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第7話.アリスと猪子

第7話.アリスと猪子



「有栖川さん、お困りのようですね」


クマさんと昼食を摂っていると、キツネとタヌキのペアが現れた。「ふふん」といつも以上に鼻を高くして、キツネが言った。


「聞きましたわ、お見合いをしますのね」


その言葉にドキッとした。上擦った声でアリスは問い返す。


「誰から聞いたんだ」

(なぜそれを知っておられるの?)


心の声と、現実の声を取り違えてしまったようで、キツネはビクっと肩を震わせた。脅かしてしまっただろうか。


「ええええええっ!?お姉様!お見合いを!?」


それ以上に大きな声で、空気を裂くようにクマが会話に割り込んで来た。


「な、な、な、なんで。もう退学されてしまうのですか!?私達出会ったばかりなのに」


退学。そうだ、この時代の女学校では在学中に縁談がまとまって、寿退学をする生徒が多い。むしろ順当に進級して卒業する生徒の方が、卒業顔と揶揄される始末である。


「まぁ、その。それは……」


アリスが言い淀んでいると、キツネが得意な顔を近づけて言った。


「有栖川さん。はじめてでいらっしゃるでしょう?それで私、素晴らしい助っ人をお連れしましたの」

「えっ?」

「お見合いでしょうに。はじめてでしたら心細いでしょうから、先人の知恵を借りた方が良いですわ」


先人の知恵とは?むしろ当たり障りなく破断になる方法を知りたいのだが。しかしそんなアリスの思いは通じず、キツネはどんどん話を進めていく。


「猪子さんですわ!」


ババーンという効果音が鳴りそうな大袈裟な紹介で、タヌキとキツネの間から一人女子が姿を現した。


「うぉっふん。ご機嫌よう、有栖川さん」


キツネとタヌキを足して二倍したような大きさの彼女が、満面の笑みで視界を占拠(ジャック)した。


「え、ええ。はじめまして、ご機嫌よう。有栖川貞子です」

「聞いております。私が来たからには、お見合いは成功させて見せますわ。お任せください。うぉっふん」


愛嬌はあるが、この猪子さんとにかくでかい。どうも目方は100キログラムを超えているように見える。そして距離感が近い。

ズイっと割り込むようにキツネさんが言う。


「この猪子さんはお見合いに精通していらっしゃるの。今まで百回のお見合いをこなしているそうなのよ」

「ふふ。百八回よ、うぉっふん」

「あら、また記録を伸ばしましたのね。失礼しましたわ」

「……」


黙っていると、ぷるぷると小さく震えていたクマさんが口を開いた。


「ひゃ、百八回もお見合いを。そんな方がお姉様に秘伝を伝授すれば、必ず成功されてしまいます。私はまた一人、この学校でいじめられてしまうのね……」


ぼそぼそと小さい声で、しかし確実に聞こえる音量で独り言を言った。しかも、黒いオーラを纏い始めている。


「く、クマさん?ちょっと、まだ決まった訳じゃありませんから。黒熊になるのはやめてください」

「うぉっふん。私に任せて頂けたら決まったも同然ですわ」

「そうよ。有栖川さん、大丈夫よ」


大丈夫じゃねえよ!


「うわあああああん!」


突然、クマさんは泣きだすと教室の外に飛び出してしまった。最悪だ、どうなってるんだ。泣き出したいのはこっちだよ!


「ちょっと黙って!一回、一回帰って、キツネさん!わかんなくなってきたから」

「えっ!?そんな、私は有栖川さんの事を思って……」

「いや、それはありがたいんだけど。今ちょっと頭が混乱してて。事情が複雑だから」

「そんな、ごめんなさい。わ、わたくし」


キツネは、ふっと自嘲気味な笑顔になったかと思うと一転。


「ああーごめんなさいっ!私が余計な事をーっ!」


キツネさんはそう叫ぶと、教室を飛び出した。タヌキはそれを見ると、ぺこりと一礼してキツネを追いかける。

そして教室に残されたのは、俺と、猪子。

お互い顔を見合わせて、無限とも思える沈黙の後、無垢な笑顔を向けて猪子が言った。


「うぉっふん。まずは、お食事の作法から」

「それはもう良いよ!」

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