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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
八日目 見知らぬ街へ
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8-9 はじめての感想と気持ちの変化

 

「なんかまだ耳がキーンとしてるよ」

「かなり音大きかったしな」


 就寝前、いつものように咲と通話アプリで話す。

 咲の声がいつもよりも少し大きく張っているように聞こえるのは、もしかしたら耳鳴りがうっすら残っているからなのかもしれない。

 っていうか、俺の方もそうなってたりするのか?


「でもすごかったね、ファンの人たち」

「そうだな。あんな風になにかに夢中になれるのって、ちょっとうらやましいよな」

「あの最後のほうで叫んでたのすごかったよね、あいしてるーとか」

「あー。ガチ恋口上って言うんだって、あれ。香染が自慢げに教えてくれたわ」

「もし麗美ちゃんがアイドルになったらあれ叫んであげる?」

「無茶言うな。恥ずかしくてできんわ」

「あははー」


 当然のように、今日の話題はほとんどが若竹のライブに行ったときの話だ。

 そしてその流れで、俺はひとつのことを思い出した。


「そういえば、香染に文句言われた」

「え?」

「なんでファミレス誘ってくれなかったのかって」

「あー、そういうことね」

「すっごい鬼メール来たけど、俺アイツにメアドなんか教えたっけ」

「あ、それ私が教えた」

「は?」

「真朱さんの件があったからさ、代わりに」

「俺のメアドと七瀬の連絡先が交換されたのか……あんまり等価交換っぽくはないな」

「なあに? 自分のメアドにそんな価値があると思ってるの?」


 面白そうにスマホの向こう側で咲が笑っている。

 もちろん逆の意味だというのはわかって言っているのだろう。


「逆だ逆。っていうかアイツが俺に用があるのなんて今日くらいだろ」

「まあねー。また若竹さんのライブに行くなら別だろうけどね」

「誘われたらな。っていうかアイドルオタクの人たちって金あるのな。入場チケット以外にもあんなに物販でお金使って」

「すごいよね。1人でチェキ何回も撮ってる人とかもいたし」

「あれサイン付きで2000円とかするらしい」

「え! 1000円じゃなかったの!?」

「それはサインもトークもなしだ」

「そ、そうだったんだ」


 俺たちは若竹からチケットをもらって入ったから、ドリンク代の600円しか使っていない。

 それで楽屋まで入らせてもらったのだから、実質無料だ。


「そういえばなんか膝と肩が痛いんだけど、そっちは平気か?」

「あー、私も膝痛い」

「けっこうリズムとってゆらゆらしたりしたからな。肩はなんだろ」

「けっこう腕上げてたじゃない。オタクの人たちの真似して」

「いやでもあれくらいで……」


 とはいえ、それ以外に理由が見当たらない。


「そんなに運動不足なつもりはなかったんだけどな」


 自分の身体がなまっているような気がしてちょっとだけしょんぼりしてしまう。


「いつも使わない筋肉だからじゃない? 普段から手を振り上げまくってるなら別だけど」

「まあな。あんなにジャンプしまくることもないしな」

「ふふっ。そうだよきっと。あのファンの人たちは特別な訓練をしてるんだよ」

「ん?」

「え? どうかした?」


 咲と通話しているスマホに、ピロンと1件のメッセージが届いた。


「なんか来た」

「なに? また香染さん?」


 俺もそうかと思いながら、そのメッセージを確認してみた。

 しかしそれは、香染からのグチグチメールではなかった。


「あれ、麗美だ」

「麗美ちゃん?」

「香染が言ってたのに参加してみてもいい気がしてきたって」

「え? それって一緒にアイドルしようって誘われてた話のこと?」

「たぶんな」

「へー。だから麗美ちゃん楽屋の中でいろんなアイドルさんに話聞いてたりしたんだ」

「なんだ? そんな話してたのか?」

「うん」


 あの香染の活動に巻き込まれるってのはちょっと心配だったが、まあ麗美なら大丈夫なような気もした。

 俺が反対するようなことじゃないだろうし、それに影からこっそりと是枝さんたちも見守ってるだろうしな。

 もし麗美に何かあれば手助けしてくれるだろ。


 *    *    *


 こんな感じで、今回の俺たちの土曜日は微妙にいつもとは違う感じで過ぎていった。



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