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02 シェルターの確保

 時計が無いので分からないが、三十分ほど休んで英気を養ってから鋼の意思で立ち上がり、住居作りを開始した。

 本格的な建物を作るつもりはない。太陽の位置から考えて、今は正午ぐらいだろう。日が落ちて手元が見えなくなるまでの5、6時間だろうか、それぐらいで出来上がる程度の簡単な住居を作る。

 機能は最低限。木の枝と葉で作る片屋根の住居が良いだろう。

 建築手順はそう難しくない。


①横木をかけるのにちょうど良い立ち木を二本見つける

②横木をかける

③横木の両端に斜めに木を立てかける

④斜めの木にツタや細く裂いた若木の皮を使い横木を縛り付ける

⑤横木に葉をかけていく


挿絵(By みてみん)


 これで雨と直射日光を防ぐ簡易住居が出来上がる。風も屋根方向からのものは防いでくれる。

 屋根を地面と平行にすると、雨が降ってきた時に小さな隙間から水が漏れ真下にしたたり落ちてくる。しかし屋根を斜めにしておけば、小さな隙間があっても水は傾斜に沿って住居の外に落ちてくれる。天井は地面と平行の方が見慣れていて安心感があり、広範囲を雨から守ってくれるように思えるが、斜めにした方が結果的に良いのだ。頑丈で隙間のない屋根を作り、壁も立てられるなら屋根を斜めにする必要はないが、もちろんそんな材料も時間もない。


 いざ住居を作ろうという時になって、急に「道具がない」という当たり前すぎる事実にぶち当たった。

 沢から五十歩ほど離れた位置に良い感じに横木を渡せそうな立ち木を見つけたのだが、横木が見つからない。横木は概ね真っすぐに伸びていて、最低でも二メートルの長さが欲しいが、そんな手頃な木は落ちていなかった。伐採する必要がある。

 横木は屋根の重量を支えるから、あまり細いと困る。指一本分の細枝を使うわけにはいかない。細枝を使って折れたら屋根が倒壊し、せっかく作った住居が台無しだ。

 しかし折れる心配の無い太さの木は落ちていないし、立ち木を折ろうと体重をかけて揺さ振ったり引っ張ったりしても折れない。

 折れない木を入手するためには、折れない木を折らなければならないのだ。


 折れない木を手に入れるためには道具が必要だ。斧がいい。ナイフでもいい。

 しかし、斧もナイフも無い。道具どころか服もない。未だに全裸なのだ。


 イライラしながら道具作りにとりかかる。いくらなんでも素手で木を伐採するのは無理だ。斧が欲しいという贅沢は言わない、ナイフでいい。木を切るための刃物が必要だ。

 幸いナイフ作りの材料はあった。沢にはいくらでも石が転がっている。石を割り、石のナイフを作ればいい。打製石器だ。石と石をぶつけて割り、鋭くなった部分を利用する。この石のナイフが手に入れば、二足歩行のサルから石器時代の原始人にランクアップできる。


 しかしイライラタイムは終わらない。なかなか鋭く割れた石が手に入らないのだ。

 砂が固まったような脆い石ばかりで、ほとんどは叩きつけると砕けてボロボロと崩れてしまう。たまに堅い石があっても、上手く割れてくれない。角が欠けるだけだったり、割れた角度が広すぎてナイフとして使い物にならなかったり。

 石を持ち上げて、割る、という簡単な作業も何十回も繰り返していると腕が疲れてくる。長時間あるいて足がガタガタなのに、腕まで疲労に襲われる。


 結局1時間かけて辛うじてナイフと呼べるかどうか、という程度のシロモノしか手に入らなかったが、品質を求めればキリがない。これで妥協する事にした。

 気が逸る。既に1時間のロスだ。夜までに住居はできるだろうか。


 木の材質にまでこだわっている余裕はない。触るとかぶれるかも知れないが、手頃な太さでまっすぐ伸びている、手首程度の太さの木を伐採にかかる。

 予想できていた事だが、ショボいナイフでは死ぬほど作業が遅かった。切って削っているというより、擦って抉っているといった感じだ。ノコギリさえあればノコギリさえあれば、という無い物ねだりで頭が一杯になる。

 マトモな刃物の入手は重要課題だと身に染みた。これから先、何をするにも刃物は必要になる。刃物の質が全ての作業効率に影響すると言っても過言ではないだろう。


 六本の木材を伐採するのに二時間もかかってしまった。この森はまっすぐ伸びる木が割と多く、木の選定に時間がかからなかったのは救いだ。どの木にも水晶質? の芯が通っていたのは興味深い。この世界で水晶が何かの重要な役割を持っているのは間違いなさそうだ。


 苦労した甲斐があり、イライラタイムは終わった。住居の骨組みの組み立ては二十分ほどで済んだ。簡単な造りだし、木材を固定するための紐は若木から剥いだ木の皮で事足りた。数種類の樹種から木の皮の採取をしてみたが、黒い樹皮で半透明の葉をつけている木の皮が特に剥ぎやすかった。しなやかさには欠けるが頑丈さは申し分ない。


 骨組みができたら、次は屋根ふきだ。森の木々は広葉樹ばかりだが、手の届く高さにはあまり葉が無い。地面から上を見上げ、特に大きな葉をたっぷりつけている枝を見定め、ナイフを口に咥えて木登りをして、切り落としていった。

 合計三十回ほど木登りを繰り返し、十分な量の枝葉を確保。横木に引っかけて屋根を作った。ただ引っかけるだけでは穴だらけなので枝を曲げてからませ、隙間を塞いでいく。

 その作業中に段々手元が暗くなっていき、気が付いたら夜になっていた。


 暗くてよく見えないが、まあ悪くない出来なのではないだろうか。明日に備えてさっさと寝よう。

 猛獣がいるかもしれない森の中で寝るのは恐ろしい。恐ろしいが、起きていても多分どうしようもない。寝込みをライオンに襲われても、真昼間に正面から堂々とライオンに襲われても、どの道死ぬ。

 幸運を祈って眠るしかない。運が良ければ屋根が猛獣の視界から俺の姿を隠してくれるだろう。


 屋根の下で横になり、申し訳程度に体に落ち葉をかけて目を閉じた直後は恐怖と緊張で目が冴えきりとても眠れそうもなかった。

 しかし疲れ切った体は正直で、すぐに眠気が押し寄せる。

 押し寄せて……地面の堅さとじわじわ染み込む冷気、動物の鳴き声が気になって眠れない。空腹を水で誤魔化そうと腹がたぷたぷになるまで飲んだせいで何度もトイレに起きる。

 眠いのに、眠れない。寝ようとしても眠れない。


 結局、朝日が昇るまでに眠れたのは一時間程度だった。


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