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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
九日目 雨の日
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9-3 いつもと同じっぽい雨の授業

 

 学校についても、まだ雨は止まなかった。

 というかむしろ、朝よりも降りが強くなってきたような感じがしていた。


「これで夕方になったらほんとに止むのか?」

「さあね。天気予報なんて外れることもあるでしょ」


 モグモグと珍しくどら焼きなどというおやつ的なものを食べながら砂川が答えた。


「そういえば次は体育だよな。どうなるんだ?」

「んー、前の授業のときはサッカーやるとか言ってたけど……」


 着替えのある女子はすでに更衣室へと移動している。

 いつもならもう男子も、そろそろ着替え始めなければいけないような時間だった。

 だが、体育委員の近藤がまだ戻ってこない。

 着替えて校庭に行けばいいのか、それとも教室で待機していればいいのか、迷いながら俺たちは近藤の戻りを今か今かと待っていた(着替えるのが面倒だっただけ)。


「まあ、この降りの強さなら外はないよね」

「だよな。どしゃぶりってほどじゃないけど、サッカーなんかやったら確実にパンツまでビショビショになるもんな」

「帰る直前とかならまだしも、まだ午前中だもんね。午後の授業とか受けられなくなっちゃう」


 そんなことを砂川と話していると、体育委員である近藤が教室に戻ってきた。


「よう近藤。体育どうするんだ? 教室で自習か? それとも女子と一緒に体育館でバスケか?」

「いや……」


 なぜか妙に深刻そうな顔をする近藤。

 ウホウホなゴリラフェイスが、さらにゴリラっぽくなってしまう。


「予定通り校庭でサッカーをやるらしい」

「はあ?」

「おいおい。春日部のヤロウ外の天気がわからないのか?」

「こんなに雨降ってるのにサッカー!?」

「ちょっ、近藤まじかよ!?」


 遠巻きに俺と近藤のやりとりを眺めていたクラスの男子たちが、近藤のその一言で一斉に集まってきた。


「俺もそう言ったんだが……」


 悔しそうに漏らす近藤。

 唇を噛み締めうつむくその姿に、それまで騒ぎ立ててていた男子一同の抗議の声がピタリと止んだ。

 それどころか……。


「いや、近藤お前はよくやった!」

「そうだ! あのポマードバカに常識が通じなかっただけだ!」

「あいつの頭は防水だから、きっと雨がなんなのかわからないんだよ!」

「こうなったら見せてやろうぜ、俺たちのびしょ濡れサッカーをよ!」

「そうだそうだ!」


 ワイワイと勝手に盛り上がっていく男子たち。

 俺と砂川はその姿を、半分に割った栗どら焼きを食べながら眺めていた。


「砂川、購買でパンツって売ってたっけ」

「あったかもしれないけど、それなら角のコンビニまで走った方が確実」

「そうだな」

「っていうか、一個思いついた」

「ん?」


 珍しく砂川が、スマホを取り出してポチポチと誰かにメッセージを送り始めた。


「うちのクラスの男子って何人だっけ」

「えーっと、15人」

「じゃあ30人分でいいよね、1組と合同だから」

「何の話だ?」


 メッセージを送り終わったのか、スマホをしまいながら砂川が答える。


「是枝さんに頼んどいた。30人分の着替え」

「は?」

「これで安心してびしょ濡れサッカーできるよね」

「まあ……な」


 俺は意外な部分でのつながりに毒気を抜かれてしまう。

 まあ、けっこうそばにいること多いから繋がっててもおかしくないけど……。


「っていうかいつ是枝さんとメッセージアプリのIDなんか交換したんだよ」

「ん? 麗美さんが転校してきた初日にクラスのほぼ全員が名刺渡されたよ? なにかあったらご連絡くださいって」

「はあ?」

「たぶん知らないのは悦郎だけ」

「なんでだよ」

「だって悦郎、いつも一緒じゃない」

「一緒なのは麗美だろ」

「麗美さん一緒なら、是枝さんたちも一緒じゃない」

「まあ……そうだけど」

「ほらほら、着替えて校庭行こう。なんだか楽しくなってきちゃった」


 若干納得のいかない部分もあったが、砂川の最後のセリフには同意しかなかった。

 なにしろ男の子は、いくつになってもガキンチョなままなのだ。



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