9-4 いつものものがないお昼
「お昼〜。ご飯食べようぜ〜」
妙な節を付けながら砂川がそうつぶやき、机をガタガタと移動している。
雨は、昼になってもまだやまなかった。
「っていうかお前、もう食べてるじゃないか」
「これは食前パン」
「なんだその食前酒みたいなのは」
「これを食事の前に食べることで、よりいっそう美味しくランチが楽しめるようになるのだ」
「なるのだって……今思いついただろ、それ」
「まあなー」
雨の日は砂川が若干元気になるような気がするな、などと思いつつ俺は今日の弁当を広げた。
「ごめんね、今日はサンドイッチで」
「なーに仕方ないって」
俺とほぼ同じメニューの咲が、弁当の内容がいつもどおりではないことについて謝ってくる。
別に、咲のせいではないのに。
「え? どうかしたんですか、悦郎さん」
「実は、米を切らしちまってな」
「お米を?」
「ああ」
かーちゃんのところの人たちもいる関係で、うちは常に食材の買い置きはかなりしてある。
肉も野菜も……いや、肉はいつも不足がちか。
あればあるだけ食べるからな、あの人たち。
それでも、これまでほとんど切らしたことのない食材が一つあった。
それが米だ。
とーちゃんの実家がある新潟から定期的に送られてくることもあって、俺も咲もかなり油断していた。
そして新入りの食事当番である鈴木さんは、米の炊き方に容赦がなかった。
まあ、あねさんたちの食べる量を見ていると、炊いたご飯を切らさないようにって気持ちも強くなるわな。仕方がない。
「というわけで、今日は俺と咲もサンドイッチだぞ砂川……って、おい」
「ん?」
パクパクモグモグと、何の断りもなく俺のサンドイッチに手を付けている砂川。
「うん。さすが咲ちゃん。サンドイッチも絶品だね」
「ふふっ、ありがとう」
「個人的にはこれ好き。ポテトサラダサンド」
「中に挟んだポテトサラダも自家製なんですよ」
「へー」
説明しながら、咲が砂川に食べられたぶんの俺のサンドイッチを無言で補充してくれる。
「ったく……」
まあ俺も砂川の昼飯を勝手に食べることもあるしな。そんなに強くは言えない。
「っていうかこれウマ。普通にから揚げ挟んだのかと思ったら違う」
「ちょっとテリヤキバーガーっぽくしてみた」
「なるほど」
「あ、悦郎さん。ソースがこぼれてしまいます」
「しまった」
咲の作ってくれた弁当を食べながら、こぼしそうになったソースを麗美に拭いてもらう。
周囲からチクチク刺さるような視線を感じるがまあしょうがない。
たぶん俺が向こう側にいたとしたら、同じような目で見るだろうからな。
それにしてもこれ美味いわ。




