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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
八日目 見知らぬ街へ
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8-8 はじめてのあとはファミレス

 

「おつかれさまー」

「よう咲、悦郎に麗美も来てくれたんだな」

「まあな。チケットもらったからな」

「すごかったです若竹さん。かっこよくてかわいくて」

「ははっ。そうか、ありがとな」


 すべてのグループの出番が終わったあとは、物販(?)とかいう握手会みたいなチェキの撮影会みたいなよくわからないイベントが行われていた。


「えと……これ俺たちもなんか買ったほうがいいのか?」


 若竹に挨拶だけでもしようとよくわからないまま列の最後尾に並んだ俺たち。

 当然のように、俺たちの後ろにも順番を待っている人たちがいる。


「あー、そうだな。ちょっと待ってくれ」


 そう言うと若竹は後ろにいたスキンヘッドの人となにかをヒソヒソと話し始めた。

 っていうかあの人……。


「悦郎さん、あの後ろにいる方って」

「ああ、俺も気づいた」

「ナンパから助けてくれた人だよね?」


 ひと目見たら忘れられない特徴的なスタイルのいかつい男性。

 スキンヘッドにサングラス、派手なアロハに筋肉質なゴツい体型。

 そして、あの声だ。


「あーん、わかったわ美春ちゃん。じゃああの3人は楽屋の方に案内しちゃうね」

「よろしくお願いします黒川さん」

「任せてちょうだい」


 テーブルの向こうから俺たちを手招きするいかつい人。

 俺と咲と麗美は、軽く顔を見合わせたあと列から離れてその人についていった。


「ちょっと前に会ったわよね、あなたたち」


 関係者意外立入禁止と書かれた扉を少し緊張しながら通り抜け、狭い通路を歩く俺たちにその人が話しかけてくる。


「あ、覚えてましたか?」

「もちろん。ボク、人の顔覚えるの得意なんだ」


 声の高さだけでなく、話し方も独特ないかつい人。

 たぶんスタッフさんなのだろうと思って聞いてみたら、どうやら若竹たちのグループのマネージャーさんらしい。

 そのマネージャーの黒川さんに先導され、俺たちはライブハウスの楽屋に案内された。


「特典会終わったら美春ちゃん来るから、少し待っててね」

「はい、お手数をおかけしてすみません」

「いいのよ。だってあなたたち、美春ちゃんの友達なんでしょ? ボクちょっとうれしいんだから」

「え?」

「あの子、全然昔の知り合いとかライブに誘わないのよ。友達いないのかなって心配してたんだから」

「あー。学校やめるときいろいろありましたからね」

「あら、そうなんだ」


 俺たちがヒマを持て余さないようにするためか、それとも生来のおしゃべりなのかはわからなかったが、黒川さんはよくしゃべった。


「そうなのよ。今日一緒に出てたミーザリリィってグループのマネージャーなんだけど、ボクの同級生なの。昔はすっごい太ってたんだけど、今はガリガリなの」

「へー」


 そうこうしていると、楽屋がザワザワと騒がしくなり始めた。


「すみませーん。着替えるので男性の方は出てくださーい」

「あーん、ごめんなさーい」


 白いひらひらした衣装を着たおそらくアイドルさんが、俺たちの方を見て迷惑そうな顔で言ってきた。


「女の子ちゃんたちはここにいていいから。黒柳くんはボクと一緒に扉の外ね」

「あ、はい」


 俺は黒川さんと一緒に楽屋から出る。

 楽屋の外には、さっき黒川さんが話していた人だと思われる、ほっそりした男性が立っていた。


「おつかれ黒」

「今日は呼んでくれてありがとね、やっちん」


 あだ名で呼び合う2人。

 やっぱりさっき話していた、同級生だと言う別のグループのマネージャさんなのだろう。


「そっちの子は? 見習い?」

「あーん、違うの。メンバーの友達」

「え、それ不味くない? 変に勘ぐられたりしないか?」

「小豆ちゃんとかなら不味いだろうけど、みはるんの友達だから、たぶん大丈夫だと思う」

「あー、あのショートの子な。まあでも、気をつけた方がいいぞ」

「わかった。注意しとく」


 俺のことを話しているのだろうが、その内容の意味がよくわからない。

 とはいえ口出しするようなことでもないだろうと、俺は静観していた。

 たぶんアイドルの活動に関する何かなのだろうし、俺の方になにかあるなら、直接言ってくるだろうし。


「おう、悦郎またせたな」


 そんな感じで楽屋の扉前で男3人たむろしていると、若竹たちがグループ連れ立って細い通路をこちらに向かって歩いてきた。


「え、誰あれ。美春の彼氏?」

「違うっつーの。昔の同級生だ」

「へー、なかなかかっこいいじゃん」

「あのなあ……それファンの人たちに聞かれないようにしろよ」

「ふふっ。わかってるって」

「……」


 若竹のグループのメンバーは、なかなかに個性豊かだった。

 ショートカットの若竹に、若竹とさっき話していたポニーテールの女の子。

 ツインテールでぬいぐるみを抱きかかえ、うつむき加減に歩いているちょっと暗めの子。

 ショートボブで手足の長い、どことなくうちに出入りしているねえさん方を思わせるスタイルのいい子。

 金髪(といっても麗美のようなナチュラルではなく染めているっぽい)ロングの派手髪だが、どことなくおしとやかっぽい感じを醸し出している整った顔立ちの女の子。

 ステージ上ではかなり激しめのパフォーマンスをしていたが、こうして見てみると思ったより静かめな子が多いようにも見える。

 むしろ、香染の方がはるかにうるさい。

 まあ、あれと比べるのが間違っているような気もするが。


「ちょっと着替えてくるから待っててくれよな。てか咲たちは?」


 他の四人を先に楽屋に入らせ、若竹が俺に声をかけてきた。


「あいつらは中」


 と、俺は楽屋の方を指差す。


「そっか。お前だけ追い出されたんだな」


 ニヤッとわかってるぜ、といった感じで笑う若竹。

 そして軽く片手を上げて黒川さんたちに挨拶をしながら、ヤツ本人も楽屋に入っていった。


 *    *    *


 そのあと帰り支度を終えた若竹と合流し、ファミレスでしばらく旧交を温めた。

 ……まあ、コンビニでちょくちょく会ってるけどな。


 ちなみに咲と麗美は、楽屋の中で待ってる間に他のグループのアイドルさんと仲良くなったらしい。

 SNSのアカウントとかを交換し合ったらしいが、俺には秘密だそうだ。

 なぜだ。



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