11-3 だいたいいつもどおりな休み時間
いつものような休み時間。
そいつは唐突に現れた。
「近藤ー」
「うおっ」
思わずクラス全員が声の主の方を見てしまう。
教室から廊下へと通じる出入り口。
前と後ろにあるその後ろの方に、その人物はいた。
「でけえ……」
「声低い……」
すでに彼は、何度かうちのクラスを訪れたことがあった。
というか、学年ではまあまあの有名人でみんな知らないわけではなかった。
それでもその登場に、いまだにちょっとしたざわめきが起こるほど彼の存在感は異質なものがあった。
「どうした前田」
同じバスケ部の近藤が廊下へと出ていく。
彼の姿が廊下へと戻っていくと、思わず視線をやってしまっていた生徒たちも少しずつ興味を失い、元の状態へと戻っていった。
「大変だね、前田くん。好きで目立つわけじゃないだろうし」
「俺も人のこと言えないけど、ちょっとびっくりしちまった」
「大きな人ですね。近藤くんも大柄ですけど、頭ひとつ分くらい違いました」
「ああ。確か……197だっけか。学年一どころか、学校で一番でかいらしい」
「約2メートルですか。すごいです……」
自分がその背の高さになったときの状況を想像しているのか、麗美が2メートルほどの高さを見つめながら呆然としている。
「教室の入口とか、全部かがまないと入れないらしいよ」
「近藤でいっぱいいっぱいだもんな。あいつ190あるんだっけ」
「ギリギリなかったかも。今年伸びてたら超えてるかな」
「さすがバスケ部。いや、だからバスケ部入ったのか?」
そうこうしていると、近藤が教室に戻ってきた。
そして、自分のロッカーからジャージの入ったバッグを取り出しそれを持って再び廊下へと出ていく。
「ああ、ジャージの貸し借りか。確かにこの学年じゃ、前田に貸せるのは近藤くらいだな」
「それでもだいぶ裾の長さとか足りなさそうだけどね」
「ボリュームなら確実に近藤が勝ってるのにな」
「なんか俺の悪口言ってたか? 悦郎」
いつの間にか戻ってきた近藤が、俺の後ろからヘッドロックを掛けてきた。
「いやいやいやいや、なんも言ってねえって。てか首締まってるから。ギブギブギブ」
「ギブギブじゃねえよ。学年中の男子の恨みを喰らえ」
「わけわかんねーよ……くうっ」
「はいはい、そこまでね、近藤」
俺の首元に絡みついている近藤の腕を、緑青がポンポンと叩く。
その瞬間、俺を締め上げる近藤の腕に込められた力がフッと緩んだ。
「緑青さんに言われちゃしょうがないな。今日はこのくらいにしといてやるよ悦郎」
「ゴホッ、ゴホッ。なんだってんだいったい」
クラス一の巨漢である近藤が、クラス一のちみっこである緑青の言葉に従い俺の拘束を解いて去っていく。
っていうか、去り際にひとの頭をポンポンやるのは正直やめて欲しい。
そしてそれを見て『キャー』とか言っている窓側の女子。どっちが受けかとか言い出すのやめるように。
そんなことをしている間に、休み時間は過ぎていった。




