけど」
「OK。期間はどうする?」
「とりあえず2週間ほど。あっ、期限
が来てから期間を延ばす事って出来ます?」
「うん、出来るよ。あと、ウチは料金
後払いでも先払いでも、どっちもOK
だけど、どうする?」
「じゃあとりあえず2週間分先払いで。
いくらになりますか?」
「2週間なら、銀貨2枚だね」
「分かりました」
私は鞄の中にある袋から銀貨を2枚取り出し、
それをお姉さんの前に置いた。
ちなみに、この世界のお金は、銅貨、銀貨、
金貨の3種類で統一されている。
元日本人の私の感覚からすれば、銅貨は1枚
で100円。銀貨1枚で千円。金貨一枚で
一万円、と言う具合だ。つまり2週間
泊って約2000円。一週間で1000円の計算だ。
これは確かに安い。
「確かに。それじゃあ部屋に案内するね」
「はい。お願いします」
私はお姉さんの後に付いていき、部屋へ
向かった。
「それにしても、若いわね。私より年下?」
「はい。今年で16です」
私は廊下を歩きながらお姉さんと話をしていた。
「へ~。じゃあやっぱり冒険者志望?」
「はい。そうですけど、なんで分かったん
ですか?」
「16歳という歳。一人旅。そしてまずは2週間
程度の契約。そして明後日は登録試験。
……って、推理みたいな事言ってるけど、
本当は経験から来る感ね。実際、お金の
無い若い冒険者や、冒険者になりたい子
はウチに泊る事が多いから。っと、
ここがあなたの部屋よ」
そう言って案内された部屋は、ベッドと
机、カーテン付き窓がある簡素な部屋
だった。でも、何というか素朴な感じで
落ち着けそうな、良い部屋だった。
「それじゃ、今日から2週間、ここが貴女の
部屋よ。それと、ウチは朝昼夜の食事、
全部無料で提供してるから。ただし、
利用は時間厳守でお願いね。食堂は1階。
使える時間帯も食堂の入り口の立て看板
に書いてあるから後で確認しておいて。
食堂は私の居た受付の右側の通路を奥に
進んだ先にあるから。あと、トイレは
廊下の突き当たりで共用だから」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあごゆっくり~」
そう言うと、お姉さんは私に部屋の鍵を
渡して出て行った。
さてと。
『ボフンッ』
私はベッドに腰掛けた。そして、改めて
今日あった事を振り返る。
生まれ育った田舎町の孤児院を出て、
馬車に乗って酔ったりもして、
初めて訪れた別の町。そこで見つけた
冒険者ギルドと何人もの冒険者達。
転生して初めての宿を一人で取って。
今日だけでもかなりの初めてがあった。
「ふふ、ふふふっ!」
そう思うともう笑いが止まらないんだよ!
正しく冒険者!正しくファンタジー世界!
あぁ、私は今、人生を謳歌しているよ!
それからしばらく、私はニヤニヤが
止まらなかった。
んでもって数十分後。ようやくニヤニヤが
落ち着いた私は改めて明日と明後日の事を
考えた。
明日は多分買い物だろう。武器は自分で
作るから良いとして、防具はそうはいかない。
あと、回復薬とか売ってたら買っておきたい。
とりあえず明日買うのは防具、冒険者に必要
になるであろう道具。大まかにはこの2種類
かな。
武器は、折角だ。今のうちに作っておこう。
私はベッドから一度離れ、部屋のカーテンを
締め切り、ドアにも内側から鍵を掛けた。
私のユニークスキルの事は、まだ余り周り
には知られたくないし。
だからこそ外から見られたりする事が無い
ようにこうして部屋を閉め切り、私は
もう一度ベッドに腰掛けた。
そして目を瞑り、右手を顔の高さまで上げると
頭の中でイメージを膨らませる。
今用意するのは、短剣。イメージ的には
マチェットが近い。そして更に、私がそれを
振るイメージを頭の中に浮かべる。
私はまだ子供だ。身長も標準的な女子高生のそれ。
長い武器はそれだけで振り回されるし、私には
成人男性ほどの胆力も無い。でも、スピードには
結構自信がある。だからこそ、軽く振る事が
出来る、軽い刀剣、マチェットサイズの剣が
望ましい。
