7-7 いつもとはなんぞやな下校
「じゃあまたね咲ー」
「陽ちゃんばいばーい」
部室を出て校門に向かう俺たちは、部活が終わったあとらしいクラスメイトとすれ違った。
高崎と手をつないで歩く陽ちゃん。
二組の女子とひと悶着あったらしいという噂を聞いたが、どうやら無事に解決したようだ。
「あ、あれ」
「ん?」
校門のそばで、さらに別のクラスメイトと遭遇する。
しかもそのクラスメイトは、傍らに大きな犬を連れていた。
「刈安さん、いま帰るところ?」
「あ、白鳥さんと……えーっと……」
「黒柳な」
「そうそう。黒柳くん。うん。ロンが一緒だから、お父さんに迎えに来てもらおうと思って」
ロンと呼ばれた犬は、ハッハッと舌を出して短く息を吐きながら、飼い主である刈安の顔をじっと見上げていた。
「なるほど、これが午前中噂になってた犬か。でかいな」
それは、俺の予想とはまったく違っていた威容を放っていた。
てっきり俺は、野良犬のようなしょぼくれた犬が校庭に入り込んでいたのだと思っていた。
刈安の飼い犬だという話を聞いてからは、もしかしたら小型犬。でなければ柴犬くらいの大きくても中型くらいにしかならない大人しめの大きさの犬を想像していた。
しかしコイツは……。
「すごいね刈安さん。この子、狼みたい」
しゃがみこんで視線を合わせた咲が、ロンに軽く手を差し出す。
するとロンは行儀よく、その手にポンと自分の前足を乗せる。
「ふふっ。えらいえらい」
ロンの頭を撫でる咲。
そのとなりに立っている刈安は、もっさりとした前髪でほとんど表情がわからなかったが、それでもなんとなく自分の飼い犬が褒められて嬉しいような空気をうっすらと醸し出していた。
「悦郎さん、おまたせしました」
「げっ」
俺たちの後ろから、香染の相手をしていて少し遅れていた麗美と緑青が合流した。
緑青は、ロンの姿を見た途端麗美の後ろに隠れた。
「あ、そうか。ちーちゃん犬苦手なんだっけ」
「え……そうなんだ。ロン、こっち来なさい」
刈安の言うことに素直に従い、ロンは刈安の後ろに下がって緑青から距離をとる。
「大丈夫ですよ緑青さん。大きい犬は、おとなしい子が多いですから」
「うん……わかってるけど、苦手なんだ」
珍しいくらいにビクビクしている緑青。
小さいころになにかあったらしいのだが、詳しい話は聞けていない。
そんな緑青を、麗美は背中に隠すようにしてやっている。
「あ、迎えが来ました。私、行きますね」
ブーンと走ってきた軽トラックが、校門の前に止まる。
運転席に座っている刈安そっくりのおじさんが、こちらに向かって手を振っていた。
「軽トラってもしかして……」
俺はなんとなく興味を引かれて、迎えとやらに向かって歩いていく刈安たちの背中をじっと見ていた。
すると、俺の予想通りに……。
「ロンちゃん、荷台に乗るみたい」
「ああ。まあ、あの大きさだと軽トラの助手席には乗れないよな」
保定のためなのか、刈安自身も軽トラの荷台に乗っている。
そしてロンを抱えるようにしながら、こちらに向かってペコリと頭を小さく下げた。
「またあしたね〜」
咲がぶんぶんと手を振る。
それに見送られるように、ブーンと2人と一頭を乗せた軽トラが去っていった。
「ほんとはダメなんだよな、あれ」
「まあ、そうなんだけどね」
太陽が沈みかけてうっすらと夕日になった町並みに、その去っていく軽トラの姿は妙に絵になった。
そんなこんなで、俺たち4人は学校をあとにした。
* * *
ちなみに駅前のコンビニを通りかかったとき、見知ったヤツの後ろ姿を見かけた。
結局香染のやつ、若竹のこと確認しにきたんじゃないか。
 




