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プロローグ

―――リーン…―――

       ――……ゴーン…―――



 2人を祝福する教会の鐘が、響き渡る。

白く荘厳な王城を頂きに美しい城下町が広がるこの町に、2人の門出を町をあげて祝っているかの如く鳴り響く。

否、実際に町をあげて祝っているようだ。


 城下町の住人達は皆、鐘の音が聞こえると作業の手を止め、青い空にそびえ立つ大聖堂を見上げる。

あるものは隣人の肩を抱き、あるものは日中だと云うのに揚々と酒をあおる。その表情は一様に笑顔だ。



「あんた!その酒は今夜の祝宴用だよ!」


店の前で掃除をしていたおかみが叫ぶが、主人は気にもとめず酒を飲み続ける。



「うるせぇな。こんなめでてぇ日はねぇんだ。これが飲まずにいられっか」


幸せを噛みしめる様な笑顔で手酌する主人に、おかみもしかたないとばかりに苦笑いしながら周りを見渡す。

どうやら今日は町の機能が働かないようだ。人々は皆、嬉しそうに手を取り合い、同じ方向に眼差しを向けている。


教会を見上げる為に家や店から人が出ている為、街道は人で溢れ、まともに通行する事も出来ない。それらを注意する立場である筈の騎士達ですら、胸に手を当て、立ち止まって喜びを噛み締めている。

おかみはこりゃ駄目だと苦笑いを隠そうともせず、覚悟を決めた。



「しょうがないね!祝宴用の酒を持って来な!みんな祝いたくてしょうがないみたいだ。なら、真っ昼間からでも商売を始める事にしようじゃないか」


おかみの目論見通り、声を聞いた住人達が我も我もと酒を求める。


 あちらこちらで祝杯の声が挙がり、一層騒がしくなって来た頃、教会を大きな光が包み込んだ。

騒々しい声がやみ、茫然と佇む住人達は、神々しい光が4筋に分かれ、教会に吸い込まれて行く光景に思わず息を呑む。

この町ばかりではない。これではまるで、この世界が2人を祝福している様だ、と。







―――――――――――――――――


―――――――――――――――


―――――――――――――


―――――――――――


―――――――――


―――――――



 話はこの奇跡の様な光景から5年程遡る。

世界からも祝福された2人がまだ、婚約もしていなかった時の話だ。



「だ、だ、だ、大っ大精霊様!」


森とも書庫ともとれる不思議な空間に、1柱の精霊が飛び込んで来た。


「なんじゃぁ、騒がしい」


大精霊と呼ばれたものは、のんびりと胡乱な目で精霊を見つめるが、切羽詰まった様子の精霊は止まらない。



「い、愛し子の2家の子等が正式に婚約するかもしれねーって!みんな騒いでるよ!みんな祝いたくてしょうがないんだ!

今にも突撃してしまいそうな奴らを必死に抑えてるけど、限界も近いって!なんとかして!」


精霊の説明を聞いて、ふむ、と一考した元始の大精霊は他の大精霊達を集める事にした。





 呼び掛けるとすぐに方々から様々な形で現れる。あるものは怖い程美しい蒼をまとった馬のようだ。さらにあるものはヘビの如く長い身体を木の幹の様なものに巻きつけ、ボロをまとった霞のようで朧気な輪郭があるだけのものもいる。



「お呼びですか、元始の大精霊様」


先ほど大精霊と呼ばれていたものに対し、馬のようなものが語りかける。


「よく来たのぉ。これだけ集まるのは久々の事じゃ」


好々爺然とした眼差しで、大精霊達を見つめる大精霊は元始の大精霊と呼ばれるものだ。

神が始めに力を与え、そして他の大精霊達を生み出した始祖とも呼ばれるこの精霊は、男とも女とも見える美しい人の形をとっているが、その神々しさを隠せるわけもなく、畏怖を与える程の荘厳さを醸し出している。




「さて。みなも聞いておるであろう。

――――愛し子の系譜が合わさるぞ」



 

 この世界には稀に“精霊の愛し子”と呼ばれる人間が生まれる。この存在を前にすると、精霊達は愛さずにはいられない。種族・属性共に数多ある精霊が、どうしても愛してしまうのだ。


そうすると今度は力を貸さずにはいられない。愛し子側の事情も関係なしに力を貸す為に扱い切れない力で事故を起こしてしまう愛し子や、大きすぎる力がまだ成長しきっていない魂への負荷となり幼いまま帰らぬ人となってしまう愛し子もいた。


そういった悲しみをある程度解決出来るように、そして暴走しがちな未契約の精霊を抑えられるように。愛し子には複数の精霊を守護精霊としてあてがう事にしたのはいつの頃だったか。時には大精霊が守護につかねばならぬ程、精霊達が暴走してしまう愛し子もいた。




 そしてこの世界では魔法と呼ばれる力がある。守護精霊の属性に合わせた力を、人の手で行使出来るのだ。勿論、精霊との関係性や精霊自身が持つ力の大きさによって使える力は変わる。だからか、いつからか守護精霊の力は、行使する人の能力として力を測る事に用いられるのが当たり前となった。


だが愛し子が力を借りられるのは、守護についた精霊だけに留まらない。何せ全ての精霊が力を貸したくてしょうがないのだから。町や山、川や海など、様々な所に精霊達が住み着くこの国で、人の守護につかず自由に活動している精霊達の力をも借りる事が出来るのだ。守護精霊の力しか使えないもの達と比べると、行使できる力の差は比べるべくもない。



王族・貴族のみならず、市井民達にもすべからく守護精霊がつくこの世界においても、全ての精霊に愛される存在は異質だった。基本的に精霊は悪に染まった魂を好まない為、愛し子は殆どが善人だ。

だが、当たり前となった尺度で測る事が出来ぬ“愛し子”という存在を畏怖する人間は多い。



そんな“愛し子”、この体質は遺伝する。

過去に愛し子が生まれた家は、そこから代々“愛される”事が決定事項となり、“愛し子の系譜”と呼ばれる家となるのだ。


かつては複数あったこの系譜も、今や少なくなった。プラー・ティール・スワルズ王国にはニードルート家とシュッツグラー家の2つだけだ。

その2の家の者が婚姻するともなれば、精霊達は今以上に暴走してしまう事が容易に想像出来る。普段なら愛したい欲求を理性で抑える事の出来る上級精霊さえも暴走してしまえば、結果的に婚姻する2人へ向かう牙となるだろう。

・・・いや、それだけで済むまい。子供が産まれたらどうなる。また愛しい幼子を帰らぬ人とするのか。




元始の大精霊は、他の大精霊等と論じ合い、ある1つの結論に至った。



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