表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
十日目 調理実習
88/181

10-6 いつもとは違うひとりの放課後

 

 放課後。

 俺はいつものようにオカルト研究部に顔を出す予定だったが、突然の呼び出しでそちらはキャンセルすることになった。

 まあ、うちの部は自由参加だから出ても出なくてもどっちでもいい感じなんだけどな。

 俺ですら一度も顔を合わせたことのない男の先輩とかもいるし。

 洋子先輩によると、授業中に部室にくるとたまに会えるらしい。

 っていうか、そういう部室の使い方の方が生徒会にバレたらやばい気がする。

 まあ、聞かなかったことにしておくか。


 それはともかくとして、俺は咲たちよりひと足早く下校して、いつもとは違う駅で下車して、いつもとは違う場所へと向かっていた。

 その場所とは……。


「このビルに来るのも……しばらくぶりだな」


 いつ建てられたのかわからないくらいの古い雑居ビル。

 かといってレトロだったりアンティークだったりといったような、趣は一切ない。

 ただ単に古いだけ。

 5階建てなのにエレベータもなく各部屋にトイレもついていない。

 そんな不便なビルの5階に、俺の目的地はあった。


「うへぇ……たった5階とはいえ、階段だけで上がるのはけっこう疲れるんだよなあ」


 ようやくたどり着いた5階の事務所。中を見通すことのできない曇りガラスには、『多和泉探偵事務所』というプレートが掛けられている。


「こんちわー。呼ばれたので来ましたー」


 鍵もかかっていない建てつけの悪いドアを開け、俺は中に足を踏み入れる。

 いろいろな資料なのかそれとも単なる紙ゴミなのかわからないようなものが雑然と積み上げられた机の向こうに、俺を呼び出した人物がいる。


「待ってたぞ、助手」

「いやいや、助手はあなたでしょ。たんぽぽさん。っていうか所長はまだ戻らないんですか?」

「ちょっと! その呼び方やめてって言ってるでしょ!」


 机の向こうでプリプリと怒り出した女性こそが、俺を呼び出した人物。

 時々俺がバイト……というか小遣い稼ぎをさせてもらっている『多和泉探偵事務所』の、朝倉たんぽぽさんだ。


「いい名前だと思うけどなあ、たんぽぽって」

「でも私は嫌なの。仕事のときは、ちゃんと名刺に吸ってある名前で呼んで」

「はいはい。利音たんぽぽさんね」

「なんか……妙な含みを感じる」

「気のせいですよ、利音たんぽぽさん」

「むぅ……」

「で、所長は?」


 所長の椅子にたんぽぽさんが座っていることからその不在はほぼ推測できるが、とりあえず尋ねてみる。


「まだ塀の中」

「先月までじゃなかったんですか?」

「もうしばらくかかるって連絡があった」

「大丈夫なんですか? 利音たんぽぽさん一人じゃお仕事回らないんじゃ」

「だから呼び出したんじゃない。素人の悦郎くんでも、いないよりマシかなって」

「あー、帰ろうかなー」

「待って待って。ごめんごめん。ちゃんといつも役立ってくれてるから」


 帰りかけた俺をダッシュで捕まえ拝み倒してくるたんぽぽさん。

 まあ、もとから帰るつもりなんてないんだけどね。


「で、俺に用って?」

「うん。依頼の手伝い」

「今日のターゲットは?」

「ターゲットはね、この写真の子」

「ほうほうほう」


 俺はたんぽぽさんと入念な打ち合わせをしてから、探偵事務所を出た。


 *    *    *


 数時間後、依頼は無事達成される。

 迷子のボルゾイ犬は、川沿いにある材木店に保護されていた。

 高そうな犬がウロウロしてるから、一応保護しておいたとは、材木店店主の刈谷さんの談である。

 助かりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