レイジの転生
神さまが引き起こした事故によって死亡した私は転生することになった。
小さな(体格の)女の子になりたいって要望を伝えたはずなのに、一寸法師なみに(サイズの)小さな人間に転生させられてしまった。
おかげで絶え間なく虫に襲われる人生になってしまった。
猫のマサムネという心強い仲間はできたけれど、危なくて仕方ない。
神さまに「転生をやり直してほしい」と交渉しているのに逆に言いくるめられそうになっていたところに、もう一人、幼馴染のレイジが転生してきた。
仲間が増えたところで危ないことに変わりない。
絶対に転生やり直してもらうんだから!
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俺はレイジ。
さっき死んだ…らしい。
警察官だった。
一応キャリア組だったが、出世街道のメインストレートからは外れていて、ある署の副署長をやっていた。
先日、うちの署の管内で女子児童が死亡した。
父親による虐待が疑いありとして、相談があり、児童相談所へ取り次いだ事案の少女だった。
手続き上の落ち度はなかったが、なんとか出来たかもしれないという気持ちは当然ある。
通常、事件化してから、被害者のこと知るの普通だが、今回の場合は違う。救えたかもしれないんだという気持ちがどうしても拭えない。
少女と話をした署員の落ち込み様は見ていられなかった。
もう1人心配なのがいた。
幼馴染みの結衣だ。本来は違う部署だが、応援で来ていた時にこの事案を担当していた。アイツも落ち込んでいるんじゃないだろうか?と心配していた。
自宅への帰り道、子供のころ通っていた剣道場の前を通ると、塀の上の猫に愚痴を聞いてもらっているデカい女がいた。
あんなのこの世に1人しかいない。結衣だ。
結衣に声をかけようかどうしようかと思っていたら、車の衝突音がして、死んだようだった。
結衣は一足先に異世界に転生していった。
猫のマサムネは結衣の後を追ったらしい。
次は俺の番、結衣と同じ担当。
結衣がどうしたのか聞いたが、それは答えてもらえなかった。
いくつかやりとりをして、願いは「結衣と一緒に冒険をして、助けになりたい」とした。
《わかりました。せっかくなのでもう少し細かい要望もお聞きしましょう》
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《ユイさん、ちょっと、なにしてんスか?》
え?
《念話なんスから、聞き耳立てたって無駄っス》
いやぁ。やっぱ気になってさ。
《そっちで虫と戦っててくれればいいっス。蜂でも呼んどきゃいいっスか》
やっぱり、あんたが喚んでたのかっ!
《そんなことより、目障りなんで向こう行っててください》
『そんなこと』じゃないでしょう? やっぱりコイツ物騒だなぁ。
《とにかく向こう行っててください》
しぶしぶレイジ達から離れた。
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《レイジさん、今回の事故は、結構な数の方が亡くなってるんスけど、それでも、転生先の世界はいくつもあるんで、普通はこんな至近距離に転生されたりしないんです》
お、おう。
《レイジさんは亡くなる直前に、マサムネさんと遊んでる結衣さんを見つけたんスね?》
ああ。
《ユイさんが先に転生していくところも見たんスね?》
ああ。
《それで、レイジさんの担当がユイさんと同じだったので、ユイさんと一緒に冒険したいと言ったんスね?》
ああ
《なるほど。レイジさんの要望でユイさんを縛ることは出来ないんっスよ。で、転生を担当した神によると、一緒に冒険出来そうな設定にはするので、後は自分で頑張ってとのことっス》
そうか。
《そういうわけで、一緒に冒険できるように、レイジさんもユイさんと同じ一寸法師サイズになって、ユイさんの近くに転生されたっス》
なんで一寸法師サイズなんだ?
結衣はどういう要望をしたんだ?
