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小さくて可愛い女の子に転生させてください!!



虹色に輝く鷹が海上の空を滑っていく。

その翼は切り裂く空気すらも虹色に煌めかせている。

鷹は港の上を一度旋回してから山の手へと飛んでいく。


魂は巡る。


魂は死を経験するたびに、世界を渡り、新たな生命として誕生し、天寿を全うし、再び死を経験する。


その魂がどんな人生を歩み、どんな死を迎えたのかによって、次に生まれる世界と生命が決まる。

決めるのは転生の神たち。


魂は前世での記憶と能力を封印され、新たな生命に宿り、新たな世界の一員となる。


もちろん、なにごとにも例外はある。


・罪深き魂は、これまでの全ての記憶を思い出して地獄に転生し、永い贖罪の人生ののちに、新たな世界で虫として転生する。


・ごく稀に、慈愛に満ちた魂は記憶を持ったまま神界に転生し、世界の管理をする神の一員となる。


・神が必要と判断した場合、魂と対話して要望をかなえる形で記憶を持ったまま転生させることもある。


虹色の鷹は山の手の住宅街の上に差し掛かると、大きく旋回しながら高度を下げていく。


鷹は住宅街を眺めながら飛んでいたが、日が傾いてまぶしくなってきた西日を嫌って旋回し、その翼が西日を跳ね返した。


跳ね返された西日は、その先にあるマンションのベランダにいた中年男の目を眩ませ、男は持っていたプランターを落とした。


男の足元にいた猫が、驚きの鳴き声をあげてベランダのフェンスに飛び乗り、改めて抗議の声を上げた。


その抗議の鳴き声に、近くの電線にいたムクドリが慌てて飛び立ち、それにつられて、近くで羽を休めていたムクドリが次々に飛び立ち、大きな群れとなった。


プランターを落とした男は群れを目で追った。


ムクドリの群れは、何度かダイナミックな旋回をし、近くで夕焼けの街を撮影中だったドローンを飲み込んで、墜落させてしまった。


墜落したドローンは走行中のトラックのフロントガラスに直撃した。慌てたドライバーは急ブレーキをかけながら僅かではあるが右にハンドルを切ってしまった。

僅かなきっかけはトラックをスピンさせるには十分だった。


トラックによって、車が次々と弾き飛ばされて、その先で更に新たな事故を起こした。その事故を回避しようとした別の車が更に事故を起こした。


プランターを落っことした男は、ピタゴラ◯イッチを見ているかのような展開に頭がついていかず、あんぐりと口をあけて、固まってしまった。

『これは俺のせいかなのか?』というもっともな疑問と、流れる冷や汗に、彼が答えを持ち合わせているはずもなかった。


そして、彼以上に冷や汗をかいて、明らかに責任を感じている者が一羽、否、一柱。

虹色の鷹だ。

この世界を管理する神の一柱の変化である。


つまり、この事故は起きるはずのなかったものであり、その原因が神であることから、先ほど説明した例外の一つということになる。


------------------------------------------


《転生するにあたってご要望はありますか》


「転生の神78」を名乗るイケメンは、眩しいほどの笑顔で彼女にそう言った。


このイケメンが嘘を言っていなければ、これから彼女は今まで生きて来た世界とは別の世界へ転生する。


彼女の名前は結衣。

女、29歳、独身、警察官。

身長181.8センチ、体重は秘密だそうだ。

身長から計算すれば標準体重の範囲内なんだそうだが言いたくないらしい。


黒髪のボブカットで小顔だが少し丸顔で美形。縦横に大きな瞳と自然に上がった口角が愛らしい。

巨乳だが引っ込むべきところは引っ込んだ均整のとれた体型。

本人のコンプレックスでもある長身は、靴を履けば低めのヒールでも185を超えてしまう。

アメリカあたりに行けばずいぶんモテたことだろう。

もう10センチ低ければ日本でもモテモテだったかもしれない。


父と兄の3人暮らし。1人親の家庭にありがちだが、兄も彼女も小さい時からドラマやアニメが好き。


彼女は特に正義の味方に傾倒していった。

正義の味方にときめいて憧れて、剣道を習って、全国大会で入賞して、気づいたら警察官になってた。


その美しい容姿と恵まれた体格、そして格闘能力の高さから、要人警護の任務に着くことになったのは必然だった。

女性が必要な任務や、警護対象が高身長の外国人の場合には真っ先に駆り出され、メディアへの露出も多かった。そのため、彼女に憧れる女性警官は大勢いた。


その一方、男性警官の方はというと、訓練も任務も男性の中に混じって行うのが常なのだが、男性陣と遜色ない体格と技術の高さから男性警官を圧倒することも度々あり、ライバル視されたり、敬遠されたりすることがほとんどであったため、そっち方面では縁遠かった。


