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黒柳悦郎は転生しない 一学期編  作者: 織姫ゆん
七日目 校庭の犬
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7-6 いつものための取引な放課後

 

「レミーっ! 来たよーっ!」


 放課後、相変わらず語尾に「っ」をつけまくりながら香染がオカルト研究部の部室にやってきた。


「どうっ! アイドル研究部に入る決心ついたっ?」


 いつもどおり目をキラキラさせながら、かなりの圧で香染が麗美に迫っている。

 俺は目当ての七瀬がいないのかと部室の外を確認した。


(いないじゃないか)


 外には誰もいなかった。

 香染を呼び出せば、お目付け役の七瀬も一緒に来ると思ったのに。


「でねっ、でねっ。これがいまイチオシのアイドルなのっ。今夜ライブがあるから一緒に見に行かないっ?」


 振り返ると、香染が麗美にライブのチケットを押し付けようとしている様子が目に入る。

 部屋には咲と緑青もいたが、香染の視界には入っていないようだった。


「すみません私、夜は門限がありますから」


 ニコニコと笑顔を浮かべたままで、やんわりと香染の誘いを断っている麗美。

 門限っていつもわりと遅くまでうちにいるじゃないかと思ったけど、もしかするとそれは除かれているのかもしれない。

 なにしろ、一度はうちに泊まりに来たくらいだからだ。

 こちらでの麗美の生活を取り仕切っている人(確かばあやさんだったか?)的には、うちはすでに麗美の家と同じような扱いなのかもしれない。

 許嫁云々というのも、強く拒絶したりもしていないわけだしな。


「悦郎、あの話するんだよね?」

「そのつもりなんだが……七瀬来なかったな」

「七瀬さん、放課後は忙しいみたいだよ。生徒会のお仕事もあるみたいだし」

「ああ、そうか。四六時中アイツの面倒みてるわけにもいかないのか」


 俺と咲と緑青は、ヒソヒソ……という程でもなかったが、小さな声で香染や七瀬のことについて話していた。

 俺の今日の目論見としては、香染を呼び出して一緒に来た七瀬に査察について聞き、どうすればうちの部が廃部にならずに済むかをアドバイスしてもらうつもりだった。

 最初は裏取引的なことも考えたが、緑青によればそういうのはあの生徒会長は一番嫌う手段らしい。

 それよりも真摯な態度で廃部になってしまう条件などを聞き出して、それをクリアするにはどうしたらいいのかを相談した方がいいとか。

 咲の方も緑青のその提案に賛成していた。

 七瀬真朱という女子のことは俺はよく知らなかったが、なんとなく聞こえてくる噂から判断すれば2人のアイデアに乗るのが一番正しいような気がしていた。

 そして、今日はそのために香染を呼び出したのだが……。


「わかったわっ。それじゃあ、日曜日の午前中っ。それなら、レミも一緒に行けるでしょっ!」


 香染は相変わらず、麗美を口説き落とそうとあれこれがんばっているようだった。


「忙しいとこ悪いが、ちょっといいか香染」

「ダメっ」

「あのなあ……」

「香染さん。少しでいいので悦郎さんの話を聞いてあげてくれませんか?」

「わかったわっ!」

(おいおい……)


 取り付く島もなさそうだった香染の態度が、麗美のひと言でまるっと入れ替わってしまう。

 その変わり身の速さは呆れてしまいもしたが、ある種の尊敬の念のようなものも同時に抱いてしまった。


「でっ! なんの話っ?」

「生徒会の査察の話、聞いてるだろ? お前のアイドル研究部も、やばかったりするのか?」

「大丈夫よっ! だって私、こんなに一生懸命活動してるものっ!」


 自信満々の香染。

 確かに香染は、かなり熱心に麗美をアイドル研究部に誘ったりはしている。

 しかしながら、それは本当に部の活動と言えるのだろうか。

 部の本来の活動と、勧誘活動は違うはず。

 であれば、アイドル研究部も生徒会の査察の対象になっているのではないだろうか。

 そのへんを俺は、香染にも理解できるように噛み砕いて説明してみた。

 説明してみたつもりだったが……。


「だーいじょうぶよっ。あんたって意外に心配性なのねっ」


 まるでお話にならなかった。

 俺としては同じような弱小部として危機感を共有してもらい、そこから七瀬の情報引き出してどうにか対策をとれないか……なんて風に思ったのだが。


(仕方ない。奥の手と行くか)


