第10話.アリスとお茶会
第10話.アリスとお茶会
「有栖川さん、ご機嫌よう」
「ああ、ご機嫌よう。木津宮さん」
登校時に校門の前でばったり出会ったキツネに対して俺は挨拶を返す。「ご機嫌よう」という謎文化も板についてきた。
すると、ぴたりとキツネの動きが止まる。
「あ、ご機嫌よう狐さん」
慌てて呼び方を正すと、キツネは笑顔を取り戻した。ついつい、ふりがなと漢字を取り違えてしまった。あれでいてキツネと呼ぶと拗ねるのだから困ったものだ。
「……」
ぺこりとキツネ後ろに隠れたタヌキが頭を下げた。
「荒井さんもご機嫌よう」
「……」
ぺこり。
荒井にも挨拶をするが、黙って再び頭を下げただけだった。彼女はいつもキツネさんの後ろについているが、殆ど喋らない。
だからといって機嫌が悪いわけでもなく、微笑む時もある。というか困った顔をしている時以外は、大体ゆるく微笑んでいる。
「そういえば、荒井さんっていつも木津宮さんと一緒なんですの?」
「……あ、あの」
何か言いかけて、タヌキは黙って下を向いた。それを見てキツネが言う。
「そうですわ。と言っていますの」
「通訳か!」
思わず突っ込むと、タヌキはキツネの後ろに隠れてしまった。しまったな、ついつい粗暴な言葉を使ってしまう。
「荒井さんは内気ですの。女学校に来る前は、殆どお家の外へ出なかったそうですから」
「へぇ」
「彼女も名家の御生まれですわ。木津宮家とは比べられませんけど」
そういえば、お嬢様学校だったよな。同級の人間が特徴的すぎて忘れるところだった。この謎のタヌキに少し興味が湧いてきた俺は、質問をしてみることにした。
「荒井さんって、どんなことに興味があるのかしら?」
「……」
やっぱり答えない。困ったような顔で、ちょっと笑っているだけだ。面白くなってきたのか、キツネも質問を投げかける。
「ほら。好きな事とか、やってみたい事とか、ありませんの?」
「……」
やっぱり答えない。
二人して答えない女の子に質問攻めというのは、なんだかいじめているようで心苦しくなってきた。
もうやめよう。そう思った時、タヌキの口が開いた。
「あ……あの。お、お茶会」
「へ?」
「お、お茶会が好きです」
振り絞るような声でタヌキはそう言ったあと、こくりと頷いた。
「お茶会?」
聞き返すと、彼女はもう一度大きく頷いた。なるほど、お茶会ね。お茶会!?千利休か?
「茶道ですの?」
タヌキはふるふる、と首を横に振る。
「お紅茶?」
こくりと、一つ頷いた。ああ、貴族的なやつかー!ここで来たかお茶会。
「面白そうですわね。やりましょう、お茶会!あの貧乏……あ、くまさんもお呼びして」
キツネがいつになく大きな声で、胸を張ってそう宣言する。タヌキの顔がぱっと明るくなった。
二人の目がこちらを見る。嫌だなぁ、なんだか女子会みたいで。絶対俺は馴染めないだろう。しかし、やらぬとは言い出せぬ空気感。
「や、やりましょうか、お茶会」
タヌキをつついてヘビが出たか、それとも!?




