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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
九日目 雨の日
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9-2 いつもと同じ雨の通学路

 

「いってきます」

「はい気をつけてな」


 かーちゃんに見送られながら、俺と咲は家を出た。

 手には傘。

 雨の中、少しだけ速歩きをする。

 家を出た時間は、ほぼいつもどおり。

 いつもの電車に間に合わないような時間ではないけれども、天気が悪いといつの間にか時間がかかっていたりすることが多い。

 言葉にせずとも、俺も咲も同じように考えていた。


「そういえば麗美さんが転校してきてから、ちゃんとした雨ってはじめて?」

「いやさすがに……あれ、マジか」

「もしかしてものすごい晴れ女とかだったりして」


 相変わらず意味がありそうでまったくないような話をしながら歩く。

 そうしているうちに駅が近づき、大きめの傘をさした小さな背中に咲が気づいた。


「ちーちゃんおはよう」

「ん、おはよう」


 傘ごと緑青が振り返る。

 2人だった俺たちが3人になり、逆三角の隊列を組みながら駅の構内へと入っていった。


「駅の入口にもあれ置いて欲しい」

「ん?」

「ほら、デパートとかの入り口にあるやつ」

「あー、傘袋な」

「違う違う、そっちじゃなくてもうちょっとエコな方」

「エコ?」

「わかった。板の間に傘を入れて水滴払うやつだ」

「そうそう」

「そんなのあったっけか?」

「あったよー」

「わからん。今度探してみるわ」

「ふふっ、雨の日に探さないと意味ないからね」

「あー。だから見た覚えあんまないのかも」

「かもね」


 ザワザワとした雑踏の中、ホームで並び電車を待つ。

 いつもよりもムシムシした感じがするのは、雨が振っているからだけではないだろう。

 傘を差していても若干濡れた衣服が、来ている人の体温で湿気を放出する。

 たぶん今日のラッシュは、いつも以上に不快になりそうだ。


「緑青。傘持っといてやる」

「助かる」


 小さめな身長の緑青は、ラッシュのときにはほぼ人波に埋まってしまう。

 俺と咲でまあまあガードはしているが、それでも朝はどこかに捕まっていないとだいぶ厳しいらしい。

 なので、両手が開けられるように雨の日は俺がヤツの傘を持ってやることが多い。

 俺がいなければ、咲がその役目をする。

 そして、そんな先が白々しく……。


「あれ、私のは?」

「お前は自分で持っとけ」

「ふふふ。ですよね〜」


 などと、わかりきったことわざわざ俺に聞いてくる。

 割りといつもどおりな雨の日のやりとり。

 そんな茶番的な時間の潰し方をしながら、俺たちは電車を待った。

 雨の日は、ダイヤも乱れがちだ。

 それで混雑具合が変わることもあれば、いつもどおりなこともある。

 まあ、そのへんは運次第だな。


「あ、来たよ」

「ほぼ定刻だな」

「ということは、中はいつもどおりかな」


 ところが、到着した電車はまあまあ空いていた。


「あれ?」

「よくわからんが、ラッキーだな」


 雨でちょっとだけ憂鬱だった朝。

 その帳尻を合わせるかのように、いつも混雑している電車が少しだけ快適だった。

 まあそれでも、ラッシュには変わりなかったけどな。




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