7-8 いつもにしようと既成事実な夕食
「あれ? 今日は麗美が夕食当番なのか?」
「はい。咲さんはまだ本調子じゃありませんから。お願いして代わってもらいました」
「そうか」
帰宅後、自室で着替えてリビングに戻ると、キッチンでは麗美がエプロンをつけて料理をしていた。
「なにげにお昼の唐揚げ、ショックだったらしいよ」
リビングでかーちゃんと一緒にくつろいでいた緑青が経緯を説明してくれる。
「自分ではいつもどおりなつもりだったんだけどね〜」
キッチンからお皿を持ってきて並べながら、咲がため息をついた。
「でもあれ美味かったぞ? あれでからあげ丼とか作ったら超うまそう」
「ほ〜、そういう使い方もありか。っていうか、味付け自体は失敗じゃなかったと思っていいのかな?」
「いいと思うぞ。唐揚げ単品としてはちょっとしつこい感じだったけど、何かと組み合わせるにはいつもよりいいように思えた」
「ふむふむふむ」
腕組みをしながら、頷く咲。
何かを思いついたような顔をしたり、思案するように視線を泳がせたり。
「あ、でも一つだけ問題があった」
パッと開いた手を口に当てながら、しまったといった感じの表情を浮かべる咲。
どういう問題かと尋ねてみると、苦笑いしながら咲はそれについて教えてくれた。
「実はさ、あれいつもどおりに味付けしたつもりだったから、どうして違いが出たのかがわからないんだよね〜」
「あー、偶然の産物だったか」
「でもまあ味は覚えてるから、そこに近づけることはできると思うんだけど……」
「いやちょっと待て咲。その記憶は、今日の昼の記憶だよな」
「うん」
「それ、明日も同じ味として感じられるのか? 今日の咲の舌はほぼ今日限定じゃないのか?」
「あ……そうか」
「となると、頼りになりそうなのは砂川だな」
「食べ専だけど、料理に関してはすごくうるさいもんね」
「いろいろ試してみて、アイツに全部味見させてみるか」
「あはははっ」
そんな話をしていると、キッチンの方からいい匂いがしてきた。
「おっ、今日は麗美のカレーか」
「くんくんくん……かなりエスニックな感じの匂い。咲に対抗して、独自路線を進んでるみたいね」
「がっはっは。なんでもいいさ。うまけりゃなっ」
リビングにいる腹ペコたちは首を長くしてキッチンの方を覗き込んでいた。
別に咲に対抗してとかではないと思うが、よく一風変わった料理を作ってくれる麗美の夕食。
俺はそれを楽しみに思いながら、咲の入れてくれたお茶で喉を潤していた。