そして、頭の中でイメージが完成した私は
ゆっくりと目を開いていく。
と同時に、私の右手の上に、私から溢れ出した
魔力が光を放ちながら収束して形を為した。
そして、出来上がったマチェットの柄を
静かに握りしめる。
私は立ち上がり、グリップの感触を少し
確かめると、それを軽く振って動きを
確かめた。
本来のマチェットは、刃の厚さが3mm程度
と結構薄いけど、これはそれよりも倍以上の
厚みがある。その分少しだけ重くも感じる
けど、それでも私が以前創り出した一般的な
剣よりは軽い。……あんなのは私に振れる
道具じゃない。だから私は長剣を振ることを
諦めたんだけど……。
まぁ、とにかく持っておくにはこれで良い
だろうし。
その後、私は更にマチェットの鞘と、それを
固定するベルトを生み出した。更に予備という
か、隠し持てる武器として、袖の下に小さな
クナイのようなアイテムを入れられるベルト
を製作し装備。そこにクナイを入れた。
あぁ、何というアサシン感。アサシンで
クリードなゲームも大好きな私にとっては
気分は鷹の名を冠する暗殺者。
まぁ、暗殺とかはする気は無いし、暗殺者
になるつもりも無いけど。
そんなこんなで装備も調えたけど、やっぱり
能力には魔力を消費するから疲れる。
そして締め切っていたカーテンを開けて外
に目をやれば、外はすっかり夕暮れ時。
「お腹空いたし、もう夕食って食べられる
のかな?」
私はマチェットを置き、部屋を出てドアに
鍵を掛けるとさっき教えられた通りの場所に
行ってみた。
食堂の入り口の上には、食堂と書かれた立て
看板が二つあって、1つにはOPENの文字と
今日のメニューが書かれていた。もう一つ
には、朝昼夜、それぞれやってる時間帯が
書いてあった。入り口から中を覗くと既に
既に食事をしている人が数人。どうやらもう
大丈夫そう。
もう一度メニューに目を向けると、今日は
ミートパスタにサラダとスープにパン。
この世界じゃ、ごく普通のメニューだ。
流石に前世のファミレスみたいに、数ある
メニューの中から、ってのは無理みたいだ。
まぁ別に問題無いけど。
私はそのまま中に入り、受け取り口らしく
所へ行く。
「あの~。すみませ~ん」
そこから厨房の中に声を掛けると、近くで
こちらに背を向けながら作業をしていた
人が振り返った。
「はいよっ。どうしたんだい?」
振り返ったのは、恰幅の良いおばちゃん。
如何にも定食屋のおばちゃん女将みたいな
人だった。
「あの~。実は今日からここに泊る
ミハルって言うんですけど、料理って
ここで受け取る感じですか?」
「あぁ、そうだよ。今盛り付けるから、
ちょっと待ってな」
そう言うと、おばちゃんは料理を皿に
盛り付け、それを更に木製のトレーに
並べていく。
「ほいっ。おまちどうさん」
待つ事数分。メニュー通りの料理が
載せられたトレーが出てきた。
「ありがとうございます」
「食い終わったら、そこの置き場に
置いといてくれ」
そう言って、受け取り口の傍にある
棚を指さすおばちゃん。
「は~い」
私は返事をしながら、トレーを手に
空いている席に腰を下ろした。
何て言うか、フードコートみたいな
感じだなぁ。食堂の雰囲気が。
とか思いながら、私は手を合わせ、
小さく「いただきます」と呟いて
から料理を食べ始めた。
まぁ味は普通だけど、重要なのはこういう
趣のある宿で食べる事っ!
周りを見渡せば、冒険者らしき人達も姿も
あるある!
私は『は~~やっぱり異世界に来たんだ~!』
って感慨深い思いを浮かべながら食事を
していた。
その後食事を終えた私は、食器を片づけて
部屋に戻った。
はじめての町。はじめてのギルド。はじめての宿。
今日はたくさんのはじめてがあってもう
緊張しっぱなしだったよっ!
さ~て、明日は町の中を散策するから
もう寝よう!
そして、ベッドに飛び込んだ私は笑みを
浮かべながらものの数分で寝落ちしたのだった。
第1話 END
まだまだ始まったばかりですが、もし面白いと思って頂ければ評価など、お願いします。