そんな彼女だが、本当は刑事になりたかった。

捜査をして、犯人逮捕をし、被害者の心を救いたかった。

出来ればカーチェイスや、往生際の悪い犯人を格闘の末に逮捕したり、凶器を持った凶悪犯と対峙したかった。

被害者を助けたかった。

そういう夢はずっと持っていた。おそらく幼少期から見てきた作品の影響であろう。


同期の女性警官数名と呑んだ時にそんなことを漏らすと、

「他の警官には絶対に言うな」

と叱られた。


ちょうど警護任務スケジュールの空きが出来ていた彼女に、女性警官の産休の調整の余波が及んで、少しの間、所轄の生活安全課に応援に行くことになった。


警護任務ばかりだった彼女は勝手がわからないものの、色々な相談や、事案に触れるのは新鮮で楽しいものであった。


しかし、背が高くて笑顔の下手くそな彼女が対応すると、大抵の人は萎縮してしまったり、子供の場合は泣いてしまったりと、ろくに受付業務もできていなかった。


美人だからって気取ってる。

態度が高圧的だ。

などのクレームも少数ながら届いた。


同僚の小柄で可愛らしい女性警官がフォローしてくれて問題化はしなかったが、結衣は申し訳なさでいっぱいという様子だった。

彼女は結衣とは学生時代からの付き合いで剣道も強い。

小柄な体で動きが速く、結衣とほぼ互角に戦う。

お互いにお互いが憧れである。


もう一つ難点だったのは、上司が、久しぶりに再会した幼馴染みだったことだ。

幼馴染みは上級国家公務員試験をパスして幹部候補としての道を歩んでいた。


そんな中、人手が不足したタイミングで発生した事案を彼女は担当することになる。

父親による女子児童への虐待の恐れがあると思われる事案である。


彼女は張り切った。

近所の主婦からの相談であったため、先輩と一緒に訪問して話を聞いた。大変心配になる話だった。

その足で少女宅へ行った。


父親は自宅にいたが、訪問した際は家の中は穏やかなものだった。

父親は、虐待について疑われていることを察したように、もっともらしい理由を並べ立てて、警察官を帰らせようとした。

家を覗き込むと、少女が奥の扉から半身だけ出してこちらの様子を伺っていた。

結衣の目には、女子児童は明らかに父親に怯えていたように見えたし、児童の体は細く小さかった。

何より助けを求められている気がした。


同行した先輩に、これ以上は手続きが必要だから署に戻ろうと促され、後ろ髪を猛烈に引かれながら署に戻って手続きを進めた。


しかし事態は恐ろしいほど前に進まなかった。

聴取するにしろ、身体を確認するにしろ、とにかく進まない。書類と申請と承認とまたその繰り返し、手続きアンド手続きである。


要人警護任務で、『最善尽くす為に、』かなりの裁量を与えられて任務に従事していた彼女にとって、いちいち手続きをしないと進まないのはじれったかったし、こんなの間違っていると思った。


あまりに手続きが進まないので、幼馴染みの上司に直談判したら、心底呆れられた。

その日丸一日、承認手続きの助手という名目で、膨大な処理待ちの申請書類を教材に、こんこんと説教された。


警護任務では、任務内に限定して予め手続きが済んでいるから、裁量が与えられていただけだということ。


個別の事案ではそれぞれ手続きは必要なこと。そうしなければ権限の与え過ぎになってしまうこと。


膨大な書類が示すように、多くの被害者かもしれない人達がいること。

どの人たちも大変な状況であろうこと。


警察官の行為は強制力を持ってしまうので、間違いは許されないこと。

警察権力の暴走は信頼を失うことであり、信頼を失っては、少数の警察官が治安を維持することなど出来ないということ。


そしてその上で最善を尽くさなければならないこと。


特定の事案だけを根拠なく優先は出来ないこと。


どれも結衣の心にズシンときた。

結局、結衣はこの事案をほとんど前に進めることが出来ずに、応援期間を終え、警護任務に戻った。


それから1か月が過ぎた今日、結衣は勤務が終わったあと、あの少女が死亡したことをニュースで知った。


結衣は気がつくと子供の頃通っていた剣道場の前にいた。

これまでも、つらいことや腹立つことがあると、ここに来ていた。

小さな子どもたちが、目一杯大きな声を出して剣道の稽古しているのを聞くだけで、少し元気になるのだ。


(あの頃は楽しかったなぁ。アイツとたくさん稽古したなぁ)


塀の上には結衣の師範の飼い猫たちがいた。

結衣は親猫のマサムネのことを赤ん坊の頃から知っている。

マサムネは雄のくせに子猫を引き連れている。母猫はここにいない。


結衣はマサムネに愚痴を聞いてもらった。

マサムネはいつもわかってるような仕草をするので、ついつい話してしまうのだ。

一通り話して、子猫たちをモフモフしてたら、通りから立て続けに大きな音がした。


何台もの車が連鎖的に衝突して、そのうちの一台の車が飛んできて…結衣は死んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


《転生するにあたってご要望はありますか》


(要望ねぇ。てかさ、本当に私は死んだの? あっけなさ過ぎない?)


