五・おくりもの
五・おくりもの
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十二月、クリスマスの日に、お父さんは東京の家に帰ってきました。
鮎子へのクリスマスプレゼントは、明るい黄色のマフラーでした。
肌触りがとても良く、まるで狐の毛に包まれているような気分になり、シンシのことを思い出しました。
「米も貰ってきたぞ。あの町で収穫した新米だ」
お父さんはそう言って、重たそうに米袋を持ってきました。
「お米は助かるね。新米なんて嬉しいな」
お母さんが早速袋をあけたので、鮎子も一緒に覗いてみました。
そこには、まるで宝石のような、艶々白いお米の粒がたくさん入っていました。
あの稲穂の海で収穫されたお米です。
稲荷神に守られて、狐に守られて、農家の人々が汗を流し、作り上げたお米です。
これは、お米を食べる人々へ、稲荷神からの、狐からの、素敵なおくりものなのだと、鮎子はしみじみ思いました。
来年も家族揃って、稲荷神社に初詣に行きます。
そこで、きっとお父さんとお母さんは、会社の繁盛をお願いするでしょう。
でも鮎子は、稲荷神に感謝の気持ちを伝えようと思いました。
『感謝をしてくれる人がいれば、神さまは頑張れるんだ』
シンシの言葉が、鮎子の胸には深く残ったのです。
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シンシと名乗ったあの少年が、神の使い「神使」だったこと。
そして、稲荷神の名前が「ウカノ ミタマノ カミ」だと知ったのは、鮎子がもっと大人になってからでした。
鮎子の部屋には、あの日、シンシから貰った稲穂が一本、今も大事に飾られています。
その稲穂は何年も経った今でも、綺麗な黄金色をしているのでした。
【おわり】
本作品では、稲荷神社は日本で最も数の多い神社と記載しました。
これは著者所蔵の「神社のいろは(監修・神社本庁)」二〇一三年発行を参考にしております。神社の数は、都度変動します。
【参考文献】
『神社検定公式テキスト 神社のいろは』 監修・神社本庁 扶桑社
『神さまに選ばれた動物図鑑』 神宮館
『日本動物民族誌』 中村禎里 海鳴社