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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
十一日目
96/181

11-5 いつもどおりで終わらなかったお昼休み

 

 お昼を食べ終わり、残り少ないお昼休みの時間。

 俺たちは机の並びを元に戻し、午後の授業の準備……という名のまったりした時間を過ごしていた。

 そんなときだった。


「悦郎さん! 悦郎さん! 朝の続きです!」


 廊下から教室へと飛び込んできた小さな影。

 常磐美雪は興奮した様子で、朝は見かけなかった大量の資料を俺の机の上に勝手に広げていった。


「見て下さい! 見て下さい! これが今回発見されたカミノサウルスの全身図です!」

「へー」


 電車の中で話を聞いていただけでは、あまりピンと来ていなかったが、こうして図で示されるとその凄さがちょっとだけわかったような気がした。


「これ、全部見つかった骨で出来てるのか?」

「そうなんですそうなんです! 今までは足りない部分とかあって、近い種類の恐竜から想像してなんとか補ったりしてたんです! でも、今回は違うんです!」


 フンス! と鼻息荒く胸を張る常磐。

 嬉しいのはわかるが、なぜお前がドヤ顔をする。

 ちょっとツッコミたい気分にもなったが、周りからの生暖かい目を感じて俺は自重した。


 校内でもまあまあ有名な恐竜大好きガールの常磐。

 これは俺も聞いた話で直接確認したわけではないが、教室の彼女の席には、ほぼ人間サイズのヴェロキラプトルのぬいぐるみが置かれているらしい。

 授業中はロッカーの中に格納されるためにあまり問題視はされていなかったが、一部の厳しめな先生が注意したら逆にヴェロキラプトルのよさについて日が暮れるまで熱弁されたとか。

 正直、恐竜の何が常磐をここまで惹きつけるのかがよくわからない。

 まあ俺も男の子だし、恐竜自体は嫌いではない。

 嫌いではないが、ここまでハマるほどの魅力を感じているわけではない。

 というか、目の前にどハマリしてる人がいるために逆に冷静になってしまっているような気もする。


「あとですねあとですね! ここのところを見て欲しいんです! ここです!」


 図面の常磐が指差す部分を見る。


「わかりますか? わかりますか? 鼻骨の関節面に、平らな部分があるんです! ということは?」


 まるでクイズの答えを待つかのように、ワクワクとした目で常磐が俺を見る。

『ということは?』などと言われても、俺にはそのあとに続くべき言葉に思い当たるものがまったくない。

 俺は周囲に、助け舟を求める。

 だがそんな俺に返ってきたのは、微笑ましく俺たちを見守る咲や緑青、そして麗美や砂川の優しげな視線だけだった。


(なんでなん……)


 どういうわけか、常磐のことはみんながあんな風な目で見守ってしまうことが多い。

 もしかすると俺もまとわりつかれる対象でなければ、あんな感じで見守ったりしていたのだろうか。


「悦郎さん! 悦郎さん! どうですか? わかりましたか?」


 まるでワクワクが服を着ているかのようにキラキラとした瞳で、常磐が俺の答えを待っている。

 俺はどう答えたらいいのか、ほとんどストックのない恐竜知識をフル回転させた。

 だが、それの出番はなかった。


「トサカだとは限らないわ」

「え!?」

「ん?」


 クラス全員が、常磐を優しく見守っていると思っていたが違っていた。

 空気を読まない女こと、藤黄みのりが常磐に勝負を挑んでくる。


「確かに、これまで発掘された事例からすれば、その部分にはトサカが存在していた可能性は高い」

「それじゃあ!」

「ちょっと待ちなさい。最後まで私の話を聞いて」

「はあ……」


 まさに喧々諤々。

 俺にはこれっぽっちもわからないような新しい学説から古い学説。

 恐竜知識から古代生物学まで、なんでお前らはそんなことまで知っているんだという情報が、俺の頭越しに飛び交っていた。


「なるほどなるほど、そういう考え方もあるんですね! 勉強になります!」

「ふふん。なかなか素直じゃない。緑青の知り合いっぽいからどうかと思ったけど、どうやらあなたは違うらしいわね」


 昼休みの終わりが見えてきたころ、藤黄と常磐の論戦に終結の気配が漂い始めた。

 俺はやれやれと胸を撫で下ろす。

 しかし……。


「でもでもですね! 私はこう思うんです!」

「は?」


 発表されたばかりの論文からの抜粋だというコピーを示しながら、常磐がさらなる新説をぶっこんでいく。

 一瞬反発しそうになった藤黄だったが、とりあえずは常磐の話に耳を傾けてみることにしたようだった。


「ふむふむ。そうなると話は変わってくるわね」

「ですよね!」


 頭のいい連中のやりとりが、なぜか俺の机の周りで繰り広げられている。

 周囲に視線を泳がせると、さっきまでとはまた別の意味で俺たちは見守られていた。

 温かい視線ではなく、生暖かい視線で。

 っていうか緑青。

 ニヤニヤしてないで、この負けん気の強いお前の自称ライバルをとっとと引き取ってくれ。



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