 俺は準備しておいた、プランBを実行することにした。


「まあな。心配性だから、いろいろ準備しておきたいんだ」

「準備ってなにがよっ」

「うちはそんなに活発な活動してないからな。どうすれば生徒会の査察に引っかからないのか、七瀬に聞いてみたかったんだ」

「ふーん」


 予想通りというかなんというか、香染は俺の話にはまったく興味がないようだった。


「でだ。七瀬と仲がいいお前に、そういうことを聞いてきて欲しかったんだが、もちろんただ頼めばお前が首を縦に振ってくれるとは思っていない。情報には情報ってことで、お前が興味をもちそうなアイドルの情報を仕入れてきたんだが……」


 ずいっと香染が俺の方に身を乗り出してきた。


「その話、興味あるわっ」


 まさに入れ食い。

 香染の食いつき方は、まるで釣り堀の魚だった。


「漆黒のキャンドルってアイドルなんだけど……」

「黒キャンっ! なになになになになにっ! どんな情報っ! つながりっ!? 分裂っ!? なによなによなになによっ!?」


 香染の言っている言葉の意味の半分もよくわからなかったが、それでも俺の思っていた以上に若竹に関する話は香染にとって魅力的だということがわかった。

 俺は慎重に交渉を進めていく。


「まあ待て。さっき俺は言ったよな。情報には情報だって」

「そ、そうだったわねっ。それで、真朱の何が知りたいのっ? スリーサイズっ? 初恋の相手っ? いまだに1人でお風呂に入るのが怖い話っ!?」


 もしかしてとは思っていたが、こいつ駆け引きとかこれっぽっちもできないやつだ。

 このままうまく誘導するだけで、知りたいことは全部聞き出せるかもしれない。

 ……なんてことも思ったけれども、そこまで俺は悪党ではない。


「そういうことじゃなくってな。俺が知りたいのは……」

「ふむふむふむっ」


 そして俺は、七瀬の連絡先をゲットすることに成功した。

 とはいえそれは、咲のスマホに登録される。

 いくらなんでも勝手に男に教えるわけにはいかない、というのが香染の言だった。

 基本ハチャメチャな香染に意外と常識があったことに俺は驚いた。

 そして、ヤツにとっては俺の方が常識のない人間と映ってしまったらしい。


「あのねえ……そんなアイドルのプライベート勝手に売り渡したりしたらダメに決まってるでしょっ? 今日のことは、私聞かなかったことにするからっ。あんたも、これ以上言いふらしたりするんじゃないわよっ?」

「お、おう」

「まったく……ステージのこととそれ以外のことはちゃんとわけなきゃダメなのっ。アイドルにだってプライベートは必要なんだからっ。あんた、それくらいのこともわからないのっ?」

「いや……友達だからいいかなって。それに、本人も……」

「そういうやつがわけのわからないデマを広めたりするのよっ。もしそれがストーカーみたいな厄介なファンに知られたりしたらどうするのよっ」

「それは……そうか。そういうやつもいたりするのか」

「まったく……これだからニワカはっ」

「……」


 ともかく、これでなんとか生徒会長である七瀬とつながりを作ることはできた。

 ここから先のやりとりは全部咲におまかせだ。

 聞くところによれば、生徒会長は男子に対する態度の方が女子に対するそれよりもかなりキツいらしいからな。

 交渉するなら、咲の方が適役だ。




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