(夢かなぁ? 夢なら早く醒めてくれ。だめか)


(正義の味方に私はなりたかったんだけどな、次の人生ではなれるかなぁ。まあ、生き方の問題は生まれてからの心がけか)


(何お願いすればいいんだ? 能力? …そうだ!)


「私…小さくなりたいです…小さくて、可愛らしくて、速い女の子になりたいです」


《小さいというのはどれくらいですか?》


(どれくらい? ずっとXLとかLとかばっかりだったからな、XSとかになってみたいよね)


「一番小さいサイズでお願いします」


《わかりました。一番小さいサイズですね。あと、動きは最も速くと。...年齢はどうしましょう。今のままにします? 赤ちゃんもオススメです》


「少し若くしてほしいです。二十歳くらい」


《20歳若返らせる。っと》


「!…違います。20歳のころの体にして欲しいです」


《なるほど、わかりました。他に希望はありますか? 新しい人生で是非やりたいこととかありますか?》


(正義の味方…?)


《はい?》


「私がこれから行くところって、どんなところなんです? モンスターとかがいる世界なんですか?」


《モンスターはいますよ。ドラゴンとかも現存しています。今までいたところのように人間が支配する世界ではないです》


「え? じゃあ、自分より大きな相手と戦える力が必要ですね」


《わかりました。色々と細かい調整が必要ですが、ご要望が実現出来るように私が調整しましょうか》


「はい、お任せしていいですか?」


《はい、大丈夫です。全てお任せください》


私は今日あったことに疲れすぎてしまって、あとは転生の神78を名乗るイケメンに全て託した。


(そういえば、アイツに会っておきたかったかな。まあ、もう、無理か。)


結構長い間、イケメンはブツブツ独り言を言いながら設定してた。

そんなに難しい設定なんだろうか。

しばらくすると、イケメンが設定が終わったと言ってきた。


いよいよ、転生だ。

仕事の出来そうなイケメンが熱心に設定してくれたんだ。問題無いだろう。

それに、転生後に確認して要求通りか一緒に確認して「検収サイン」することで転生完了なんだそうだから安心だ。

こんなシステマチックなんてびっくりだ。


全身を光が包んで目を開けていられなくなって、体が消えていくような感覚がした。

光の向こうにイケメンがいた。


イケメンの爽やかな笑顔の右の口角だけニヤリと上がったような気がした。

ものすごく嫌な予感がする。

自称『新世界の神』みたいな悪そうな顔してた。


刑事の経験は無いが、刑事の勘が警報鳴らしていた。


(ねぇ! 私になにをした? これ止めなさい!)


抗議の声は音にもならなかった。

もちろん、転生が止まる事もなかった。


------------------------------------------


(風の音が聞こえる)


ユイが目を開けると、緑の中で横たわっているように感じた。


(おお、無事に転生したらしい)


結衣は体を起こしながら、感覚を確かめた。

びっくりするぐらい清々しい気分だった。


(「転生の神…番」とかいう美女に細いことは適当にって、お願いしちゃったけど大丈夫だったかな?)


(何番だっけ?あの美女…忘れたよ)


ひとりごちながら、立ち上がった。


(転生後に『検収サイン』もらうとか言ってたから、ここに来るんだよね?)


彼女の服装は死んだ時と違って、剣道の道着。藍染めの綿袴と道着。彼女には見慣れた格好である。


(きっとコレ、私の道着だ。藍の抜け具合とか。間違いない)


生前の髪型はボブカットだったが、彼女が若いころのように長い髪になっていた。

ただ、色は赤紫色だった。


(紫?いや赤? どうなんだろう? この世界では普通なんだろうか?)


髪型はポニーテールである。白い細めのリボンで結んであった。


ユイは重要なことに気づいた。


(って、あれ? ねえ、私の手足、いつもの見慣れた長い手足のまんまだ。私、小さくなってないかも。ちょっと〜。どーいうこと?)


絶対文句言ってやると息巻いていると、空から銀色の鳥が降りてきて、近くに岩に止まった。

カラスのように見える。

声がユイの頭に直接響いた。


《もしもし? ユイさん、聞こえてまスか?》


結衣には目の前の銀色のカラスが喋っているように感じたが、耳に響いてないものが聞こえることに不思議な感じを覚えながら、カラスの目を見て応答した。


「あ、神さま? ちょうどよかった」


《大丈夫スか? 検収の神10103っス。ユイさんの検収作業を担当しまスね》


(え? 違う人なの?)


《すいません、転生の時とは違うス。そういうもんス。転生の神12345に要望した通りか、一緒に確認するっス。

もし、こっちのミスとかで要望通りになっていない時は、出来る範囲で調整しまスが、調整可能な範囲を超えていた場合は転生からやり直しになるっス。ここまでいいっスか?》


「ああ、じゃあさっそくだけど、やり直しを要求します」

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