第2話.アリス学校へ行く
第2話.アリス学校へ行く
有栖川貞子か、確か有栖川家のご令嬢で金持ちで家柄を鼻にかけて、ヒロインに悪さをするって立ち位置だ。最終的には没落して、無一文になるって話だったけど。
「そもそも女の子って!転生するにしても普通は自分のキャラクターだろ」
超絶イケメンボイスが売りだった俺の声も、完全に女の子のそれになっていた。
「お嬢様、落ち着いて下さいませ」
おろおろと、俺の周りで様子を伺っているふみがそう言った。彼女のいう通りだ、とにかく状況を整理しないとどうにもならない。
「なぁ、俺。いや私は今なにをしていたのかしら?」
それっぽい口調を頑張って作って質問する。
「ただ今学校へ向かっている途中でございます」
「そうかしら」
そうかしらって変だな。そうですか、いやそうですわで良いのか?
気がつけは、ふみの眉間にシワが寄っている。笑いを堪えているのか、怒りを堪えているのかわからないが、良くない兆候だ。
「ふみ、私は学校に行きますわ。連れて行きなさい」
「はい」
ふみに前を歩かせて、それについていく形を取る事にした。彼女はやっぱりへんな顔を一瞬見せたが、嫌とは言わずに俺の指示に従った。
「ところで、私は何という学校へ通っていたのかしら?」
ここまでいくと完全に変な人か記憶喪失であるが、背に腹は変えられない。
「はい。お嬢様は大正女学校へお通いになっておられます」
「そっか、ところであなたが抱えているのは私のカバンなの?」
「はい」
「私が持ちますから、渡しなさい」
「えっ、しかし」
カバンに何が入っているのか、それが気になる。ひったくるように彼女からカバンを受け取った。中身は筆入れにノート、教科書と言った類のものだ。本当に毛筆が入っていたのには時代を感じる。
ふみは有栖川の身体になった俺よりも、ちょっと背が低い。草履を履いてひょこひょこ歩くのがなんとも可愛らしい。
しばらくして校門の前に到着すると、ふみはお辞儀をして去っていった。どうやら彼女を、ただただ登校の時のかばん持ちに使っていたようだった。
正門の前に向き直る。ここまで来たものの、一歩を踏み出すのは少し勇気がいる。色取り取りの着物を来た女の子が、門の奥へ吸い込まれていく様子を眺めていると、ふと声をかけられた。
「有栖川さんご機嫌よう」
「ご、ご機嫌ようって、どんな挨拶だよ!」
思わず突っ込みを入れる。そこには唖然とした顔で、妙なものを見てしまったという表情の女学生が立っていた。だめだ、溶け込まなくては、と思い直して慌ててフォローする。
「あ、あはは。ご機嫌よう」
微笑みで誤魔化しながら、挨拶を返す。そうすると、女学生は小さく頭を下げて校門の中へ足早に入って行ってしまった。
これは、やってしまったのか?
しかし後悔をしても始まらない。意を決して、俺もその学校へ飛び込んでいくのであった。