11-6 いつもどおりでいたかった放課後
「はー、疲れたー」
「ふふ、おつかれさま」
放課後、いつものように俺たちはオカルト研究部の部室でまったりした時間を過ごしていた。
「なんか今日はいつもより疲れた気がする」
「まだ一日終わりじゃないけどね」
「そういうこと言うな緑青」
「ぐふふふふ」
今日はバイトがあるとかで、洋子先輩はバイクの鍵とヘルメットを回収すると、すぐに下校していった。
これが普通の部活動であれば顧問の先生に休みの報告をしたり、後輩に今日の活動についての連絡をしたり、それ以外にも色々と細かい伝達事項なんかがあったりして面倒だったりもするのだろう。
だが、決まった活動などなにもないオカルト研究部では、そんなものはなにもない。
ときどきそれでいいのかしらなどと思うこともなくはないが、それでいいのだとしばらくしたら脳内会議で結論が出る。
「っていうか、俺たちも今日はとっとと帰るか。あんまり天気もよくないし」
「そうだね〜」
咲が窓から空模様を見ながら答えた。
そしてその隣では、緑青がスマホをいじっている。
「天気予報では大丈夫っぽい。まあ、絶対ではないけど」
「だろうな」
降水確率が30%でも80%でも、降るときは降るし、降らないときは降らない。
というかあの手のパーセンテージって、使われてる媒体によってまったく信用度が変わったりするのは不思議だよな。
場所によっては80%でも絶対成功しないとか思えちゃったり、はたまた別のところでは30%でもうまくいきそうとか思えちゃったり、数字以上の何かが人間には感じ取れたりするのかなあ……なんて、珍しく俺はオカルト研究部っぽいことを考えてみたり。
「黒柳悦郎っ!」
まったりとした時間は、唐突な呼び声によって破られた。
(とっとと帰ればよかったな)
そんなことを思いながら、俺は背中を向けていた部室の入り口の方へと身体を捻って視線を向けてみる。
すると思ったとおりの人物が、部室の扉を大きく開いて仁王立ちで立っていた。
「入るわよっ! 黒柳悦郎っ!」
きっちり俺たちが自分を認識したのを確認してから、ちゃんと宣言してそれから部室に入ってくる香染たまき。
傍若無人なのに礼儀正しいという、ある意味ヤツらしいわけのわからなさが、今日も発揮されていた。
「別にいいけど、俺たちもう帰るぞ」
「なんでよっ!」
「そりゃなあ」
「あはは〜」
香染以外は以心伝心。
俺の言葉に咲が笑い声で答える。
緑青にいたっては、すでに帰り支度を始めている。
「ちょ、ちょ、ちょ、待ちなさいよっ。せめて私の話を聞いてから帰りなさいよっ!」
「なんだよ。聞いてやるからとっとと話せよ。てかそっちの部活はもう終わったのか?」
「あ、そうか。アイドル部終わってたら、麗美さんも一緒に帰れるね」
無言で連絡を取り始める緑青。
ふと思ったんだが、香染のことをわが道を行くだとか唯我独尊だとかオンリーマイレールガンだとか散々言ってたけど、俺たちの方もよっぽどな気がする。
もっとも、それは香染相手に対してだが。
「まだ終わってないみたい」
麗美からメッセージが返ってきたのか、緑青がスマホを見ながらそう言ってきた。
「あれ、じゃあ香染さん。部活中なのにこっち来ちゃってよかったの?」
咲が首を傾げる。
それはもっともな疑問だ。
どうなんだ、という気持ちを込めながら香染の方を振り返り見る。
「だからっ、その話をしに来たんじゃないのよ。まったくもー」
暴走気味で手に負えないと思っていた香染だったが、どうやらそろそろ俺たちもその対処方法がわかってきたようだ。
もっとも逆に、向こうの方からしてみると、こちらの方が扱いづらいと思われ始めている可能性もなきにしもあらずではあったが。
まあ、部の査察問題も片付いたことだし、香染の扱いは雑でもいいよな。
あ、麗美に迷惑がかからない程度に。