《次っス。お互いに背中を任せられる『頼れる相棒的なモノ』を希望してたようっスけど、レイジさんには剣の才能が全く無いので、才能のある回復と補助の魔法使いにしたそうっス》
「!」
《あと武器は、薙刀、槍、戟、矛、棒などの長柄武器なら才能がそこそこあるそうなんで、魔法を使う媒介道具と武器を兼用して、薙刀を用意したそうっス。ユイさんの武器と同じように、召喚が出来るっス》
「かぐや姫の格好なのはなんで?」
《レイジさんの願望じゃないんっスか?》
「そんなわけあるか」
「あ、違うんスか。えーっと…あ、あった。長い髪と巫女の着物は回復魔法と補助魔法の増幅効果があるそうです」
「そっか。でも動きづらいんだよな。着ていればいいんだよな?」
髪を束ねてからつむじの上で団子にし、着物を襷掛けをした。
「ところでユイはなんで一寸法師になりたかったんだ?」
《それはユイさんから聞いて欲しいっス。戻りるっスか?》
「ああ」
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「話終わったの?」
「ああ、聞いていいか?」
「なに?」
「ユイはなんで一寸法師になりたかったんだ?」
お、そこに辿り着いたか
「違うよ。小さくなりたいってお願いしたんだよ。小柄な体型の女の子って意味でね」
私はレイジにこれまでの一部始終を話した。
神さまも所々補足を入れたりしてくれた。
レイジも自分の転生について話した。
「はっはははは。実にユイらしいわっ。で、その失敗に引きずられて俺まで小さくなったと。ははははっ」
いい笑顔してんじゃないよ。
こっちは困ってるんだぞ。
「そっか。でも聞く限り要求通りに実現してるし、配慮も完璧。やり直しは難しいんじゃないのか?」
《鋭い意見っスね》
「でもそのせいでレイジも小さくなったんだよ。困るでしょ?」
「俺は納得したよ。だって俺のいい加減な要求に対してこれ以上はないかなって対応だろ? 何より才能を教えてもらったのは大きい」
「でも、死ぬよ?」
「いいよ。俺は気に入った」
「変身の内容も謎のままだよ?」
「いいよ。楽しみじゃん。神さま、俺これでいいです」
あああ…ああやって、すぐに男気見せるんだよね。
《レイジさん、検収をいただけるということっスか》
「はい。ありがとうございました」
《こちらこそっス。では良い人生を送れるよう祈るっス》
レイジは検収した。
検収の神さまとの念話も切れたようだ。
なによコレ? 検収してないのわたしだけ?
まるでゴネてるみたいじゃん。
「ユイは検収しないのか?」
何かをやり切ったような顔で聞いてきた。
昔からコイツはこういうところがある。
なにも終わってないよ。今から苦労が始まるんだよ。
どうせあんたこの後泣くハメになるんだよ。
「出来るわけないでしょ? レイジこそよく検収したね。すぐに後悔するよ」
「そんなわけないだろ」
「いーや。絶対後悔するから」
虫に殺されかけてみればわかるよ。
どれだけ厳しいか。
「しないよ」
今はなにを言っても無駄だね。
「ところでユイお前、一寸法師なんだろ?」
「違うって。サイズが一寸法師と同じなだけ」
あれーそうなんだーみたいな顔してる。ホントにわかってんのかな
「でも、打ち出の小槌をゲットしに鬼退治に行くんだろ? 鬼はどこだ?」
「鬼がどこかは知らない」
「情報収集基本だろう。なんでも知ってそうなやつがいるんだ。聞いとけよ。教えてくれないと検収しないとか言って神さまに教えてもらえばいいだろ」
《ろくでもないこと言いますね》
あ、聞いてたの? アイツは腹黒いよ。
「ねぇ。本当のところ、打ち出の小槌はあるの?」
《多分ありますよ。さっきも言いましたが、ここは一寸法師氏がいた世界ですから》
「まじか。ゲット出来れば解決だね。打ち出の小槌を探しに行こうかな」
《おお、それでは方針が決まったところで検収をくださいっス》
「いやです。打出の小槌が手に入ったら考えるよ。とりあえず場所教えて」
《場所教えたら、検収してくれるっスか?》
いや。だから、手に入ったらね
《…あ、蜂が何匹かそっちに来るっス。気をつけてくださいっス》