第11話.アリスと勝負
第11話.アリスと勝負
「えっと、お姉様が参加されるなら、もちろんお供させて頂きます」
「あぁ、良かったわ」
タヌキの家でお茶会を開くというので、クマさんも誘ってみたら、やっぱり想像通りの答えが返ってきた。流石にキツネとタヌキの牙城で一人挟まれるのは嫌だったから、それは良かった。安心して微笑むと、彼女もとびきりの笑顔で応えてくれた。場所と時間。来週タヌキの家で、という約束を取り付ける。
「ところで、どうして急にお茶会のお約束をされたのですか?」
「えっと、話せば長くなるんだけれど……いや、長くもないかな」
要約すると、ふだんは主張の弱いタヌキがお茶会をしたいというのでキツネが張り切っちゃったのだ。それを端的に伝えると、彼女は少し下を向いて考えた後にぱっと顔を上げて言った。
「お姉様!そうでしたら、荒井さんがアッと驚くような贈物を用意しませんか」
「えっ、プレゼント?」
「はい!あの寡黙な荒井さんが好きだって、やりたいって仰ったのでしたら、本当に好きなんだと思うんです」
振り絞るような声で、お茶会が好きだと言ったタヌキを思い出す。
「まぁ、そうかも」
「ですから、荒井さんのお屋敷で今までで最高のお茶会にしましょう!木津宮さんも誘って、みんなでお誘いありがとうって贈物を渡しませんか?」
ウーン、贈り物か。たしかにタヌキは喜ぶかも。というかクマさん本当に良い子だな。クマというよりこの人懐っこさはイヌっぽい。
……
「贈り物?あら良いですわね。私も当然協力させて頂きますわ」
すぐにキツネにも声をかけると、二つ返事で色良い答えが返ってきた。
「クマさんにしては良い提案ですわ。でも……失礼ですけれど、あなた贈り物を用意するのにお財布の中身は足りますの?」
「えっ、お金?」
「そうですわ、贈り物を購入なさるんでしょう?」
クマさんは少し考えてから、口を開いた。
「あの。そんなにお金をかけなくても、何か一緒になって手作りしてみるのはどうでしょうか」
「手作りぃ?あなた、本当に……はぁ。手縫いの巾着袋でも用意するつもりなのかしら?」
何やら雲行きが怪しくなってきた。俺の愛想笑いも引き攣ってくる。クマさんの顔にも影が落ちる。
「えっと」
「あなたは毎日同じお召し物ですから、わからないかもしれませんけど。私や荒井さんや、有栖川さんのような名前の通った家では、小物一つからでもその格というのが見られてしまいます」
見下すような目で、キツネはクマさんを頭から足の先まで見る。確かにキツネの言う通り、クマさんは毎日殆ど同じ服装だった。
「上から下まで、一流の物を身につけていないと恥ずかしいの。へたな巾着袋一つでも持たされてみなさい、荒井さんが可哀想ですわ」
「……」
キツネに捲し立てられて、クマさんが涙目になっている。なんてひどい事を言うのかと呆気に取られていたが、彼女の言いようはどうかしてる。クマさんとキツネの間に立つようにして言い返す。
「おい、キツネ。良くないぞ!」
「っき!?本当のことをお伝えしたまでですわ!有栖川さんだって、かんざし一つ取っても見事な意匠のものを毎日変えていらっしゃるでしょう」
「私は別に、こんなのふみが勝手に……」
「そうですわ、家の者が気を回すのが普通です。でもクマさんの普通はそうなっていないようでしたから、知らないのかと思ってお教えしたまでです」
「そんな、余計なお世話だろう!」
思わず声を荒げる。キツネもヒートアップしてきたのか引き下がる様子がない。
「……やめて、お姉様やめて下さい。喧嘩はいけません」
涙目のまま、クマさんが仲裁に入った。俺とキツネは「ふん」と鼻息一つついて離れる。
クマさんはやめろと言ったが、どうしても気が済まない俺は自分の首を絞める事になるのに、こう言ってしまった。
「ではこうしましょう。私とクマさんで何か手作りの贈り物を用意します。キツネさんはどこででも贈り物にふさわしいものを買って来たら良い。それで、どちらがよりタヌキさんが喜ぶのか勝負しましょう!」
「勝負……望むところですわ!」
売り言葉に買い言葉。
こうして、不毛なタヌキのお茶会プレゼント対決が始まったのだった。




